二章:開業

第十八話 病弱美少女、開業

「いらっしゃいませー!」

「あ、あの……!ママにお使い頼まれてて……薬草と、あとお鍋……」

「はーい!アメちゃん、あの子案内してあげてもらえる?」

「分かりました!」

「マイ様、先程買い取った戸棚ですが……」

「うーん……あ、観音開き外して陳列棚に使っちゃいません?食器とかの方で」

「かしこまりました」


 開店からもう1時間。開店記念セールで集まった人で賑わう店内で、俺達は忙しく動き回っていた。最初は普通の、物を預かって金を貸す感じの質屋になる予定だったのだが、これ普通の雑貨屋兼ねたらもっと稼げるんじゃないかということで急遽路線変更。ポケットモンスターのフレンドリーショップのような、質屋業務もやる雑貨屋としてオープンすることになった。

 店内には母親からのお使いにやってきた少年や、お散歩途中の老婦人、学校用品を買いに来た学生グループ、余った冒険用の道具を売りに来た若者など老若男女。それに俺達は上手く役割を分けて対応する。俺とエメリーが会計で、アメが接客でノアが買い取り。買い取りは普通の買い物客と比べると少ないため、ノアには時々接客の方にも回ってもらっている。


「ねえマイちゃん」

「なんです?」

「いや、めっちゃお客さん来るなぁ、って」

「そうですね。……多分質屋に拘ってたらここまで来なかったと思います」

「そう?」

「はい。知っての通り、この辺は色々と買い物できるような街からは離れている割に、いわゆるファミリー層が多いんです。魔法学校に通うような階級じゃなくて、ごくごく普通の一般家庭。そうなると、多分質屋とかよりも雑貨屋とかの方が需要が高いんです」

「あ、言われてみればそうだ。確かに子供連れは近所で買い物済ませたいよね……」

「そういうことです。ちょっと需要を見失ってましたね」

「いやあ、危なかったわー」


 俺達は顔を見合わせて笑う。結構広めの田舎のコンビニくらいの店内には生活雑貨や家具なんかがメインで並び、現状ではどっちかというと質屋がおまけ。無論、将来的に収益の柱となるのは質屋を起点とする金融業だが。それでも第1段階は地元の雑貨屋さんからである。

 そしてまた少し話していると、エメリーが「マイちゃん、あの子」と俺の肩を叩く。先程までアメが対応していた子が会計の方へ歩いてきていた。「私やりますね」と返すと、彼女は「よろしく!」と親指を立てた。


「こっちどうぞー」

「……っと、これ、おねがいします!」


 そう言って少年が差し出したのは中に薬草の束が入った鉄製の手鍋。俺は付いた値札を一瞥し彼に伝える。


「1枚10ゴールドの薬草20枚と300ゴールドの手鍋一つなので、合計500ゴールドです」

「えっと……どうぞ!」


 首にかけた巾着袋から100ゴールドの銀貨を5枚取り出す彼。俺はそれを直接受け取り、確かに5枚あることを確認し直す。そして俺は銀貨をノアお手製の鍵付きの木箱に放り込み、手鍋と薬草を少年に手渡す。


「どうぞ。……気をつけて持って帰って下さいね」

「うん!ありがとう、お店のお姉ちゃん!」


 「ばいばーい!」と手を振って店を出ていく彼に、俺も思わず手を振り返す。そして「ふふっ」と思わず笑い声を漏らした俺に、エメリーはニヤニヤしながら話しかけてきた。


「あれれー?どうかしたのマイちゃんー?」

「いえ、別に。まだ2時間もやってないのに「雑貨屋開いて良かったなぁ」ってなっちゃってるだけですから」

「あっはは、でもあたしも同感ー!誰かに「ありがとう」って言われるの最高だもんね!」


 「別に私そんな善人じゃないんですけど」なんて言いながらも、俺は笑みが抑えられなかった。


◇◇◇


「えっと……あ、あった〜!」


 流石にこの時間帯は人も少し少なくなってくるかなといった感じの昼時の12時半。見覚えのある人影が入口に見えた。そして同じくそれに気がついたらしいノアが買い取ったばかりのカトラリーを箱に片付け直して彼女の方へ歩いていった。


「ようこそ、ミノさん」

「あ、元気そうで何よりですノアさん〜」


 先日のオークションでお世話になったミノだった。彼女は差していた日傘を閉じると、ふわふわとした髪質のセミロングヘアを耳にかけ直し、店内に入ってくる。


「今日はどうしてこちらの方に?」

「ノアさん達がお店を開いたって聞いたので、ちょっと豪遊しようかな〜って思いまして〜。今の私、そこそこお金持ちなので〜」

「お金持ち……ボーナスでも出たんですか?」


 ノアの問いかけに「それもあるんですけど〜」と答えながら商品の椅子に腰掛ける。そして気を利かせたアメが淹れてきた紅茶を受け取って彼女は語り始めた。


「ほら、この前のオークションでノアさん達大暴れしたじゃないですか〜」

「大暴れ……確かにしましたね。マイ様とエメリー様が」

「それで余りにも落札価格が上がりまくってしまったので上の方から調査が入りまして〜。あ、私もそのとき内部告発したんですけど〜。その結果なんですけど、ガレオン商会のロイさんとあのとき司会をやってたジョーンズさんがまとめてお縄になったんです〜。それで今は私がオークション部門のチーフになっちゃった上に内部告発込みでボーナスまで頂いちゃったので〜」


 相変わらずほわほわした感じで話し続ける彼女。取り敢えず要約すると、出世した上にボーナスまでもらってウハウハらしい。「取り敢えず気に入ったのでこの椅子頂きます〜」と俺は渡された5000ゴールド、1000ゴールド金貨5枚をブラウスの上から羽織ったカーディガンのポケットにしまい込む。


「う〜ん……せっかくだし新居の家具全部揃えちゃいましょうかね〜」

「毎度あり、です」

「この辺って貸し馬車屋ありますか〜?」

「えっと、通りを右に行った4軒目くらいに……あれ、あそこだよねマイちゃん?」

「あれ、その隣じゃないですか?」

「……いや、4で合ってるわ」

「じゃあ借りてくるので少々お待ちを〜」


 そう言って大振りに手を振って出ていくミノ。「そんなに公務員って給料出るんだ……」とか考えながら俺はその背を見送った。


◇◇◇


「……以上130点、合計45万5200ゴールドになります。……あー疲れました……」

「……おつかれ、マイちゃん……」


 なんとか商品を数え、馬車の荷台に積み込み終えた俺達。まさかアメが肉体労働要員としてやれるとは……なんて考えながらダウンするマイ・アーロトスとエメリー・フォーエストのクソザコナメクジコンビ。ぜえ、ぜえと息を切らす音が響く中で、ノアとミノは「今度宅飲みとかどうですか〜?」なんて話している。結局俺もエメリーも成人したからと言って酒や煙草に手を付けることはなかった。いや、俺は健康上の問題込みだが。


「じゃあ失礼します〜」

「次はVIP客で歓迎してあげますよ」


 そしてなんやかんやと買い物に時間をかけた結果、本日最後のお客さんとなっていた彼女と並ぶ馬車を見送ったのとほぼほぼ同時に日が暮れる。俺達は店の中に戻り、初日の売り上げを調べ始めた。

 ノアの能力で箱に入った金貨銀貨銅貨をバーッと数え上げた結果、本日の売り上げは200万5630ゴールド。エメリーの試算が150万程度だったから相当にミノで押し上げられたのが分かる。それでも大成功と言える結果に、俺達は両手を上げて大はしゃぎした。

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