第十六話 病弱美少女と再会

「……暇ですね」

「ねー」


 あの初陣たるオークションの後、一泊して帰ってきた俺達。そして一晩なんやかんや一番良く眠れる自宅のベットで熟睡すると、早速その翌日から空き店舗大改装が幕を開けた。

 業者を呼んで屋根を張替え、ペンキを塗り直し、壁板やら床板を打ち直す。トンテンカンカンというオノマトペが見えそうなほど軽快、それでいて手際の良い作業を俺とエメリーは奥にちょこんと座って眺めていた。何故か?簡単な話だ。二人とも、完全な戦力外だからである。片や平均体温35度台、学校生活最後の方は体育見学だった年中冷え性の病弱美少女、片や50m11秒よりのギリギリ10秒台、跳び箱4段で学生生活を終えたNo more肉体労働ガール。プロの大工に混じって手伝えるような人材ではないのである。ちなみにノアは本職に混ざってバリバリ釘を打っている。あいつ完璧で瀟洒な従者かよ。

 

「マイちゃんさぁ」

「なんです?」

「私達それなりにお勉強とか魔法とかは出来たわけじゃん?」

「ですね」

「……ちょっとくらい、筋トレとかもするべきだったっぽくない?」

「……否定はしません」


 そう、俺には一つ悩みがあった。魔法の汎用性の低さである。無論、転生当初はこういうのによくありがちな、初めてなのに超火力ドーン!みたいなのを想像していたが、冷静になるとそういうのってめちゃくちゃ不便なのである。

 例えばこの世界での最も多い火属性魔法の使い道はかまどに火を入れることだし、水属性魔法は水汲みを楽にするくらいだし、風属性魔法は掃き掃除の助けになるくらいのものなのである。多少火力が高くたってゴミをまとめて燃やせれば十分だし、水車を自力で回せれば万々歳。ここに来て俺はスペック持て余し気味問題に衝突していたのだ。スキルは便利なこと極まりないのだが、それでも例えるのなら「道具」とかに過ぎない上、俺はあまり無双ゲーみたいな感じのやつが苦手なことにこちらに来てから気がついたためあまり乱用しないように意識している。セルフ縛りプレイである。そんなこんなも相まって、あんまり俺の人生はチート感が強くない。

 要は何が言いたいのかというと、割としっかり病弱美少女しているのである。


「お疲れ様です、皆さん」

「おつかれさまっしたー!!」

「おつかれさまでしたノアさん!!またなんかあったらすぐ呼んで下さい!!」


 作業の中ですっかり打ち解けていたノアと作業員達。「知り合いですか?」と尋ねるが「いえ全くの初対面です」と返ってくる回答。俺もうこいつのこと分かんないよ。なんか慕われてたし。

 そして彼らが帰っていき、改装した店舗には俺達3人だけ。入口からは少し傾いた日が差している。そして時計を見て、「あ」とノアは呟いた。


「そろそろ夕飯の買い出しに行かなければ。お二人共、今晩は何にいたしましょうか?」

「うーん……あ、クラムチャウダーとかがいいです」

「さんせー!」

「ではそのように。行ってきますね、マイ様、エメリー様」

「いってらっしゃい、ノア」


 そう言って俺達は並んでノアを見送る。「そろそろ家の方戻りましょうか」なんて言いながら二人で持ち込んだ荷物なんかを片付けていると、ノアが出てから10分くらいして「やっば」とエメリーは少し目を見開いた。


「どうかしました?エメリーちゃん」

「いや、ちょっと買わないといけない本あって……あ、別に今日買わないとって義務なわけじゃないんだけど……」

「なら日が沈む前にひとっ走りしてきたらどうですか?」

「あ、いい?」

「はい。私は先に帰ってますから」

「マイちゃんありがと!」


 「いってきまーす!」と彼女は50m10.8の脚で駆け出していく。俺は再びその背が消えるまで見送ると、カーディガンを羽織って1人帰路に着いた。


◇◇◇


 部屋で1人、窓から吹き込む風を浴びていると、チリン、と玄関の呼び鈴が鳴った。帰ってきたんだろうか。ノア?エメリー?いや、二人なら呼び鈴は鳴らさない。じゃあお客さんだ。


「はーい、少し待ってください」


 椅子にかけていたカーディガンを羽織り直し、ルームシューズを履いて俺は玄関の方へ向かう。


「何かご用で──」

「お久しぶりですっ!!」


 玄関の扉を開けるなり、お客さんだと思っていた少女は俺に思いっ切り抱きついた。俺は多分、過剰なくらいに目を見張っていただろう。目の前の光景を疑いっぱなしだった。

 幼さの残った中学1年生みたいな小柄な少女。見覚えがある、というか流石にあれだけのことがあれば忘れようがない。なんていったって、彼女こそが──。


「あのとき以来ですね、栄一郎さんっ!!」


 俺を転生させた、神様少女なのだから。

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