はなさないで~作文の授業

奈那美(=^x^=)猫部

第1話

 卓人は、原稿用紙を目の前に悩んでいた。

今日の国語の授業は作文。

 

(なにを書いたらいいんだろう?)

漢字の書き取りはできる。

文章を読んで、内容についての質問に答えることもできる。

テストの点数は満点ではないけれど、そこそこの点数が取れていた。 

 

 ただ、作文だけは苦手だった。

カツカツとチョークの音を立てながら、坂井先生が黒板に文字を書いた。

『はなさないで』

「はい、みんないい?今日は『はなさないで』という言葉を使って文章を作ってみましょう」 

 

 「え~?」という声が教室のあちこちから聞こえた。

「短くても長くてもいいけれど……『はなさないでと言った』というのはダメ。主語と述語は必ず入れること。そうね、短くても五十字はこえてね。原稿用紙の二行と半分以上は書くこと。時間は二十分でそのあと発表してもらうよ」

 

 隣の席からも後ろの席からも鉛筆で文字を書いたり消しゴムで消したりする音が聞こえてきた。

卓人はだんだん焦ってきた。

 

 (はなさないで……なんて書いたらいいんだろう?)

気持ちばかりが焦って、何も思いつかない。

はなさないでって、どういうときにつかったっけ?……あ!

迫る時間に、卓人は鉛筆を走らせた。

 

 『おかあさんは、さいきん太って、おとうさんからおやつをたべるなといわれました。でもきのう、ドーナツをたべているのをみました。おかあさんはわたしに、おとうさんにはなさないでといいました。』

クラス中が笑い声で満たされた。

先生も笑っている。

 

 『ぼくのいえでは犬をかっています。さんぽにはおとうさんと行きます。たまにリードをもたせてもらうときに、おとうさんはリードははなさないでねと言います。』

「上手に書けたね」先生が褒めて、拍手が起こる。

 

 卓人の番が来た。

『このまえ、ぼくのうちにおばあちゃんがきた。おばあちゃんはいえでお花をつくっているらしい。きてすぐにおばあちゃんが、ここは花さないでね、さびしいわといった』

教室はシーンとしていた。

 

 

 

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

はなさないで~作文の授業 奈那美(=^x^=)猫部 @mike7691

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ