walk the road
高村千里
walk the road
あの兄弟と出会ったのは、今から十五年くらい昔のことだ。
私の四つ年上の兄の等と、同い年の弟隆寿は、私が五つの年に、隣の空き地だった場所に引っ越してきた。いつも遊び場にしていたその空き地がなくなることが寂しくて、私はまだ家の土台を組んだばかりだった頃から、たびたび隣へ出かけては様子を見に行っていた。
大人に好かれた私は、たびたび訪れる姿を可愛がられるとすぐに、 彼らの息子たちと交流を持つことになる。
幼い私が憧れや関心を向けていた先は、決まって兄の等のほうだった。少し目尻が下がった細腕の少年は頭が良くて、何をするにも光るセンスがあった。そんな等が、私の一番の味方だった。
隆寿は何をするにも甘ったれで、誰よりも先に泣くような少年だった。悲しいことに私も天性の泣き虫で、唯一違ったのは負けず嫌いな所くらいだった。だから隆寿と喧嘩をすれば、泣きたいのを我慢して、隆寿が泣いてしまうまで絶対に泣かないような頑固な子供だった。不器用でへっぴりごしの隆寿も同じように、兄の背中を付いて回った。
近所に歳の近い子供がいなかったから、三人、家同士が仲が良いのも幸いして、家族同然に育てられた。
けれど、私たちのその対等な関係は、結局ずっとは続かなかった。きっかけは、私だったと思う。
顔も性格もそれなりで悪くなかった二人の男兄弟に挟まれた私は、他の同級生たちよりもだいぶ早く、思春期に突入したのだ。それで当然のように、だらしなく、私は等を好きになった──。
四つ年上の等もその頃、興味がとんと薄かった女の子を意識し始めて、もれなく私が中学生の時、当時高校生だった等からの告白で、とうとうお付き合いを始めたのだった。
置いてけぼりをくらった隆寿が、遅れて思春期に突入した頃、隆寿はぴたっと張り付いて離そうとしなかった等との距離を置き始めた。心配した私を見て親たちは、男兄弟では良くある事だと言っていなしたりした。
等は、とにかく薄い人格だった。紙とか空気とか、そういう薄さではなくて、人間として光が煌めく一方で、木陰みたいな光彩の影がずっしりと大きくて恐ろしいくらいに思っていた。男性としては細身の体の、いったいどこにそんな重さを隠しているのだろうと。けっして体が弱いとかではなかったと思う。適度に焼けた平たい胸から広がる、気持ち良く割れた腹筋や二の腕を見ていた。
私たちの地域は、田舎の中の田舎のような所で、電車で通える距離に小学校が二つと、中学高校が一つずつしかなく、人数も他に比べたら少なかった。
中学二年生の私と隆寿は、小学校で仲が良かった先輩からの誘いで、学校が力を入れていたバスケットボールチームに所属していた。
監督に目をかけられ、部活終わりに指導を受けるために、私は体育館に残ってストレッチをしていた。夏の真っ只中の季節にしては涼しい日だった。
ふと顔を上げると、小綺麗に光る床に、片付け忘れられたボールが転がっていた。私は立ち上がりかけた時それが一つだけじゃないことに気がついて、最初に見つけたボールを拾う手を止める。
これは。
「またか」
高い声がして振り向くと、手にテーピングをした隆寿が、ジャージ姿で立っていた。隆寿は二年生に入って最初の練習試合で、相手の選手と派手にぶつかって、手を骨折していた。もうだいぶ治ってきていて、だいたい手は問題なく動くのだが、骨折前の感覚を取り戻すのに手間取っている。
隆寿は今日病院に行っていたから、帰りにわざわざ学校へ来たらしい。
「一年生が片付け忘れたんだと思う」
私は明るい口調で声をかけたが、隆寿はあからさまに剣呑な顔をした。隆寿は小柄ながらも、去年県の選抜に選ばれた選手だった。
「なめやがって」
私たち二年は、初めて持った後輩の育成に手を焼いていた。部長になった隆寿との折り合いが特に悪く、この前も厳しく叱ったばかりだった。隆寿も隆寿で、以前のようにバスケが出来ない歯がゆさで、最近はいらついていることが多い。
「まだ仕方ないよ」
いなすように言うが、ボールを手に取った隆寿の表情を見る限り、効果は期待出来ないらしかった。
肢体を猫のように伸ばした隆寿がゴールをめがけてシュートを放つ。ボールは放物線を描いて飛ぶが、ゴールにはじかれ、盛大な音を立てて落ちた。五本打って入ったのは、ものの二本だった。
流れるようなフォームから放たれる完璧なシュートを、悲しいほど見知っている。今のシュートがどれほど落ち込んでしまっているのかも、本人の気持ちも、手に取るように分かる。黙々とボールを拾っては打つを繰り返す彼の汗ばんだ細い背中は、熱意を感じる一方で痛々しさを背負っていた。
帰宅する頃には辺り一面暗くなっていた。自転車を漕いで自宅に帰ると、居間に等が座っていた。時々、こういう風に前触れなく彼らは家に来ることがあるのだが、等と恋人同士になってからは、来ることを事前に伝えていてくれればもっと早く帰って来たのに! と思ってしまう。
「おかえりともえ」
等は高校のブレザー姿で、麦茶を注いだコップを飲み干してから立ち上がった。青みの強い紺色のブレザーは、ここの地域の子供たちのほとんどが通うことになる進学校のものだ。
天井にさがっている電球の光が等の高い身長にさえぎられて、部屋全体がぼんやりと暗くなった。私は等がすぐに帰る気配を察して、制服姿で突っ立ったまま黙ってなりゆきを見つめていた。
等が台所に立つ母に言った。
「おばさん、これ、ありがとうございました」
会釈した等の手にはメモ用紙が一枚握られていて、ボールペンの数字が並んでいた。
「役に立てたらいいんやけど」
小首を傾げた母に、もう一度等が会釈した。
事件が起こったのは、翌週の部活中だった。暫く涼しい日が続いたので、一層厳しい練習メニューを監督が組んでいた。隆寿の手の不調は未だ続いていて、ストレスもピークだったのだろう。監督が用事で席を外して、代わりに練習を引き継いだ隆寿は、練習を漫然とこなす一年生の態度に、声を荒らげた。
「やる気ないなら帰れ!」
「隆寿っ、やめなよ」
私は隆寿に向かったが、直感で、咄嗟に駄目だと思った。隆寿の言葉は、叱ることとはまるで違う、ギラギラした語気の鋭さだった。
一年生の中で一番背の高い男の子が前に出てきて、
「やる気あります」
と、隆寿に向かった。
「じゃあ、この練習はなんなんだよ」
正論だった。けれど彼の怒りには私的な感情もあるのだろう。当人ですらコントロールを失うような生の怒りに当てられると、人は心に備えた刃物を抜いてしまう。
「上手くないくせに……」
張り詰めた体育館に、誰かの声が、ぽとりと落ちた。
隆寿が握りしめた手が大きく揺れるのを見た。
隆寿は上手くないわけじゃない。一年生が、怪我をしてからの隆寿しか知らないだけで、同級生や監督は、怪我をする前の彼を知っている。そして何より彼自身が一番、自分の能力を知っているに違いなかった。
「隆寿は」と言いかけた。
「──西田」
唐突に、芯の通った声が真後ろから聞こえてきた。声のした方向を振り向くと、監督が顔を険しくして立っていた。
「今日は練習から外れろ」
私は悲痛な声をあげたが、隆寿は俯いたままで何も言わない。
無言のまま出て行って、その日の練習が終わっても、彼は戻って来なかった。
帰り際、部室を出ようとして、足を止めた。ここの所のぐずついた天気のせいで、部員が体育館の軒下で雨宿りをしていた。そこで聞こえてきた会話に、私は何も言えなくなってしまった。
胸に何か詰まった感じが、家に帰ってからもずっと続いていた。
外の雨音を聞きながら、何もする気になれず、ただ時間だけを潰すことに執心していた。隆寿の気持ちを想像するだけで痛い。目に入るもの全てに心が痛くなった。私は自室に閉じこもって、布団の上で身体をじっと縮めていた。瞼を閉じると、一階の母の声がよく聞こえてくる。誰かが家に来ているらしい。話している声は段々早口になって、やがてふっと途切れた。
騒々しく足音が鳴って、二階の部屋の前で止まる。
驚いて瞼を開けると同時に、部屋の襖が豪快に開いた。
「ともえっ、下に降りて来なさい!」
一階に降りると、母と、等がいた。
さっき話していた人は等だった。時計の針は八時を指していた。
「今日は隆寿くんと一緒に帰って来ぉへんかったの?」
開口一番母がそう言った。触れて欲しくないことだったから、私は黙って頷いただけだった。
隆寿は私が帰るより早く帰ったはずだ。けれど、等の方を見ると、彼は緩く首を振った。
「まだ帰って来てないんだ」
ここら辺は学校の付近に比べてひと気が少なくて、辺りもすぐに暗くなっしまう。母親が心配していて、この家に聞きに来たのだと告げた。等たちの心配はもっともだった。
「ともえもわからないか」
「とりあえず探さんと」
等のお母さんが自宅の周りを歩いて探して、もしかしたら……と私の母が等と車で学校まで行くことになった。バタバタした騒ぎに乗じて、私も車に乗り込んだ。
もし、どこにも居なかったらどうしようと考えてしまう。車内で、そんな考えに震えていた。近くにいたのに、何一つ気の利いた言葉をかけることが出来なかった。体育館の軒下で隆寿の陰口を聞いたのに、何も言うことが出来なかった。隣に一緒に座る等の横顔を見て、何かがぷつりと音を立てて切れた。等の顔がふいと私を向いて、綺麗な顔がふと優しくなる。
「泣かないで」
外の光に照らされて、肌色がぼやけて瞳いっぱいに広がった。
「大丈夫だから……」
シートの上で手と手が重なって、胸のつかえがぽろぽろと溢れた。
学校に着いて体育館まで行くと、明かりが煌々と照っていた。マネージャーたちが引退した三年生へのプレゼントを作るために残っていたらしく、私に気がついた一人が傘を差して近寄って来た。遠目からは分からなかったが、彼女は顔見知りで、バスケ部の二年生マネージャーだった。左右に結んだ髪が特徴の少女は、私と目を合わせると、目に見えて瞠目した。
多分、少し前に泣いていたことを悟られたのだろう。
どうしたの? と不安顔で尋ねられて、練習中の事も分かっているだろう彼女に答えると、隆寿は呆気なく見つかった。
帰りの車の中で、助手席に乗った私は、サイドミラー越しに兄弟の様子をただ眺めていた。
私よりもひどく泣き腫らした目をした隆寿と、弟に暴言が吐かれたのを知って、少しばかり物騒な顔をしている等が、となり合ってでこぼこに並んだ様子が愛おしかった。
あの事件からすぐの、暑い夏の夜中だった。私の耳元でブルブルと振動し始めた携帯電話のディスプレイが、等の一文字を暗闇の中に浮き上がらせた。
「もしもし」
今まで等がこんな時間に電話をしてくるなんてことはなかった。真夏だったというのに、不安がむくりと顔を出して心臓の奥がしんと静まった。妙に落ち着いていたからか、そこはなだらかに冷えた。むしっとした部屋の夜闇でさえも、私の中の不吉な予感を温めてはくれなかった。
近くの田圃に喧しく息づく蛙の声が聞こえる。
「ともえに話したいことがある。今から来て欲しい」
彼の声音は、夜に馴染んで静かだった。
「わかった」
部屋着から着替え自室の戸を開けて、そこで私はあっと声を上げた。茶の間の明かりが滔々と照っている。両親が起きていた。私たちは家族ぐるみで仲がいいから、等の両親から何か聞いているのかもしれなかった。
私が起きてきたことに気がついた父親は、
「話があるようだから、早く行ってあげなさい」
と言った。
隣に着くと、申し訳なさそうな顔をした西田家の両親が「ともえちゃん、急に呼んでごめんなさいね」と言い、二階の彼の自室に通された。それで、彼から大学の話をされた。
彼の苦悩の原因は私だった。
志望校の関西の大学へ、私たちの北関東から通うのは難しく、関西にアパートを借りて住むしかなかった。それはそのあいだ、私たちは会うことが出来ないということに他ならなかった。
関西生まれの私の母親には、その大学に通っていた友人がいて、等は何度かその人に相談をしていたらしい。
高度な学習を諦めて近くの大学へ進むか、私と、家族と離れて高度な学習を受けるのか。
その夜私たちが出した答えは、後者だった。
彼が関西にある大学に通い始めて一年半後のことだった。
等のいない生活に慣れた、私がようやく高校生になった春に、突如として等は此方へ帰郷してきた。
迎えに行った駅で見つけた等は少し髪が伸びていて、此処を出て行った時より大人っぽく見えた。自分より四つも年上なんだから当然なのだろうと思うけれど、何気ない仕草にぐっと目が惹きつけられた。大人になるというのは、こういうことなのだろうかとも思った。一つ一つの仕草が洗練されて尖っていた。
春に吹く田舎の柔らかなキラキラした風が、私と等の間に吹いて流れた。畑に麦がたわわになって、サラサラと音を鳴らした。
砂利が敷き詰められた西田家の家の前で、自転車に乗った隆寿が、タクシーから降りた等を見てふいと顔を逸らした。
「どっか行くのか」
等がそう声をかけると隆寿は無言なので、その様子を見て私はにこにこと笑ってしまった。
「等のこと、駅へ出迎えに行くために決まってるじゃない。少し遅かったけど」
一年半前、電車の見送りにも来ないほど反抗期真っ盛りになって、兄に対する隆寿の強い反発が、離れたことで軟化してきた。大好きな兄弟が仲良しに戻る兆候が嬉しくて、頰が緩むのを止められなかった。
隆寿の顔が面白いようにひしゃげていく。
「ともえってば気持ち悪~」
その日の夜、西田家に行って、彼の部屋で二人で話した。
「急に帰るってメールきたからびっくりした」
関西の遠さを理解して腹をくくっていたので、等の横顔が自分の隣にあることが信じられなかった。
「帰りたくなったんだって」
等が気の抜けた顔で笑う。
「ねえっ。アイス食べるかって母さんが」
部屋に顔を出したのは隆寿だった。声がすっかり低くなっていた。
「おー、食べたい。ともえも、食べるよね?」
等は久しぶりに見た弟の柔らかな態度が嬉しくてたまらないというような顔をしていた。私と隆寿はいつもよりはしゃいでいて、それまで頭が多少のぼせた感じになっていた。
けれどそのとき私はなにか「あれ」と思った。違和感は拭えなくて、一呼吸置いてやっと言葉が出た。
アイスを食べながら、ベランダに等と二人で出た。
一度気になったらずっと引っ掛かりを覚えてしまって、私はどこか笑えないでいた。
すると等は、アイスのカップを置いて、私に手を伸ばして髪の毛を一回撫でた。
「僕の女の子は、ずっとともえだけだよ」
誠実な黒い瞳に真っ直ぐに見据えられて優しい言葉が降ってきた後、見つめ合って私と等はキスをした。
三ヶ月後に、その言葉は望まない形で現実になった。
三ヶ月後、私の恋人は、遠く離れた関西の地で、その命を落とすことになった。
目の前に、一面の黒がゆらゆらと流れていく。線香の匂いが鼻腔を刺激して、目に通じるから痛いのだと気がついた。じっと、式場の真ん中に置かれた彼の棺を眺めていた。等がもういないだなんて信じられなかった。
「もうすぐ葬式始まるぞ」
じっとして動かない私に気がついたのだろう、高校のブレザー姿で、隆寿が声をかけてきた。
「早く、顔、見てきてやれよ」
隆寿の声が滲んでいた。じわっと、インクが紙に染み込んでいくみたいに。それもしょっぱいインクが。弛まない空気が線を張り詰めて、私の足をぎゅっと硬く縛っていた。
隆寿に添われて見た等の死に顔は、等にそっくりな精巧な作り物に思えて、ああ等はまだいるのかも知れないと、私を悲しませなかった。
駅で笑って別れた。寂しいものだったけど、等が笑っていたから、笑って見送った。
その時、気付いてやれたなら。
等が病気を発症したのは、大学へ進学してすぐのことだったらしい。珍しい病気で有効な治療法も確立されておらず、一人で病魔と闘っていたのだと、母親が言っていた。等は健康で若い身体だった。だから病気の進行も、あっという間だったらしい。
西田の両親が連絡を受けて関西の大学病院へ駆けつけると、彼はもう既に虫の息だった。
なんの皮肉か等の夢は、病気を治す、医者だった。
どれくらいの時間、棺のそばにいたのだろうか。気がつくと、式場には私と、等だけになってしまった。
もう一度、等を見てみる。
静かに縁取られた彼の白いぼやっとした輪郭を前に、息を大きく吸い込んだ。
彼は無臭だった。
気がつけば、外へ出ていた。
それも、夜の外だ。
あてがなかった。仕方なく、来た道を歩いて行くと、目の端を光がちらついた。田畑の暗闇の真ん中で、派手な色を撒き散らしながらコンビニが立っていた。
店内に入ると湿っぽい色をした照明がジリジリと眩しく光っていた。いらっしゃいませ、と若い男の声がして、何を買うでもなく店内をぶらぶらと歩いた。ただ呼気を感じていたかった。何もしらない人間に、何も問われず慰めもされず、ただ傍に居て欲しかったのかも知れない。空調から一番遠い場所に、電子機器用のバッテリーが陳列してあった。
その時、胸の中で、何かが弾ける音がした。
この時初めて、私は悪いことをしようと思った。
手のひらを握りこんで、そっと商品に手を出した。
そのまま体のどこかに隠してしまえばいい。
罪だと重々把握して、冷静な上でやっている。そんな自分に満足した。
苦しめたい。呼吸をとめたい。もっともがけばいい。なぜだかわからない。けれど、痛めつけてどうしようもなくなった時、私は初めて安心できると思った。
手に取った途端、黒いプラスチック容器に自分の姿が映り込んだ。
無意識に指先が震えて、ぱたんとあっけらかんとした音が鳴った。
店員の視線がじろっとこちらを向いた。
もう一度そんなことをする勇気はもうなかった。
会計を済ました商品の入ったビニール袋を右手に提げて、式場に戻る足をひきずりながら運んだ。
田畑ばかりに囲まれた式場には、多くの車が駐車していた。
「やっぱり、ともえちゃんは耐えられなかったか」
車の中と外で話す大人たちの会話が聞こえてきて、無意識のうちに足を止めた。
「あんなに早く亡くなったんじゃあ仕方ないだろうよ」
記憶が、阻もうとする思考を押して津波のように蘇ってくる。
そうか、私は耐えられなかったのかと暗い意識で思う。
沈黙がしばらく流れたあと、
「隆寿くんの方は、ずっと居たんだね」と、どこまでも静かな、哀れみの声がした。
車が発進して、エンジン音が遠くなると、さっきまでは聞こえなかった音が耳に届いた。
泣くと出てしまうらしいしゃっくりを、抑えようとするときゅうきゅうと音がする。こんな泣き方をするのは、私の知る中で一人しかいなかった。
「隆寿」
式場の入り口の階段の傍に、隆寿が踞っていた。隆寿は、ずっと変わらずそばにある。
息をしていた。
「どうして」と「いやだよ」を繰り返す隆寿の、その綺麗に曲がった背中に触れて、私はあやすように何度も撫でた。
真っ黒な空だと思った。道路に通じる扉を引いて外へ出る。足元が果てしない闇だった。全てが虚無で溢れていた。
何故か私は、悲しかった。
何故かわからなくて困惑していたところに、ふっと鋭く、閃光が飛び込んできた。
それで、原因がぱぱっと脳裏に閃いた。
──私の目の前に、等が立っていた。
夢はそこまでだった。
起きることが億劫だと感じるのは、決まって悪い夢を見た直後だ。
あれから、二年が経った。
果たして、あの夢にでてきた人間は西田等だったのか。眠りから覚めると、夢幻は儚くなってしまう。
ただ等だと思った。彼は私に向かって口元を綻ばせた。穏やかな笑みを浮かべて、あっと、透けたと思った途端、すっと闇夜にとろけていった。
地元の人しか利用しないようなさびれた駅のホームにいた。錆びた屋根は赤茶けて、蜘蛛が巣を張ったベンチに、リュックを背負った男性が一人で座っている。
等が死んでから、どうにも苦しくて、しばらくの間利用することが出来なかった。
この駅で、等の、生きていた最期を見た。
この場所に近づくたびに、等の病魔に気づいてあげられなかった自分に腹が立った。それと同時に、頑なに自分の病気のことを誰にも打ち明けなかった等に、どうしてという思いが湧き上がった。怒りを向けるには筋違いすぎて、答えを教えてくれる人物はもうこの世には存在しない。
下手をすれば、等は最期、自分の病に気づいてくれなかった私に失望しながら死んでいったのかも知れない。
それをまるで裏付けするように、等の遺言は見つからなかった。等は最期の言葉を遺していってはくれなかったのだ。
それを思った時、私の関心は、ザッピングするようにいとも容易く、自分が真っ只中に身を置く高校生活に向いた。そして、高校生の魔法は私の望み通り、心のごつごつをあっという間に溶かしていった。
私は、高校三年生の年を迎えていた。
「おはようともえ」
駅のホームで、長い髪を二つに分けた少女が、ブレザーを着こなして、私に寄ってきた。
四年前、隆寿が帰らなかったあの日、体育館前で隆寿の居場所を教えてくれたのが幸絵だった。
幸絵は、どんなに私がどんよりした気分のときも隣でニコニコしていた。
同じ学校に進学していた隆寿は、頭が良かったから選抜クラスに引き抜かれて、前のように頻繁に話さなくなった。
乗り込んだ電車の車内アナウンスが、ほの白く光る車窓の上を滑って、私たちに聞こえた。
その日の放課後、バスケ部の練習場所である体育館に行った。
女子の中では高い方の、私の身長を数年であっというまにおい越した隆寿の長身が目立っていた。
引退試合を控えた彼らバスケ部員の熱の入れように圧倒されながら、水滴の滴ったミネラルウォーターを一口口に運んだ。私はこうして時々、昔馴染みのあったバスケの練習風景を眺めて、練習あとに隆寿と帰る約束をしていた。隆寿の身長はぐんと伸びた。その成長にひっぱられるように、隆寿の顔立ちが凛と鋭くなって、みるみるうちに幼さを覆ってしまって少し切ないと思う。男という生き物はこうも変わってしまうのかと感嘆する。バスケ部のエースになった隆寿は、私も耳に挟むくらいもてた。
私と等が付き合ってから、私たち、特に等と距離を置くようになった隆寿は、常にピリピリしていて、子猫を守る母猫のような尖りを帯びていた。そういう話を、等と二人で話したものだ。母猫なんて言ったら怒るね、と等はそれでも意にも介さない様子で飄々と笑っていた。
小さな古ぼけた商店街のアーケードの下を、隆寿と二人で歩いていた。人通りはまばらで、主に下校中の高校生が占めていた。石畳の続く道は足音を籠らせて、私のローファーの音がかつかつ鳴った。
黄昏の時間が、世界を黄金に染め上げる。雲が斜光に縁取られて、人間以外の動きを止めていた。
ふいに名前を呼ばれた。声の方を振り向くと、隆寿はもう随分前に足を止めていたみたいだった。長く伸びる影が、私の足元で途切れてしまっている。
「なに?」私はそう言って返事をした。
隆寿と目が合うと、彼の眼光が怖かった。あの、母猫の瞳がいたのだ。嫌な予感を、どうすることも出来ずに佇んだ。
「ともえが好きだ」
隆寿を、これは私の知る隆寿じゃない、と咄嗟に思った。どうしてそう悟ったのかはわからない。それでも、確かに彼は違った。左足を後ろに引く。
「ともえ!」
隆寿の声が、踵を返した私を追って走った。
嫌だ! 私の知る隆寿じゃあない。隆寿の言葉が、頭の中を反復していた。どうしてそんな心境の変化が訪れたのか、千切れたコードが繋がらず、ショートする。アーケードを抜ける。気がつけば、隆寿の足音が遠ざかっていた。隆寿が本気で追いかけたら、私の駆け足なんて造作もなく追い付いてしまうのだろうから、追いかけるのをやめてくれたのだろう。ほっとして立ち止まると、久しぶりに全力で駆けたせいで、肺がきしきしと痛んだ。急に、そのにぶい痛みが、私に悲哀をもたらした。時々、無意識に人影を追っている。黒い短髪の、長身で細身の人影を──。
隆寿と付き合う? いいや、だって、私は。
目の前をタイミング良く、等じゃない人影が横切って行ってしまった。冷えていた心臓の奥がにぶく痛んだ。
私の恋人は、死んでいる。もう死んでいるのだ。世界のどこを探しても、けして見つけることは出来ない。
ちゃんと理解している。なのに、頭も体も納得していない。あれから、等が死んでしまってから、気が付けば泣かなくなってしまっていた。泣いてしまえば、いつも慰めてくれた人が、もうこの世には居ないことを思い知らされる。私は今頃、ほんとうは等と生きていた。等と遠距離でも、ずっと付き合っていて、時々は関西に遊びに行っていたんだろう。私の隣を歩いているのは、等だったはずだった。
そんな思いを捨てきれずに、私は今、一人きりで立っている。
ああ。
私は、二年前からなに一つ進んでいない。等が死んでしまったあの時から、なに一つ進めていなかった。等が私たちを置いていってしまったように、隆寿も、幸絵も、両親も、私の場所にはもういないだろう。彼らは行ってしまう。等に囚われたままの私は、彼らから、ひどく離れた場所にいる。
目が熱い。かっとした大きな熱は、いっさい留まることなく、私の頬を何度も滑った。
「あの子泣いてるよ」
潜めた声が聞こえた。それを、懐かしいと思った。頬にまた、熱い涙が溢れた。
幼い頃、三人で遊びに行った先で、隣には隆寿がいて、いつも私より先に泣いていた。いつも私は後から泣いて、頭一つぶん背の大きな等が、私たちをなぐさめて回った。泣いた目に滲みる眩しい夕陽を、彼の背中が遮ってくれた──。
どこからか、私の名前を呼ぶ声がした。
「ともえっ!」
俯いていた頭をあげる。そこに、親友の姿が飛び込んできた。彼女は制服姿で、私を見るや否や、手にしていた鞄を乱暴に地面に放った。唯一、彼女の手元に携帯が握られていた。
「もう、我慢しなくていいんだよ」
幸絵は、私の目と鼻の先まで近づくと、「大丈夫だから」と優しく笑った。それだけで、魔法みたいに胸のつかえがぽろぽろ取れた。
「私は何も進めてなかった!」
等が、あまりにもあっさりといってしまって、私は上手く彼の遺した何かを掴めずに、一人ぼっちになってしまった。
夕陽が目に滲みる。
「進みたいんだよ……」
等がいなくても、自分で手を翳せば、幸絵がいれば、隆寿がいれば──この痛みを遮ることが出来る。等が大好きで、一人で勝手に死んでいってしまった等が少し憎らしい。彼の意図はまだわからずに、私はもう進もう、と思った。
幸絵に呼ばれる。顔を上げると、彼女の影が、私を覆って広がっていた。
「まだ何も決まっていないのなら、一緒にここを出てみない?」
まだ肌寒い朝に、家を出た。車で送って行こうとする両親に断って、駅まで自転車で漕いで行く。今朝から一時間後に、私たちの卒業式が行われる。西田家の前に自転車を止めると、同時に待っていたように隆寿が出てきた。ブラシを掛けられたらしい紺色のブレザーに、がっしりした肩が詰まっている。
「おはよう」
隆寿は自転車を道まで引いていくと、白い息を吐き出した。
「寒いな」
隆寿は肩をすくめる。自転車にまたがって、一緒に漕ぎ出した。高校生最後の登校日は、自転車で行くのと決めていた。
「今日、隆寿は泣くよ、ぜったい」
黙っていると悲しい気分で覆われそうだったから、声高に言う。
隆寿と私と幸絵は揃って進学を選んだ。隆寿は県内の国立の大学への進学を控えていて、私は幸絵とともに、隣の県にある、日本有数の看護学校へ進学する。
隆寿の夢を前から知っていた。「先生になる」だ。等と一緒に、記憶がそっと覚えている。
「あー、泣くかもな」
珍しく隆寿は反論してこなかった。
ふいに、隆寿と目が合った。綺麗に縁取られた細くて長い瞳の輪郭がつうっと細くなった。
隆寿は、私の返事を待っている。いつになるかわからない答えを、いつまでも待っていると私に告げた。隆寿から告白された私は、彼の思いから逃げ出した。もう一度面と向かって、取っ組み合いをして、私が出した答えは簡単、「わからない」だった。
等がいた時から、何一つ進めていない私の、最初の一歩はそれだった。
何処まで行くのか、何処まで行けば「わかる」のか。
どの答えを掴むにしても、切っても切れないどうしようもない縁が、固い糸が、もうここにある気がしていた。
私の答えは、案外すぐ近くに来ているのかもしれなかった。
自宅の前で、正装をした母が大きく手を振って父を呼んだ。
「お父さん!」
私の隣を歩いていた父は、前方の母に首をひねって苦笑した。
「今行くよ」
隆寿の方が卒業式のあとに用事があるらしく、帰りは自転車を自宅の乗用車に入れて、車に乗って帰った。
母が今日のために買った一眼レフカメラをこちらに向けて構えている。
「もう卒業したんだな」
父の眼鏡のレンズ越しに、しわに包まれた優しい目を見つけた。
帰ってすぐに、私は他県に移り住むために引越しの準備をしなければならなかった。
部屋は事前に親が決めていて、幸絵と同じアパートに同居する。
昼食を食べてから、自室に上がって段ボールを広げた。
持っていく荷物は最小限にするのだけれど、どうも小物や必要なものが溢れていて困った。あれもこれも、私の部屋になければもの哀しいものばかりだ。おまけに幼い頃の思い出の品まで出てきてしまって困る。
荷物は明後日までに郵送する予定だった。私はとうとう家を出て、新生活を始めるのだ。私たちの旅立ちは、変わらずにあの駅にある。
何年経っても色褪せない彼の最期の姿。遠かった背中を、等が私を置いて行ってしまった場所を、私はいつか追い越すのだろう。
夕方ごろになると、隆寿が私を手伝いに来てくれた。
「これなんなの?」
隆寿が、整理されていない箱の中のおもちゃをひっぱり出した。不恰好で安物だから、一目で記憶が掘り起こされた。
「覚えてない? 商店街の景品だよ」
見た途端に湧き上がった思い出に、声を上げて笑った。
あれは私と隆寿が小学一年生の時だった。等と一緒に、もっぱら小学生や中学生の遊び場だった隣駅の商店街に初めて行った時、見るもの全てが珍しくて、私たちは随分はしゃいでいた。
「ほら、残念賞のおもちゃ。外れたおじさんがくれた、」
隆寿が渋い顔になる。
「思い出した」
荷造りの作業していて、必要ないと傍に放られたおもちゃを、隆寿は持ち上げた。
「あれはおっちゃんが悪い」
「等が貰ったんだけど、需要があったからなあ」
あの頃からだいぶ経って、もちろん今は何の価値もないし、需要もないのだが、どうしても捨てられずに取ってある。
あの日満面の笑顔でくぐった商店街のゲートを、私たちは、泣きじゃくりながら出て行った。
私が泣くのはどう転んでも隆寿が泣いたあとで、等は本当に苦労していただろうと思う。
一人が泣くともう一人も泣くから、二人の泣き虫を、たった一人の子供が慰めなくてはならなかった。
結局私は等の背におぶられて、隆寿は等の手を握りながら家路に着いた。
おもちゃは、最後まで隆寿が、握りしめて譲らなかった。
家に着いてもしばらく泣きやまなかった私に、西田のお母さんがそのおもちゃを届けてくれて、涙は嘘のように引いた。
けれど、家にやってきたそのおもちゃを見て、商店街で隆寿が持っていた時のように輝いては見えなくて、少し抱いただけであとは箱にしまってしまったのだ。
今夜はそんな交流のある西田家で、家族ぐるみで晩御飯を食べることになっている。
「俺、あのあと母さんに無茶苦茶怒られてさ。なんでともえちゃんにあげないのって」
隆寿は続けて言う。
「なんでともえばっかりって言ったことがあるんだよ」
初耳だった。
小さい頃から私は、他人の家の子だからだろう、西田のお母さんとお父さんに優遇された。それが幼い隆寿にとっては悲しかった。
「取り上げられそうになった時、等が母さんに取り上げないでって言ってくれてさあ」
結局私のところにこのおもちゃがきたのだから、西田のお母さんは隆寿からおもちゃを取り上げたのだろう。
「最初は本当に、悲しかったんだけど」
隆寿が思い出を懐かしむように笑う。
「等のその一言があったからかな、俺はだから、満足だったよ」
等は、私と隆寿に、なんら変わらぬ優しさを向けてくれていた。
「まあ、等がともえと付き合ってからは、嫌になるくらい待遇が違ったけどなぁ……」
思わず、隆寿を見つめた。そのいじけた口調で、彼の思春期の行動の全てに筋が通ってしまった。隆寿は等の生前、私を恋愛対象にしてない、やはり等が死んでしまってからだとはっきり思った。それを思った時、私たち三人で過ごして来た刻が、ちゃんと美しいものだったと、優しい何かが私の胸を温めた。
隆寿が等に対して親より、私よりも過剰になっていたわけは。
隆寿が呟くように言った。
「等はともえのこと、最期まで、本当に大切にしてたよ」
そうだろうか。私は彼の想いを、彼の最期を、あんな風に受け止め逃して、見送ってしまった。こんな、いつまでも、いつまでも甘ったれの私のことを、等は本当に愛してくれていたのだろうか。
「これなに?」
隆寿が箱の中から、手を引いた。目に飛び込んできた、二年前の痛みの詰まった小さな箱から目が離せない。
買っただけで、私には使い道がなくて箱の隅に放置していた。
「隆寿………、見つけた」
なぜだろう。私の勘はきっと当たっていると思った。
二年前の夜に、彼の想いが詰まっている。
一年ぶりにその駅に着いたのが早朝で、新設された町営バスに乗り込んだ。
昨夜じゅうに帰る予定は、どうしても外せないアルバイトが入ってしまって、今朝一番の電車での帰省となった。
一足先にアパートを出て帰った幸絵と、私、私たちの母親の四人で、お昼から帰省のお祝いをすることになっている。
この町は相変わらず田んぼと畑だらけで、車窓から田植えしたばかりの稲の苗が植わっているのが見えた。水面に晴天の空色が薄く伸びていて、朝日が流れる水に沿って光を挿す。
バスが最寄りのバス停に停車した。荷物の詰まったトランクを、苦労してバスから下ろした。
「だいじかい?」
乗る時にも苦労していたのを見ていた運転手のおじさんが、体を乗り出してくれる。私は少しはにかみながら頷いた。
「ありがとうございました」
バスから降車すると、青年が目の前に、背筋を伸ばして立っていた。
「おかえり、ともえ」
隆寿はそう言うと、幼なじみとの久しぶりの再会に、懐っこい微笑を溢した。
卒業式の夕暮れに、彼の心はやっと、私の中に収まった。
ないと思われていた遺言を、等は、パソコンの中に残していた。等をよく知る私たちは、驚いた。彼は大事なことは必ず、紙に綴る人だったからだ。だから両親や隆寿や私も思い至らなかった。
葬式の日にわけもなく買った痛すぎた充電器を差してノートパソコンを開いたとき、私と隆寿は言葉を詰まらせた。そこには、ただ淡々と、彼があの大学で学んでいたことが、打ち込んであったり添付されていたりした。内容までは難しくて理解することが出来なかったが、彼が何を遺したかったのかすぐに分かった。
優しくて頭が良くて、私が彼を失ったとき、立ち止まるしかないほど大好きだった人。私たちに何も言わず悟ることもさせずに、あっけなくこの世からいなくなった。遺言を紙ではないものに残しているなら、看護師さんにでもなんでも、告げてくれれば良かったのに。
本当に、優しいくせに厳しい人だった。こちらの気持ちなんて考えずに、自分勝手に、どんどん先へと行ってしまう。いつも背中ばかりを向けて。
彼が遺したフォルダの中には、そんな、あのころの等がいた。
墓石の前に線香の煙がけぶる。
つやつやした表面の前に立った。
もっと早く遺言を見つけられていたら、私は今よりずっと進めていたのだろうかと、時々ふと思う。
隣で先に合掌した隆寿の髪の毛が柔らかかった。
手を合わせる。
等に置いていかれてから私は、ますます泣き虫で甘ったれになった。だから、やっぱり。どれほど早く遺言を見つけていたとしても、私はみんなに置いていかれてる。
等の女の子は、私だけだから。
等にたっぷり甘やかされた私だから、それでいい。
目尻から、軽い雫が頰を濡らす。涙が伝った頰を手の甲で拭うと、優しい腕に引き寄せられた。
彼が亡くなるまでしていたように、私たちは、ここに夢を追っている。
──前に進みたい。
彼の遺言が彼らしい言葉で終わっていたことに、ノートパソコンを覗いた全員が納得した。
私はこれからも、未来を歩いて行こうと思う。
遠くに、こちらに手を振る幸絵の姿が見えた。
walk the road 高村千里 @senri421
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