約束の馬鹿力(KAC20245)

しぎ

絶対にはなさない

「月菜!」

 伸びてきた明日香の右手が、わたしの左手をがっしりと握る……その感触を思い出して、わたしは左手を前に伸ばす。


 布団の中から見上げるいつもの天井。それを背景に、わたしは左手をぐるぐると、意味もなく動かしてみる。


 それでも今日のお昼、明日香に握られた感覚は消えない。

 右手で触ってみると、なんだかうっすら痕になっている感覚すらある。

 その右手だって明日香に掴まれて少し赤くなってるのだ。



「……相変わらずの馬鹿力ね」


 でも、明日香の馬鹿力は、あのときわたしを何度も落ち着かせてくれた。

 あれが無かったら、今頃わたしはこの自分の部屋に戻ってこれていただろうか。

 最悪、怪我をしてあの場所に囚われたまま、だったかもしれない。



 握った手は絶対に離さない、放さない……その信頼感が、明日香の馬鹿力にはある。


 そもそも明日香がいなかったら、わたしはあの場所へ行ってすらいなかっただろう。例え他の人を救わなければいけなかったとしても。


 


 ……あれ。


 わたし、月菜は明日香と秘密を共有して、協力関係となった。

 明日香の欲する物をわたしは提供する。代わりに、明日香にはわたしのやることに力を貸してもらう。


 わたしはこの関係を、契約みたいな情の入らないものだと思っていた。

 が、明日香はどうやら違っていたらしい。


 

「あたしは、月菜と約束したから一緒にいるの!」

 ……明日香は、約束だと言っていた。


 ……それも、明日香の話しぶりは、遊びでするような気軽なものではなく。


 きっと明日香にとって、わたしと交わした秘密は、わたしの想像以上に大事なものなのかもしれない。



 ……そう考えると、わたしは安心してきた。


 明日香は絶対に秘密を、周りに喋っちゃったりはしない。ほかでどんなうっかりをしても、それだけはしない。


 明日香は、成績も下から数えたほうがずっと早くて、裏表がなくて嘘とかつかなそうな性格。

 だけど、ここだけは信頼しようじゃないか。



 ――明日香、絶対に話さないで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

約束の馬鹿力(KAC20245) しぎ @sayoino

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画