アイビー
音央とお
1
ーーもしも貴方と違う出逢い方をしていたら、ハッピーエンドで終われたのでしょうか?
「……ッ」
息が苦しい。床に押し倒された私の上に鎧の男が馬乗りになっている。首もとにかけられた指が段々と力を増してくる。
一月ほど続いた籠城戦ももうすぐ終わるらしい。私の元にこうして敵将が侵入してきたのだから。
どこからか焦げ臭い匂いもしてくるし、男の体に染み付いたものなのか血生臭さも感じる。
「言え、王はどこにいる?」
「知……らない……わ」
「隠さずに話せば命だけは助けてやる」
「……」
押さえられているのであまり動かせないが首を横に振る。
「言え!」
「……」
必死な様子に笑いそうになる。命だけは助けてやる、それが貴方の望みなのね。
今にも泣きそうな表情をして、私を殺したくないと叫んでいる。
何も知らなかった頃の私達にはどうやったって戻れない。お互いに身分を伏せて、身を焦がすような恋に夢中になったあの季節はもう来ない。
初めて会った時に綺麗だと思った金髪は今は短く刈り上げられていて、出来たばかりの目尻の傷が痛々しくて、知らない人だと思いたいのに私を見つめる瞳はあの頃のままで……。
愛してる、今も。
溢れてしまいそうな想いに蓋をするため、どうかその手を離さないで。
意識がぼんやりとしてきた。
あの子の代わりには不十分かもしれないけど、何もないよりは私の首も役立つでしょう?
ーー嗚呼、泣かないで愛しい人。
頬に落ちてきた涙の温かさがまるで貴方のようで、貴方の後悔は私が離さず持っていくから、何も悔やむことはないわ。
「カルラ!」
それは貴方が愛した女の偽名。……馬鹿ね、ここにはいない女の名前よ。
貴方の唇が動くけれど、私はそれを耳にすることなく目を閉じた。
アイビー 音央とお @if0202
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