第65話 氷結

 俺は取得した氷属性魔法を使ってコボルトたちの足下を氷結させていく。

 一気に氷結出来れば楽だが、一匹ずつしか氷結出来ない。


 足下を氷結させられたコボルトは何が起ったのかわからず首を傾げる。

 中には気が付かないで吠え続けるコボルトいる。


「ユウト。落ち着いて。ゆっくりで良いのです」


「そうそう! 見つからないように!」


 ミレットとアンが、俺の耳元で静かに応援してくれる。

 集まっているコボルトは二十匹。

 魔力は何とか足りそうだが、時間がかかる。


 半分の十匹を過ぎると、リフトの上にいる冒険者たちが状況の変化に気が付いた。


「なあ、何か変じゃないか……」


「おい! あの砂山の影!」


「あっ! アン!」


 アンのお父さんがこちらに気が付いた。

 アンが手を振り、お父さんはコボルトに気が付かれないように、そっとうなずく。

 俺は魔法の行使に集中する。


 あと三匹……。

 あと二匹……。


「間もなく! 準備して!」


 俺はミレットとアンに呼びかける。


「「了解!」」


 最後の……一匹!


 コボルト二十匹全ての足下を凍らせた。

 コボルトの無力化! 成功だ!


 コボルトの足下全てが凍ると、ミレットが砂山の影から出て魔法を行使した。


「ファイヤーボール!」


 ミレットが放った火属性魔法ファイヤーボールの火球が近くのコボルトへ飛んでいく。

 コボルトは足下が凍っているので身動きがとれない。

 火球をモロに喰らった。


「キャウン!」


 一匹のコボルトが悲鳴を上げ消滅する。


 アンがリフトの下を目指して駆け出す。

 コボルトの間を縫うように走り叫ぶ。


「お父さん! 迎えに来たよ! お父さん!」


「アン! オイ! 脱出だ! リフトを下ろせ!」


 アンのお父さんたちが動き出した。

 リフトを操作して下へ降りてくる。

 リフトは手動のようで、アンのお父さんたちがハンドルを手でグルグル回し、リフトを吊るすロープが繰り出されていく。

 時間がかかってもどかしい。


 ミレットは、既に次の魔法の詠唱に入っている。


 俺も砂山から飛び出し、手近なコボルトをショートソードで倒す。

 一撃とはいかないが、身動きのとれないコボルトは格好の餌食だ。


「セイッ! セイッ!」


 一匹、二匹と続けて倒す。

 俺たちはこれから脱出するのだ。

 一匹でも多く倒して、敵を減らせるうちに減らしておきたい。


 アンのお父さんたちが乗ったリフトが下についた。

 アンがポーションをタナーさんにぶっかけている。


 ポーションは、ミレットが提供してくれたポーションだ。

 タナーさんが意識を取り戻した!

 アンはタナーさんにポーションを手渡し、タナーさんがポーションを飲み出した。


 じれったい!


 俺は三匹目のコボルトを倒しながら叫んだ。


「早く! 氷がいつまでもつか分からない! 早く!」


 さっきからコボルトたちは、足を小刻みに動かして氷を割ろうとしているのだ。

 中にはツルハシで氷を砕きだしたコボルトもいる。


 タナーさんが回復して、アンのお父さんたちが走り出した。

 コボルトたちの間を駆け抜け、俺たちがいる砂山まで駆け込んでくる。


 アンのお父さんたちは、ゲッソリと頬がこけていた。

 コボルトに追い立てられて、休めなかったのだろう。


「助かった! ありがとう!」


 アンのお父さんが、俺とミレットに礼を述べる。


「礼を言うのは、まだ早いです! 脱出します!」


「わかった!」


 俺たちは出口へ向かって駆け出そうとした。

 すると、コボルトたちが一斉に吠えだした。


「オオーン!」


「オーン!」


「オオーン!」


「オーン!」


 鉱山エリアにコボルトの遠吠えが木霊する。

 アンのお父さんたちの顔色がサッと変わった。


「不味い! 仲間を呼んでいる! 逃げろ!」

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