第64話 言うは易く行なうは難し

 アンのお父さんたちを救出する。

 言うは易く行うは難し……。

 二十匹のコボルトを何とかしなければならない。


 俺たちは頭を悩ませた。

 ミレットが救出イメージを口にするが自信なさげだ。


「難しいですね……。私がファイヤーボールで攻撃して、その隙にアンさんのお父さんたちが、こちらに駆け込む……」


 ミレットも領主の娘として領民を守ると言っていた。

 リスクはあるが、なんとか助けたい気持ちが伝わってくる。

 思いは本物だ。

 ミレットは偉いと感心する。


 俺も必死で頭を回転させる。


 コボルトを倒す?

 いや、倒す必要なない。

 どこかに追い払うとか、無力化するとか……。

 無力化……そうだ!


 俺は一案を思いついた。

 ステータスを表示して、取得可能なスキルを確認する。


 あった!



 ◆―― ステータス ――◆



【取得可能スキル】


 討伐ポイント1を消費して、以下のスキルが取得可能です。


 ・氷属性魔法



 ◆―――――――――――◆



 初心者ダンジョンのボス氷の守護者が使った氷属性魔法を使って、コボルトたちの足下を凍らせる。

 コボルトを動けなくした隙に、アンのお父さんたちをこちらに呼び込み、みんなで逃げる。


 ミレットとアンが、ステータスを操作する俺を不思議そうに見ている。


 時間がないので、俺は強引に進める。

 氷属性魔法を取得!


 取得と同時に俺の頭へ氷属性魔法の知識が流れ込んでくる。

 氷属性魔法レベル1では、【氷結】が使える。

 氷の守護者が、俺の足下を凍らせた魔法だ。


 俺は二人に作戦を説明する。


「俺が魔法を使って、コボルト足下を凍らせて動けなくする」


「えっ……?」


 アンが眉根を寄せて、『何を言ってるんだ?』と言わんばかりの顔をする。

 ミレットがアンの背中を軽く叩いた。


「アンさん。考えたらいけません。ユウトが使えると言ったら、魔法が使えるのです」


「ええ~!」


「今はアンのお父さんたちを救出して、ここから脱出することが最優先です」


 ミレットはぶれないので、非常に助かる。


「重ねてお願いするが、ここで見たこと、俺のスキルは秘密にして欲しい」


 ミレットとアンが顔を見合わせる。

 俺は言葉を重ねて二人にお願いした。


「いや、俺はスラムの住人だろう? 色々なスキルを持っているなんて知れたら、どんな厄介ごとに巻き込まれるか……。そうなったら母さんにも迷惑がかかる」


「なるほど……。ユウトの言うことはもっともですね」


「まあ、もともと人のスキルをべらべらしゃべるのは、冒険者のマナーに反するからね。私はお父さんが無事なら、それで良いから。ユウトのスキルは内緒にするよ」


「ありがとう!」


 ミレットとアンは、納得してくれた。

 俺はフッと息を吐いた。


 そして、救出を確かにするために、ミレットとアンと打ち合わせた。

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