第33話 少女アンの父ギャレット
「お父さんを探して下さい! 昨日ダンジョンに入って戻ってきてないんです!」
冒険者ギルドのロビーで冒険者に呼びかけている女の子がいる。
女の子は、こげ茶色の髪をポニーテールにして、革鎧を装備、腰には剣をぶら下げている。
新人研修で一緒だった女の子だ。
呼びかけている内容が、放っておけない内容だ。
ミレットも心配そうな顔をしているので、俺は女の子に話しかけてみた。
「新人研修で一緒だったよね? どうしたの? お父さんにトラブル?」
女の子は俺とミレットを見た。
ミレットを見ると、ハッとして頭を下げた。
俺より同性のミレットの方が話しやすそうなので、俺は話す役をミレットにお願いした。
「あなたは……アンさんですよね?」
「はい、そうです。ミレット様」
「一体、どうなさったのですか?」
「実は――」
アンが事情を話し出した。
周りの冒険者も気になるのだろう。
足を止めて耳をそばだてている。
アンのお父さんは現役の冒険者で、毎日中級ダンジョンに潜っているそうだ。
だが、昨晩は帰ってこなかった。
アンのお父さんは、毎日夜に必ず帰ってくる。
ダンジョンに泊まり込む場合は、あらかじめ家族に知らせていたそうだ。
アンは、お父さんがダンジョンで何かトラブルに巻き込まれたのでは? と心配で他の冒険者に助けを求めていた。
ミレットがアンに同情する。
「まあ、それは大変ですね! 冒険者ギルドには相談なさったのですか?」
「はい。でも、一晩帰ってこなかっただけでは、捜査隊は出せないと……」
「まあ!」
あっ! 不味いな!
ミレットが憤っている。
気持ちはわかるが、冒険者ギルドとしても考えがあって返事をしたことだろう。
新米冒険者の俺たちが色々言うのは不味い。
俺はミレットの服をつまんで、軽く引っ張った。
振り向いたミレットに首を振って『黙っているように』と伝えた。
ミレットが不承不承うなずく。
アンとミレットの周囲で話を聞いていた冒険者たちが、アンに話しかけた。
「嬢ちゃん。一日くらいダンジョンに長くいることは、よくあるぜ」
「そうそう。心配するなとは言わねえが、ギルドとしても捜索隊は出せねえよ」
「あるんだよ。お宝が出そうだと思い込んで、夢中でダンジョンをうろついちまうことが」
「ダンジョンは時間の感覚をなくしやすいからな」
「まあ、様子見だな」
なるほど……。
先輩冒険者たちの話はもっともだ。
冒険者ギルドが捜索隊をすぐに出さないのも納得出来る。
いかつい冒険者のオヤジがアンに質問した。
「お嬢ちゃん。親父さんの名前は? 特徴はあるか?」
「父の名はギャレットです。五人のパーティーを組んでます。剣士二人、盗賊一人、回復一人、魔法使い一人です。父は剣士で大きなバスターソードを担いでます。焦げ茶の髪を短くしていて、目が鋭い感じです」
「ああ! あのギャレットか! わかった。ダンジョンで会ったら、早く帰れと伝えてやるよ! 娘が心配してるってな!」
「お願いします!」
周りで聞いていた冒険者もうなずきぞろぞろとダンジョンへ向かった。
これで中級ダンジョン内で、アンのお父さんギャレットが見つかる確率は高くなった。
しかし、アンは父親のことだから、変わらず心配そうだ。
ミレットも納得していない。
俺はミレットにそっと耳打ちした。
「ミレット。納得してないだろ?」
「はい……。アンが困っているので力になってあげたいのです」
やっぱりな。
ミレットは、正義感が強いところがあるのだろう。
立派だとは思うけど、俺たちは中級ダンジョンに入る資格がないし実力もない。
ミレットもわかっているから、歯がゆそうな顔をしているのだろう。
「俺たちは中級ダンジョンには入れない。けど、護衛のシンシアさんは? シンシアさんに相談してみたら? 相談している間、待ってるからさ」
「ありがとう! シンシアに相談してみます!」
ミレットは、すぐ護衛のシンシアさんに相談した。
しかし、答えはノーだった。
勝手に見ず知らずの人物を捜索することは出来ないし、冒険者ギルドが様子見しているのにシンシアさんが救助に行くのは問題があると。
ミレットは、ションボリしていた。
「ミレット。行こう! 俺たちは自分の出来ることをするしかない。魔物を一匹でも多く倒して強くなるしかないよ」
「そうよね……。ごめんなさい……。参りましょう……」
ミレットは、明らかに元気がない。
それでもダンジョンには潜らなければならない。
俺たちは冒険者なのだから。
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