第26話 自己中プレイのオナニー野郎

 俺は何者かにつけられていた。

 初心者ダンジョンの入り口で追いつかれ、何者かに声を掛けられる。


「オイ!」


 聞き覚えのある声だ。

 警戒しながらゆっくり振り向くと知った顔だった。


 ジャイルだ。

 神殿で成人の儀式を受けた時から、ちょこちょこ俺にウザがらみしてくる。

 ジャイルは眉間にシワを寄せて、見るからに不機嫌そうだ。

 ジャイルは、いきなり怒鳴りだした。


「外れ野郎! オマエのせいで、俺は迷惑をしてるんだ!」


 俺は左手に持った盾を、さり気ない動きで体の前に持ってくる。

 右手で自分のアゴをさする動作をし、均等に両足に体重をかけ、すぐ動けるように意識する。


 ジャイルの雰囲気からすると、ケンカになるかもしれない。


 両手を下ろした無防備な状態で攻撃されると、防御や回避がワンテンポ遅れてしまう。

 だが、手を上に上げておくと、手を動かしやすくなるのだ。


 例えば、顔を触る。 待て! 待て! とジェスチャーをする。

 不自然でない形で、手を前面に持ってくると不意打ちを防げる。


 これはスラムで生活していて得た経験だ。


 俺はケンカになることに備え、さり気なく身構える。

 ジャイルは、大声で俺を一方的に責める。


「オマエが何でミレット様とパーティーを組むんだ! 今すぐ取り消せよ!」


「ジャイルには関係ないだろう?」


「俺がミレット様とパーティーを組む予定だったんだ!」


 それは俺に言われても困るな。

 いわゆるご学友的なメンバーにジャイルが選ばれていたとしても、俺とパーティーを組むと選択したのはミレット本人だ。


「ジャイル。俺とパーティーを組むと決めたのはミレット本人だ」


「俺の方がミレット様のパーティーメンバーに相応しい!」


「ミレットがジャイルと組みたいというなら反対しない。決めるのはミレットだ」


 俺は冷静にジャイルに反論した。

 別に論破や説得をしたいわけではない。


 この場を穏便に済ませたいとは思う。

 だが、一方的にジャイルの非難を受け入れるつもりはない。


 自分の正しさを、きちんと主張しておかねば……と思うのだ。


「俺はミレットの意思を尊重する。ジャイルもミレットを良く思っているなら、ミレットの意思を尊重しろよ」


「だから! オマエがいなくなれば、ミレット様は俺と一緒に!」


 ジャイルが聞き分けのない子供ようにカッカしだした。


 いや……、俺たちはまだ十三歳なのだ。

 成人の儀式を済ませたとはいえ、まだまだガキか……。


「ジャイル。何度も言うが、ミレットの意思を尊重しろ。仮に俺がいなくなったとしても、ミレットがジャイルと組むとは限らない」


「なんだとゥ!」


「オマエ評判が悪いぞ。昨日の時点で、悪い噂を聞いた。俺も、ミレットもだ。他のパーティーの獲物を横取りしたらしいな?」


「横取りじゃない! ターゲットがかぶったから、譲れと命令したんだ!」


 俺は眉をひそめる。

 命令って……。


 俺たち新人冒険者は、少なくとも冒険者としては対等のハズだ。

 ジャイルの実家が金持ちなのか、権力者なのか知らないが、命令というのは上から目線が過ぎるだろう。


「ジャイル。パーティー内でも、自分中心に戦い過ぎると聞いているぞ」


「俺がパーティーの中心になって何が悪い! 余計なお世話だ!」


「ミレットは、そういう自己中は嫌がると思うが?」


 まだ、二日しか一緒に活動していないが、ミレットが良い子だと感じている。

 ミレットは、あきらかに上流階級の人間だが、スラム出身の俺や他の新人とも親しく話す。

 ジャイルのように威張り散らす子供は、ミレットの嫌いなタイプだろう。


 ジャイルは俺の言葉を聞いて、髪の毛を逆立てるほど怒った。


「オマエに何がわかる!」


「今日はパーティーメンバーはどうした? 昨日は一緒に活動していただろう?」


 俺が指摘をすると、ジャイルはウッと言葉に詰まった。

 どうやら触れられたくない部分だったらしい。


「あいつらは辞めた……」


「辞めたって……」


 愛想を尽かされたのか……。

 まあ、当然だな。

 ジャイルの自己中プレイに付き合わされるパーティーメンバーはたまったものではない。

 ちょっとは反省しろ!


「オマエが悪いんだ! 外れ野郎!」


「え?」


 ジャイルが憎悪のこもった目で俺をにらみ、拳を握って一歩前へ踏み出した。


 ――来る!


 俺はジャイルと一戦交えることになると確信する。

 俺は右手を前に出し、『やめろ』とジェスチャーをする。

 同時に攻撃に備える。


「八つ当たりはやめろ。俺は何も悪いことはしていない」


「オマエの存在自体が邪魔なんだ! このスラムのクソ外れ野郎! どうせ淫売の母親から産まれたんだろう!」


 さすがの俺もサオリママを侮辱されては冷静ではいられない。

 瞬間的にかっとなり、汚い言葉で言い返す。


「うるさい! 自己中プレイのオナニー野郎! オマエのかーちゃん! でーべーそ!」


「黙れぇ!」


 ジャイルが殴りかかってきた。

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