嘘吐きコアラのアフロディーテ
僕の友達はコアラに似ている。
「あー、確かに」
本人にそう伝えると、彼女は僕の腕に抱きついて微睡みながら言った。
「ずっと寝てるもんね」
「いや、見た目が」
「コアラがなんでずっと寝てるか知ってる?」
「会話して?」
藍鼠色の短い髪が耳のように広がっているところとか、黒い付け爪が鋭いところとか、暇があれば何かに抱きついているところとか、それらが似ているという話がしたいのに、彼女は気ままに話を続ける。
「ユーカリの毒を解毒してるからだよ。解毒に体力持ってかれちゃうから、ずっと寝てるんだ」
「よっ雑学王」
「おだてても木には登らないよ」
「豚じゃなくてコアラだもんね」
「コアラはおだてられなくても登るじゃん」
彼女は一息吐いて、僕の腕の中で丸くなる。彼女の柔らかな寝間着が肌を擽る。
「私もさ、解毒してるからこんなに眠いんだ、きっと」
「……毒を?」
「……ことば、を……」
すうすうと小さな寝息が立ち始める。僕はそっとベッドから抜け出して、彼女を布団越しに優しく撫でた。
眠る彼女は、まるで絵画から抜け出してきたかのように美しい。アフロディーテも真っ青だ。女神のような美しさは、人の手には有り余る。そして、いくら彼女が望んでも手放せない。
「もしかしたら、僕もコアラなのかもね」
毒のあるユーカリを食べなければ生きていけないコアラは、誰におだてられずとも木に登る。
明日も彼女は、誰に言われずともスタジオに向かい、その美貌に寄せられる言葉を解毒しながらカメラの前で笑うのだろう。
そして、僕も腹の中の嫉妬を解毒しながら、誰に言われずとも彼女にレンズを向けるのだろう。
そうしなければ、僕らは、生きていかれない。
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