第37話 遠征計画

 俺は、島の南側を探索するための計画を考えていた。

 現状の俺たちにとって、長時間の行動は難しい。その要因はいくつかあるが、まずは水である。潮見夕夏しおみゆかがヤシの実を使って水筒を作ってくれたが、これだけでずっと行動し続けるのは難しい。かといって、水筒をたくさん持って行動するのも重いし歩きにくくなってしまうだろう。のどが渇いてしまう前に、どこかで水を手に入れることを考えないといけない。


 次の問題は、行動時間である。照明器具を持たない俺たちは、太陽の出ている時間しか歩くことはできない。見通しの良い海岸ならともかく、森の中なら何も見えなくなってしまうだろう。どうがんばっても、日の出から日没までしか動けないと考えた方が良いだろう。それに、俺たちの体力だって無限ではないから、夜の間も行動するのは現実的ではない。



 焚き火を囲んだ夕食の時間、俺は考えていた計画を浜本美波はまもとみなみ潮見夕夏しおみゆかに話すことにした。


「島の南側の探索のことなんだけど……仮拠点を作ろうと思うんだ。えーと、拠点って言っても寝るだけというか身体を休めることができる程度のものでいいんだけど」


 浜本さんは、焚き火の火力を調節しつつ首をかしげた。


「うん、それって、このシェルターみたいなものを作るの? 大変じゃないのかなあ」

「それは、わかってるんだ。でも、今の俺たちだと一日に行動できる範囲って限られてるだろ。お昼をすぎたら暗くなる前に戻るっていうのじゃ、島の南側まで行けないと思うんだ」

「あー、そっかあ。行って帰るって考えると、あんまり遠くまでいけないよね」


 俺の説明に、浜本さんは山の方をちらっと見てからうなずいた。


「仮拠点はどこに作る予定なんですか?」


 潮見さんが、真面目な表情で質問してきた。


「山の頂上近くにしようと思うんだ。俺たちが島を見渡した、あの場所だね」

「それは……大変なのではありませんか?」

「うん、俺もわかってはいるんだ。最初は、畑みたいな場所に仮拠点を作ったらどうかと思ったんだよ。でも、そこから頂上近くまで登るのがきついじゃない。それだと、探索する時間が少なくなってしまうと思うんだ」

「……そうですね。あの登りを終えたあとで、となると体力的に厳しいですね」


 そう言って潮見さんは、申し訳なさそうな表情になった。


「気にしなくていいよ、俺だってしんどいと思ってるから。とにかく、頂上近くに仮拠点を作って、そこで泊まるんだ。そうすれば、早朝からまる1日を探索にあてられるだろ」

「南側の探索には時間がかかりそうですからね。戻るときも、仮拠点があれば安心できます」

「うん、あとは水の問題なんだけど、畑みたいな場所でしっかり飲んでから、水筒をいっぱいにして頂上を目指せばいいと思うんだ。不安が無いとはいえないけど、節約すればなんとかなるかなって」

「なるほど、仮拠点を作るのが大変そうですけれど、作ることができればメリットが大きいわけですね」


 潮見さんは、感心したようにうなずいてくれた。隣の浜本さんも納得してくれた様子である。


「ねえ、お水ならヤシの実をいくつか運んでおけばいいんじゃない? ある程度は保存ができるから、その仮拠点においとけばいいと思うの。朝に飲んで元気いっぱいでスタートしても良いし、途中でへとへとになって戻ってきたときにも役立つんじゃないかな」

「おお、浜本さん、良いアイデアだね。暑いから水が不安だったけど、そうかヤシの実って方法があったか。さすがだね」

「ふっふっふ、もっとほめてくれて良いんだよ。あっ、水以外のご飯はどうするの? まる1日行動するわけでしょ」

「それはバナナで済ませようかなって。持ちやすくて、手間なく食べられるっていうとバナナだよね」

「そうだね。……うん、畑っぽいところでとって、これもいくつか運んでおけばいいかも」


 みんなと話し合っていると、どんどん計画が具体的になっていく。難しいかと思っていた水の補給も、浜本さんが良い案を出してくれた。

 潮見さんは、何やら考え込んでいるようである。


「なかなか規模の大きい計画ですね。仮拠点の建設に、必要な食料の採集、あと探索用に目印に使うツルなどの準備もいりますね。特に仮拠点が大変そうでしょうか。資材を現地で集めるか、持っていくかですね」

「うーん、具体的に検討すると、やるべきことが多いなあ。……まあ、無理にやる必要はないんだけどな」

「わたしは、チャレンジしてみたいです。結局、何もなかったで終わりそうですけれど、他と様子の違う岩場を確認してみたいですね」


 浜本さんは、なぜかにやにやしながら俺を見ている。


「ふふ、守川君も本当は探検に行きたいんでしょう? 大変だから、あたしたちに気を使ってるみたいだけど」

「あー、まあ、そうだね。大変なのはわかってるけど、攻略しがいがあるっていうか、工夫したら行けそうだってわかると、挑戦したくなるみたいな感じかな」

「あたしも同じような気持ちかな。何か見つかる可能性は低いってわかってるけど、無かったらないでスッキリできるし。……ふふ、あたしも夕夏ちゃんも計画に賛成だよ」


 俺が目を向けると、潮見さんはコクンとうなずいた。なら、探索をためらう必要はないだろう。


「じゃあ、明日からしっかりと計画を立てて、準備をしていこうか。長く住んでいるんだし、この島のことは調べておきたいんだ」

「そうですね。もしかしたら、世界でこの島のことを知っているのは、わたしたちだけかもしれませんよ。そう考えると、わくわくします」

「だよね、張り切ってがんばるぞー」


 焚き火を前に、俺たちの意見が一致した。話し合いが終わったところで、浜本さんが料理を始める。

 明日から忙しくなるだろうけど、みんなで力を合わせて取り組むというのは悪くない。果たして、島の南側には何があるだろうか。俺は、真っ暗な夜の山を見上げたのだった。


  ***


 翌日から準備を始めたのだが、思っていた以上に大変だった。

 仮拠点用の資材を集めたり、ヤシの実をとろうとしたが、こういうときに限って良いものが見つからない。おまけに、季節のせいか天候が荒れる日もあった。こうなると、3人でシェルターに入ってじっとしているしかない。


 必要なものを集めたあとは頂上近くまで運ぶのだが、これが予想以上に大変だった。前に登ったときと違って、荷物を持った状態だと山の傾斜がこたえるのである。結局、欲張らずに少しずつ運ぶことで解決した。


 念入りに作業をしているうちに、気がつけば8月になっていたのだった。

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