第13話 新たな食材?
ちょっとした道具を手に入れた俺たちは、まずシェルターを補強することにした。木の骨組みに枝や葉っぱをかぶせただけのものだから、雨を完全に防ぐことが難しいのである。
「葉は、時間が経つと駄目になるものがありますね。長持ちするものもあるみたいですから、入れ替えましょうか」
「うん、こまめに手入れした方がいい気がするね。屋根の素材として良いものが見つかるといいんだけど」
「そうだねー、この島ってわりと雨が降るよね。サッと降ってサッとやむ感じだけど」
そう言って
「じゃあ、みんなで葉っぱを集めようか。道具を作ったけど、怪我しないように気をつけてね……浜本さん」
「ど、どうして、あたしを名指しするのよー」
念のために言ったのだが、浜本さんは急にあせった様子をみせた。大丈夫だろうか。
「わたしたちには医薬品がありませんし、石の道具の扱いに慣れてませんから無理はしないようにしましょう。もちろん、みんながですよ」
潮見さんの言葉に気を引き締め直すと、俺たちは葉っぱの採取に取り掛かった。
***
この島は植物が豊富なようで、短時間で大量の葉っぱが集まった。どれが屋根の素材に適しているかわからないので、色々な種類を集めてみたのだ。名前などはよくわからないが、植物学者ならわかるのだろうか。
「雨のことを考えると、どういったかぶせ方が効果的なのでしょうか。大きくて頑丈なのがいいのでしょうけど、ちょうど良いものがなかなか見つかりませんね。この葉もサイズは大きいのですが、屋根に組み合わせるのは難しそうです」
潮見さんは、顔よりも大きな葉を手にして首をかしげた。どこかで見たことがあったようなハート型の葉である。
「屋根の素材っていうか、お皿代わりに使えそうだね。今のところ、食べ物はパパイヤしか見つけてないけど、のせたら良い感じがしそうじゃない」
「あっ、そうですね。見た目にも気分的にも良いですね。いくらか集めておきましょうか。……ど、どうしたんですか、浜本さん?」
目を向けると、浜本さんが潮見さんの持つ葉を食い入るように見ていた。なんだろう、まさか毒でもあるんだろうか。
「夕夏ちゃん、それはどこで見つけてきたの?」
「ええと、水場の近くです。少し湿った感じのところに、まとまって生えていましたよ。……あの、わたし、良くないものを取ってしまったのでしょうか?」
「それ……お芋じゃないかな?」
浜本さんの言葉に、俺と潮見さんは首をかしげた。
「だから、お芋だって。……ええと、里芋の葉っぱにすごく似てるの。里芋は湿気の多い場所で育ちやすいらしいから、野生のものが育っているのかも」
「そういうことか、さすがは料理好きの浜本さんだね。見たことがあるような葉っぱだとは思ったけど、俺は気が付かなかったよ」
「えへへ、ここだと料理ができないのが残念だけどね。あっ、すぐに見に行こうよ。お芋ができてたらいいなあ」
勢い込む浜本さんに、俺と潮見さんもテンションがあがってきた。パパイヤもおいしいけれど、さすがに別の物も食べたいと思っていたのだ。
俺たちは、シェルターの補強を中断して里芋を探しに行くことにした。
***
いつも水を利用している場所から少し離れたところに、里芋らしき葉はたくさんあった。何度か来たことがあったのだが、今まで気が付かなかったのが不思議だ。こんなところに食べれる物はないだろう、という先入観があったせいだろうか。
「よし、根本のあたりを掘ってみるか」
俺は、作ったばかりの石のナイフで地面を探ってみた。湿っていてやわらかいので、それほど苦労せずに済みそうである。ある程度、土を掘ったところで茶色のかたまりを地中から引っ張り出す。
「おっ、本当に里芋みたいだね。うーん、でも、こんな島に里芋って自生してるものなのかな」
「里芋って、確かタロイモの仲間だったと思います。タロイモは、東南アジアなどの温暖な地域に広く分布しているそうですから、この島にあっても不思議ではないのではないですか」
「なるほど、潮見さんはよく知っているんだね。じゃあ、これは里芋ではない可能性もあるのか。食べられるのかな……」
潮見さんと俺は、期待を込めて浜本さんに目を向けた。料理が得意だという彼女なら、何かわかるだろうと思ったのである。
だが、浜本さんは難しい顔をしていた。
「えっ、もしかしてこれは食べられない種類なの?」
「ううん、違うの。あっ、違わないのかな」
「ど、どっちなの?」
「ええと、里芋にはシュウ酸カルシウムが含まれていて、タロイモも同じだったはずなの。あー、これは困ったなあ」
どういうことだろう。里芋って普通の食材だし、俺だって母さんが作った煮物を食べたことがある。潮見さんが、不思議そうに浜本さんに質問した。
「シュウ酸カルシウムって、どこかで聞いた覚えがありますけれど……毒ですか?」
「毒、というか、カルシウムの小さな結晶が舌とかのどに刺さって、かゆみとか痛みを感じるんだったと思う。量にもよると思うけど、これは野生化しているし……うーん」
「ですが、里芋もタロイモもメジャーな食べ物だと思うのですが。スーパーでも普通に売ってますよね」
「うーん、どっちにしてもダメかな……せっかく見つけたけど今のあたしたちだと食べられないと思うの」
俺と潮見さんが戸惑っていると、浜本さんは真面目な口調で語り始めた。
「ええとね、里芋の仲間は生で食べちゃダメなの。さっきも言ったとおりシュウ酸カルシウムを含んでいるから。普通に食べられているのは、熱によってシュウ酸カルシウムを分解してるからなのよ」
「つまり、加熱しないと食べられないってことだよね。だったら、焼くか煮るかすればいいんじゃないの」
思ったことを口にすると、浜本さんはため息をついた。
「うん、しっかり加熱すれば食べられるかもしれないと思う。でもね、今のあたしたちって調理器具どころか火をつけることもできないじゃない」
「あっ、そうだった」
「でしょ、仮に生で食べられても、たぶん美味しくないと思うの。生で食べるお芋って、長芋ぐらいじゃないのかなあ」
掘り出した芋は、いかにも食べ物といった見た目をしている。周囲には同じような葉があるから、探せばもっと見つかるのではないだろうか。あきらめてしまうのは、惜しい気がする。
俺は、浜本さんにもう一度確認してみることにした。
「これって、加熱さえすれば大丈夫なんだよね」
「大丈夫……だと思う。でも、野生化しちゃってるから、絶対に大丈夫だとも言い切れないんだよね」
「なるほど、里芋っぽいけど普段食べている里芋とは違う可能性があるってことか。でも、せっかく見つけたんだから試してみたいな。よし、火を起こすのにチャレンジしてみよう」
「ええっ、道具もないのにできるのかなあ。火をつけられるのなら、あたしもお芋を焼いてみたいと思ってるけど」
女の子たちは半信半疑という表情で俺を見た。正直、勢いで言ってしまったというところもある。だが、口にしてみると悪くないアイデアだと思った。
俺は、火起こしをするための道具を探そうと周囲を見回したのだった。
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