第11話 問題発生
捜索隊が来てくれるまで、がんばって生活していこうと決意した俺たちであったが、新たな問題が発覚した。本当ならシェルターの補強だとか、新しい食料の確保などやりたいことはいくらでもある。しかし、この問題は先送りできそうになかった。
シェルターの前には、みんなで集めてきた色々な葉っぱが置かれている。
「慎重に選定しないといけないですね。とげがあったり、かゆみをもたらす成分があったりしたら大変ですから」
「あう、かゆくなるとか怖すぎるよ。これは、ちょっと硬いかなあ」
きっかけは、俺の発言だった。パパイヤを食べながら「食料はひとまず大丈夫だけど、次はトイレが気になるなあ」と口にしたところ、さっと2人の顔色が変わったのである。俺は、ひたすら慌てる浜本さんと、真顔のまま固まる潮見さんを落ち着かせて対策を考えた。
結果として葉っぱを集めることになった。要するに、紙の代用品を探しているのである。
俺が地味に検討作業をしている横で、女の子2人から緊張感が伝わってくる。
「ポイントは3つですね。まずは安全性です。次に実用性……も、目的に適しているかです。そして入手性、手に入りやすさも重要な点だと思います」
「さすがだね、夕夏ちゃん。いくら良いものでもレアアイテムだったら困るものね」
なんだか議論に入りにくいものを感じたが、ぎこちなく意見を出し合っている間になんとか話がまとまった。
その後、トイレの場所を男女別に水場から離れたところに決めるとか、建物を作るのは難しいのでついたて用の木の枝を用意する等の細かな話を続ける。議論をしているうちに切ない気分になってきたが、この島で生活していく上では避けられない事なのだと思い直した。
だいたい話がついたところで、俺は大事だと思うことを口にした。
「恥ずかしいかもしれないけれど、トイレに行くときは必ず誰かにそのことを言ってからにしてね。姿が見えないからって探しに行って……不幸な事故が起こるとか、絶対に避けたいから」
「ああ、あうう……そ、そうだね。あ、あたしは夕夏ちゃんに言うから……じ、事故なんて起こったら」
浜本さんは恐れおののき、潮見さんは固まった表情のまま小刻みにふるえていた。俺たちは、何を話しているんだろうという気持ちにもなるが、お互いに助け合って生きていかなくてはならないのに信頼関係が損なわれては困るのだ。
かっこいい話ではないが、これが大自然の中で生きていくということなのだろう。
***
あれこれとルールを決めたところで、ほっと一息ついた。固まっていた潮見さんは、やわらいだ表情をしている。
「ふう、やっと落ち着くことができました。考えてみると、必要に迫られる前に取り決めができて良かったです。すみません、守川さんには色々と気を使わせてしまいましたね」
「気にしなくていいよ。急にサバイバル生活をするってなったら、みんな戸惑うと思うんだ」
正直なところ、俺もわりと動揺してしまった。彼女たちの反応を見て、逆に落ち着いてしまったというのはあるが。
「はあ、取り乱してしまって恥ずかしいです。普通の生活でも、家を建てるとなったらトイレのことは検討しますよね。2階にも欲しいだけとか、トイレと浴室が一体化しているのは嫌だとか」
「潮見さんは、トイレは何箇所かほしいタイプ? 俺は、男性用と女性用はわけてほしいかな」
「あっ、そういう話は聞いたことがありますね。覚えておきます」
「2人とも、ちょっと待ってよね」
なごやかなに話していると、浜本さんが割り込んできた。
「前にも言ったけれど、そういうことを軽々しく言うのはどうかと思いますっ。年下の女の子に、家を建ててあげるよ、みたいなことを言って惑わせるのは良くないんじゃないかな」
「変な言い方しないでよ、浜本さん。惑わせるとかじゃなくて、固くなった雰囲気をやわらげようとしただけじゃないか。そもそも、家じゃなくてトイレの話だからね。やっぱりさあ、生理的欲求を我慢することは……」
「ああっ、そうだった。……ど、どうしよう」
浜本さんは急に大声を出すと、潮見さんの手を引いて俺から距離をとった。彼女たちは、ひそひそと内緒話を始める。
「えっ、俺、何か変なこと言った?」
「守川君は、そこでストップ。わたしたち、女子同士で相談があるから」
急に真剣な表情になった女の子に戸惑ったが、黙って見守ることにする。彼女たちは、ささやきあうように話したり首をかしげたりしている。潮見さんが、身につけていたウエストポーチを示して何やら言うと、浜本さんはコクコクとうなずいた。
一体どうしたんだろう。俺に対して、怒っているわけではないようだが。女の子同士の相談って何だろう。
「あっ、もしかして……」
「守川君、ストップ」
口を開こうとした俺を、浜本さんが制止した。彼女は、女子代表と言わんばかりに前に出てくる。
「えー、あたしたち女子で相談した結果、しばらくは問題ないです。困ったことがあったら言うから……えー、配慮的なことをしていただけると……その、何ていうか」
かしこまった口調で話す浜本さんだったが、だんだん変な話し方になってくる。おそらく、サバイバル生活だと女の子は男には無い悩みがあるのだろう。
「うん、わかった。……というか、わかったと思う。言いにくいかもしれないけれど、困ったことがあったら相談してね。具合が悪かったら休んでもらっていいから。怠けてるとか、絶対に思わないからね」
「あう……えー、配慮に感謝します的な? とにかく、そういうことでお願いね」
俺たちは、よくわからないままうなずきあう。再び固い表情になってしまった潮見さんも、ぎくしゃくとうなずいていた。
サバイバル生活を送るとなると、普段は考えもしない問題が次々に現れるのだ。俺たちの悩みとは正反対に、海は青く美しく輝いていたのだった。
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