第20話 クランリー農場の食材
クランリー農場から戻ってきて一夜が明けた。
朝食に早速もらった卵で目玉焼きを作って食べるとしよう。
昨日家に帰って来てから食品庫で貰った物を眺めてニマニマしながら決めたのだ。
その時、ふとフライパンも鍋もフライ返しも何も無いことに気がついて直ぐに森で素材を集めて作った。
ついでに某ハンバーグチェーン店を真似して木の皿も作成。
ラシフィーヌ様、料理をするにも食べるにも肝心なものが足りませんがどういうことでしょうか?
とつい、作りながら心の中で問い詰めてしまった。
でも、この国は地球よりも日が長いようでよかった。だから、クランリー農場から帰った時はまだ明るかったから調理道具が作れたのだ。
それに必要な調理道具はナイフを作ったときの材料と同じだったから直ぐに作れたのはラッキーだった。
それにしても、フードプロセッサー、魔導レンジ、ミキサー、パスタマシーンまであるのに肝心の鍋やフライパン、包丁などが無いのは何故だろう?
ラシフィーヌ様、色々と抜けがあるのではないですか? とまた心の中で問い詰める。
さて、それでは早速目玉焼きを作るとしようか。
気持ちを切り替えて作業に入る。
バターをひいて、温まったフライパンに卵を割ってジュッと音がしたら水を少し入れて蓋をして弱火で数分。黄身がしっかり固まらないうちに蓋をとって綺麗に焼けた目玉焼きをお皿に盛った。
それとフルーツサラダ。
神の庭で取ってきたフルーツを切って盛り合わせる。
うーん、これにベーコンかウィンナーが付けば完璧なのだが……。
果たしてこの世界にあるのかしら?
塩を掛けて一口食べたら前世で食べた目玉焼きを思い出して何だか懐かしくなった。
塩味でも美味しいけど、やっぱりバターで焼くなら醤油だよね。うん、醤油もこの世界にあるの分からない。無ければ作ろうかな? 作るなら大豆が必要だよね。
セレンさん達に貰った豆は大豆と言うより白い金時豆の様だったし……今度探してみようか。
必要なものがどんどん出てくる。
それでも自分のお店を始めたいと思えばがんばれるのだ。
グレンは目玉焼きを初めて食べるようで、肉球で黄身の部分をツンツンしていた。力を入れすぎて黄身が破れて肉球に付いてしまってショックを受けた顔をしていた。
ガーン! という擬音語がグレンの頭の上に見えたように感じた。
黄身の付いた肉球を眺めた後にペロペロ舐めていたのは普通の猫みたいで可愛いい。
「ふむ、中々美味であるな」
誤魔化すようにそう言ったグレンに私は顔を緩めた。
和むなぁ……
そう思ったのは内緒だ。
もう私がグレンの事を猫と見なしていることがバレてしまう。
グレンは地球に何度も視察していて、地球の料理に興味があったそうだ。でも、地球では精神生命体のままで物体化出来なかったから食べることが出来なかったんだって。
だから、料理とも言えないこんな目玉焼きを嬉しそうに食べてるんだね。
朝食後、チャイ……もといチャーゴ茶を入れてミルクをたっぷり入れ、蜂蜜を少し垂らして飲んだ。
やっぱり美味しい。グレンも普通に飲んでいる。
あれ? 猫ってお茶飲んで大丈夫? カフェインが入って無ければいいんだっけ? チャーゴ茶ってカフェイン入っているのかなぁ?
私はやっぱりすっかりグレンを猫扱いしているのだった。
さて、それでは今日はバターとチーズを作ってみようか。
バターの手順はクランリー牧場で試作した通りだ。小麦粉も卵もゲットしたし大分料理環境が整ってきた。
私はニンマリした。これで料理の幅が広がる。
牛乳を瓶に入れて振り、脂肪分が分離してきたら布で漉して、白い液体と固形物を分けた。低脂肪牛乳とバターだ。
「出来たぁ!」
嬉しさに思わず声を上げた。
「先ずは味見」
ダンテさんの所でフレンチトーストを試食したが、今回はバターその物の味が分かるようにセレンさんに貰った堅パンを薄くスライスして軽くオーブンで焼く。
熱々のパンの上にバターをのせると溶けてパンに染みこんでいく。
試食を考えて朝食のパンを抜いていたのだ。
美味しそうだ。やっぱりバターの香りは食欲をそそる。
早速一口食べて見た。
「おいひぃ!」
私が声を上げるとグレンがこっちを物欲しそうに見ていた。
あっ、ごめん、忘れてたわ。
私は直ぐにグレンの分も焼いてバターを塗って渡した。
グレンははむはむと食べている。あら? 猫舌じゃないのかしら? と疑問を掲げつつグレンがパンを頬張る姿に癒される。
やっぱり猫が一生懸命食べている姿は可愛いね。本当は猫じゃ無いけど……。
「あっ、そうだ!」
私は思い出して食品庫から黄金の液体が入っている瓶を取りだした。
「これを掛けるともっと美味しいよ」
そう言ってグレンの残っていたパンと私の囓りかけのパンに掛けた。
バターと蜂蜜のハーモニー。これぞ蜂蜜バタートースト。
パンは多少ぼそぼそしているけど、焼いたから表面はサクッとしていた。バターを多めに塗ってしっとりとなった表面に蜂蜜をたっぷり。
「なんとっ! 其はこれが気に入ったぞ!」
グレンが嬉しそうにぱくぱく食べている。美味しそうに食べる顔を見るのは嬉しい。例え猫……神獣でも……
思い出した。私は私の作った物を美味しそうに食べる人を見ると幸せな気分になったことを。だから、前世でお店をやって多くの人に美味しい物を食べて貰いたいと思っていたことを。
そして、その夢の実現間近で私は命を落とした。
でも、この世界で私は絶対に美味しい物を提供するお店をオープンしよう!
私は改めてそう強く胸に誓ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます