第19話 爆弾宣言
「あの、こんなに頂いて申し訳無いって言うか……私何のお返しも出来ないし……あっそうだ!」
もごもご言いながら、私は何かお返しが出来ないか考えて思い当たった。
そして、バッグの中から(正確にはバッグと繋いだ家の中だけど)バナヌとプランを取りだしテーブルの上に積み上げた。
「よかったらこれ食べて下さい。お返しです」
私がそう言って笑顔を向けると何故かみんなポカンと口を開けて果物を凝視していた。
……………………。
「こっ、これはまさか、バナヌではないか?」
一番先に声を上げたのはロイ爺ちゃんだった。
「「「バナヌッ?」」」
すると一斉にみんなが驚きの声を上げた。
「えっ? これがバナヌなの? 僕食べたことないや」
ラルクが言うと、
「ええ、確かにバナヌだわ。昔、新婚旅行で泊まったホテルで一度だけ食べたことがあるもの」
セレンさんが確信を持って肯定した。
「バナヌを目にするのは何十年ぶりかねぇ?」
マギー婆ちゃんは感慨深げに零す。
いやいやいや、バナヌってそんなに大げさに驚く物なの?
もしかして、これは出しては不味かったのかしら?
どうしよう……。
「これはいかん! こんな貴重な物は貰えない」
ダンテさんが我に返って焦った声を上げた。
「あっ、あの、大丈夫です。たくさんあるから。私の家にある食品庫、時間停止機能が付与されていてそこに保管されているんです。それに空間拡張付でたくさん保管できるから、これと同じ果物も山のように保管してるんです。」
私がそう言った途端みんなが口を噤み固まってしまった。
あっ、またやってしまったかも知れない。
どうしよう……。
やっぱりいくら何でも魔法がある世界だからって時間停止機能付なんて普通じゃないのかも知れない。
まずいわね……。
「ねぇ、そのバッグ、見た目よりたくさん入るんだね」
ここにきて更にラルクの爆弾発言
みんなの視線が私のバッグに集まった。
「空間拡張付のバッグ……なのか……?」
ダンテさんがぼそりと零した。
「それはまた高価な物を持っているなぁ……」
ロイ爺ちゃんが目を丸くして言った。
「あっ、お金は掛かってないんですよ。自分で作ったから」
「「「えっ? 自分で作った?」」」
ダンテさん、セレンさん、ロイ爺ちゃん、マギー婆ちゃんが声を揃えて驚いている。
…………。
暫し無言になる面々。
「ほうほうほう、なるほど。カリンは国家魔導師並の魔法が使えるらしいな」
固まっていた3人の中で最初に声を発したのはロイ爺ちゃんだった。
ダンテさん、セレンさん、マギー婆ちゃん、ロイ爺ちゃんはお互い同士顔を見合わせながら何やら訳知り顔で頷いた。
「カリンちゃん、ありがとう。この果物達はありがたく頂くわ。だからカリンちゃんも欲しい物があったら遠慮なく言ってね。でも、他の人にそのバッグ自分で作ったなんて言っちゃダメよ」
セレンさんがそう私に言うとダンテさん、マギー婆ちゃん、ロイ爺ちゃんが頷いた。
ラルクは首を傾げ黙ってその様子を見ていた。
本当は、空間接続バッグなんだけど空間拡張バッグだと言うことにしておこう。何となく言わない方が良いような気がしたから。
「こちらこそありがとう。それで、今回はこの食材いただきますけど、次回からは買わせて下さい。じゃないと只で貰うなんて申し訳無くて出来ません」
「分かった。では次回からはちゃんとお金を貰うよ。だからちゃんと何が欲しいっていうんだよ」
ダンテさんは私の気持ちを汲んでくれた。
貰った食材はバッグに入れて(バッグから直接食品庫に入れられるからね。ホント便利)私は自分の家に帰ることにした。
そうだ、もうこの際だからグレンの事、言ってしまおう。また驚かれるかも知れないけどあまりこの人達には隠し事をしたくないし、それに言った方がみんな安心してくれるかも知れない。
私は元来、隠し事とか苦手なのだ。直ぐに罪悪感で後ろめたくなって心穏やかでいられなくなるのだ。
誰にでも言う訳じゃ無いが、この人達なら信頼できるだろう。
何てったって、初めて会った私を養女にしようとした人達なのだから。
そう思って私は又々爆弾発言をした。
「あの、この猫のグレンって実は神獣なんです」
みんなは又々固まってしまった。
「神獣?」
「あの伝説の?」
「本当にいるのか?」
「只の猫に見えるけど……」
「ねぇ、神獣って?」
「まさかっ!」
ダンテさん、セレンさん、ロイ爺ちゃん、マギー婆ちゃん、ラルク各々が言葉を発した。
「だから、グレンの背に乗って帰るので送ってくれなくても大丈夫です」
私がそう言うと、グレンが淡い光りを放つと背に鳥のような白い羽が現れ2メートル位の大きさになった。
それを見たみんなはやはり固まった。
「あの、じゃあありがとうございました」
私がそうお礼を言って帰ろうとしたんだけど
「カリン、ちょっと待ちなさい」
私の声で我に返ったダンテさんは頭を抱えながら私を呼び止めた。
溜息を一つ付くとダンテさんは私の目線まで腰を屈んでジッと私の目を見つめて言葉を発した。
「いいかい? カリン、このことは誰にも言っちゃダメだ」
「このこと?」
「そうだ。グレンが神獣であること。そのバッグのこと、時間停止機能付きの食品庫があること全部だ」
ダンテさんの言葉に得心がいった。やっぱり普通のことじゃ無かったみたいだ。
先ず、空間拡張付与に関しては可能なのは国家魔導具師程の技術を持つ者だけらしい。因みにこの国にいる国家魔導具師は二十人に満たないとのことだ。
次に時間停止機能付きに関してはこの国ではなくこの世界のトップクラスの魔導具師でさえ出来るかどうか分からないそうだ。
そして、最後に神獣。そもそも神獣はお伽噺の中にしか存在しないとされているそうだ。だから、目の前でグレンが変身する姿を見ても直ぐにはそれが神獣だとは信じられなかったようだ。
問題は、このことがこの国の王族に知られたらどうなるかと言うことだ。
このティディアール王国の国王バリディッシュ・ズィー・ディディアールは間違いなく名君と呼ばれているそうだ。いきなり召喚されて利用されると言うことも無いだろうが、名君であればあるこそ大局的に物事を捉える。
つまり、国に利があれば些末なことなど目を瞑る可能性がある。もし、私の力を得ることによって国が潤うならば利用しないとは言えないのだ。それ程辛辣に事を運ばなければ一国の王として統制することは出来ないのかも知れない。
と、懇々とダンテさんが説明してくれた。
とは言っても、私を利用するなんて出来るわけがない。私にはグレンがいるし、女神ラシフィーヌ様の加護があるのだから……多分。
でも、この状況でこんな事言えないけど……
私はダンテさんの言葉を受け、とりあえず無闇矢鱈に言わないようにしようと自分自身を牽制したのだった。
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