第9話 精霊の森

 今日は森を散策する予定だから使えそうな果実や木の実がないか探してみるのもいいわね。


「そうそう、何かカバンとかバッグとかが欲しいわね。採取したものを入れるために。それにタブレットも持って行きたいしどうしようかしら?」


『ならば作ればよい。材料があればカリンならそれくらい直ぐに作れると思うぞ。何せカリンはラシフィーヌ様から恩寵として創造魔法のスキルを賜っておるからな』


「材料? でも何が必要か分からないわ」


『それはタブレットに聞けば良い。作りたい物を頭に浮かべてタブレットに問いかけるのだ』

 なるほど、タブレットは作りたい物の材料も教えてくれるのか。私はグレンの言葉通りタブレットに問いかけた。


 頭の中に欲しい物を浮かべる。肩から掛けられてタブレットが余裕で入れられるサイズ。出来ればたくさんいれられるといいけど、でも大きすぎるのは困る。色はそうね淡い緑がいいかしら?


 そう考えながらタブレットを持って魔力を流した。


 ーーーー アスタロの蔦、カリンの身長、採取場所…… ーーーー


 すると、材料と共に採取できる場所まで表示された。地図が展開されこの家から一番近くでその素材が採取できる場所が点滅しているのだ。


 「あら、意外と近いわ。この家の裏で全て材料がそろうみたいね」


 厨房の奥にある勝手口から外に出て見ると爽やかな風が頬を擽った。地球に比べるまでもなく空気が澄んでいることが分かる。三角屋根の家を囲む木々がこの場所が森の中だと言うことを認識させる。


「マイナスイオンたっぷりね」


 都会の喧騒も人間のしがらみも忘れて田舎を旅した前世を思い出した。森の中にあるレストランで自然を満喫しながらランチを食べたことがあった。


 森の中だというのに意外と人が多くちょっとがっかりしてしまったのを覚えている。


 店側にしてみれば、人が入らなければ商売あがったりなのでそれは仕方ないのだが、仕事の時は普段から多くの人に囲まれているので旅行の時くらい人のいない静かな場所に行きたかったのだ。


 前世ではインターネットとかもあったので一度話題になれば田舎でも人が集まる。


 でも、この世界でこんな森でそう簡単に人は集まらないのではないか? この世界には多分インターネットなどないだろうし。ラシフィーヌ様は地球より大分遅れていると言っていたしね。


 それにこの家は森の中心を通る広い道から少し外れている。


 まぁ、それは追々考えていくとしよう。


 家の裏側に回るとキラキラ光る陽光を浴びた木々が茂り、サワサワと微風が吹く度に揺れていた。足下には、深緑に輝く草が足首を擽る。周りを見渡しながら深呼吸をすると澄んだ空気が体内を巡って行くのを感じた。


 時折、木々の間を飛び交う茶色い生き物はリスのように見える。動きが速すぎてよく見えないけど。高い位置にある木の葉が揺れる度に小鳥が飛び交うのが見える。


「あれっ? 何か光ってる?」

 ふと見ると木々の周りをふよふよ飛んでいる光りに気付いた。


『あぁ、精霊だな。カリンはラシフィーヌ様の加護があるうえ精霊の姿が見えるのだ。この世界でも精霊が見える人間はいるがそう多くはない』


「えっ? あれが精霊?」

 何とファンタジーな! 


 私はそっとそのふよふよしている光りの方に近づいて行った。良く見ると光りの中に小さな人型の女の子が見える。私に気がつくとニコニコ笑っている。


 きっと悪意がないのが分かるのだろう。


 指で突いてみたが、すーっと通り過ぎた。実体がないのだろう。精霊はこちらを見て一瞬きょとんとした顔になったが、またニコニコ笑顔になった。


 何だかこっちまでニコニコしてしまうわね。


 私は温かな気持ちになってとりあえず家の周辺を一周することにした。家の裏手に回ると小さな泉がキラキラと陽の光を浴びてその存在を主張していた。


「あら、こんな所に泉があるのね。あの光の玉も精霊かしら?」

 キラキラ光っていたのは泉の水面だけではなかった。いくつかの丸い光がその上を舞っていた。


『いかにも。ここは水の精霊の住処になっているようだな』


「この森には精霊がたくさんいるのね」


 そう呟いてそういえば……と思い当たった。タブレット情報でこの森は「ガイストの森」と言われていると示されていた。前世では「ガイスト」とはドイツ語で精霊を意味するんだったわ。それって何か関係あるのかしら? 


 と疑問に思ってしまった。


 果物といい、この森の名称といい地球と何らかのつながりが有るのかも知れない。そういえばラシフィーヌ様は地球贔屓だったわね。結構地球にあったものを取り入れているのかも知れない。


 私はふとそんな考えを持ちながら先ずはバッグを作る為の素材を集める為、周辺を散策することにした。

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