第10話 森の散策

 タブレットには地図が表示され目的の場所が赤く点滅している。その場所を目指して歩を進める。


 このタブレット、何と手に持たなくても私の目線に合わせて浮かばせることができる。しかも、頭の中で念じれば呼び出すことが出来、更に他の人の目には見えないから密かに鑑定することもできる。


 かなり高機能だね。


 森の中心を通る大通りに出ると疎らに人が歩いているのが見えた。


 おお、この世界に来て初めて人の姿を見たわ! 服装が異世界人っぽい! 疎らでも人が歩いている所を見るとこの辺りは危険な魔獣や動物がいないのだろう。


 冒険者風の装いをしている人が多い様に思える。チラチラとこちらを視ている人もいるような気がするが、きっと気のせいだろう。


 チュニックっぽい服にパンツ姿の人もいるから私が作ったチュニックもこの世界ではそんなに可笑しくは無さそうでちょっと安心した。……真っ白じゃなければだけど……。


 これからご出勤かしら……? 冒険者だとしたら、魔獣討伐とか? だとしたらグレンはこの辺りに魔獣はいないって言っていたから森の奥に行くのかしらねぇ?


「こんにちは、あなた冒険者には見えないわね。ヨダの町の子? 木の実でも採りに来たのかしら? それとも薬草?」

 私が人々の流れをボンヤリ視ていると不意に後ろから声を掛けられた。


 振り向くと皮鎧を身に纏い腰に剣を携えた琥珀色の瞳に金髪ポニーテールの美女が立っていた。


「えっ? 誰?」

「ごめんねぇ、こんな場所を可憐な少女が一人で歩いているから気になっちゃって、私はベッキー、冒険者よ。彼女たちとパーティーを組んでるの」

 苦笑しながら咄嗟に発した私の疑問に答えながらベッキーの後ろにいる他の美女達を目で紹介した。


 やっぱり本当に冒険者なんだぁ……

 心の中で感動しつつ、三人の美女達に目をやった。


「私はメラニー、よろしくね」

「ティアよ……」

 深緑色の瞳に赤髪を三つ編みに結った黒いワンピースに黒いフードに杖を持った魔法使い風の女性はメラニー、亜麻色のショートヘアに焦茶色の瞳、薄緑のチュニックで背中に弓を背負っているのがティアと言うらしい。


 見た目からして10代後半と言ったところだろうか? 多分、ベッキーが剣士、メラニーが魔法使い、ティアが弓使いかな? まぁ、見たとおりだけどね。


 ニコニコ顔のベッキーとメラニーに対してティアは無表情だ。でも、悪いイメージはしない。


「ベッキーはお節介なのよ。困っている子とか見ると放って置けないのよね」

「そうなんですか? でも大丈夫です。グレンもいるし、あっ、私の名前はカリンって言います」


 私はメラニーの言葉に「困ってないし」という言葉を何とか抑えてグレンの方を目で指し示した。



「それにしても、この辺では珍しい髪と目の色をしているのね」

「実は最近越してきたんです。だから、生まれはこの国じゃないんです。」


「そう、でも赤松の群生の奥に行っちゃだめよ。その先は魔獣が出るから。貴方みたいな可憐な女の子が言ったら直ぐに食べられちゃうから」


「心配してくれてありがとう御座います。絶対行かないようにします」


 ベッキーは私の出自のことをあまり深く聞いてこなかった。冒険者だけあって色んな場所で色んな人種を見てきたからかも知れない。でも、私の髪と瞳の色は異世界だからこんな色なのかなと思っていたけど、この国では珍しい色なんだ。


 私は彼女たちに感謝の言葉を述べて分かれた。


 この辺りに魔獣がいないのは赤松の群生が結界の役割をしているらしい。


 そして、冒険者達が森の奥に向かっているのは赤松の群生の先にある森で魔獣を討伐する為のようだ。魔獣の素材は魔導具や薬の原料になるので高く売れるのだそうだ。


 私は魔獣がこの辺りに出没しない理由を聞いて妙に納得した。とは言え、私がグレンと一緒にいる限り魔獣に出会うことはないのかも知れない。


 神獣であるグレンの気配は魔獣を寄せ付けないからだ。



 タブレットの示す目的の道は大通りから少しずれた場所だった。獣道のような細い道を1分ほど辿っていく。目的の場所には淡い緑色の蔦が絡まった大きな木が数本ランダムに並んでいた。その木々は私位の子が3人で腕を回しても囲めないほど太くて大きい。


「すごいわね」

 私はその中の一つの木の前まで進んで行くとあまりの太さに感動して声を漏らした。


 前世でもこんな巨木は滅多にお目にかかれなかった。多分、樹齢千年は超えているのかも知れない。この木の周りに螺旋状に絡まった蔦がアスタロの蔦なのだろう。


 さて困った。この蔦はしっかりと巨木に絡まりそう簡単に採取できそうもない。


「とりあえずナイフが必要ねぇ」


 私はナイフを作る為の材料を調べるべくその形状をイメージしてタブレットに魔力を流した。


 ーーーー 蒼鉄、カリンの拳2つ分、木の枝(何でも良い)、カリンの足の大きさ ーーーー


 タブレットが私が欲しい答えを表示してくれる。

 

 どうでも良いが私の身体を基準に分量を示すのはどうかと思う。


 それにしても蒼鉄って何? 普通の鉄とは違うのかしら?


 疑問に思ったら直ぐに調査。とは言え、タブレットに聞くだけだけどね。


 ーーーー 蒼鉄とは、アスティアーテの鉱物に含まれる鉄の一種。錆びにくく丈夫で錬成しやすいため主にナイフや剣などの武器の素材として使用される。 ーーーー


 なるほどと頷き、早速タブレットで蒼鉄の場所を確認した。その場所は、アスタロの蔦が絡まった巨木の直ぐ後ろを示していた。


 巨木の後ろに回り確認すると、直径約0.5メートル、高さ約1メートル程の鉄岩が存在していた。きっとこの鉄岩に蒼鉄が含まれているのだろう。


「さて、どうしたものか?」

 私は青みがかった鉄岩の前で腕を組んで考える。この大きな鉄岩からどうすれば蒼鉄を取り出せばいいのだろうか?


 兎に角、考えていても仕方が無いのでその辺りで拾った木の枝を鉄岩の上に乗せてそのまま魔法を展開してみることにした。


 丈夫で錆びない、そして切れやすい、手に馴染むナイフ。

 そう頭の中にイメージして両手に魔力を集め、鉄岩とその上に乗せた木の枝の方に向けて魔力を放出した。


 掌に現れた光りが魔方陣を模ると、複雑な文様が描かれそこから発した光りが木の枝と鉄岩を覆った。


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