第11話 作る! 作る! 作る!
光りが消えると鉄岩の上に1本のナイフがあった。
「おぉ! 出来たぁ!」
私はナイフを右手に持ち天に向かって振り上げ思わずポーズをとる。もちろん、左手は腰に当てている。
首を傾げるグレンに気づき、ふと我に返るとちょっと恥ずかしくなりコホンと咳払いをして誤魔化した。
鉄岩を見ると一部が欠けたようになっている。きっとナイフの材料として使われた分だろう。
しっくりと手に馴染む自作のナイフは使い勝手が良さそうだ。早速、先ほど見つけた巨木に絡まっているアスタロの蔦をナイフで剪裁した。
これで漸くバッグが作れる。でも、右手に持つナイフを見て鞘とナイフホルダー付のベルトが必要だと気付いた。タブレットに聞くと丈夫な物だと動物の皮が必要とのこと。
え? 動物の皮って? もしかして動物を狩って殺さなきゃならないの?
いや、無理無理無理! あんな平和な国、日本で暮らしてたんだよ。無理に決まっているでしょう。そりゃあ、前世でも革製バッグとか靴とか持ってたよ。でも自分で動物殺してその材料を調達するのはまた違う。
そこで動物の皮以外で作れないかタブレットに聞いてみたら耐久性は劣るけど木の皮でも作成可とのこと。
なので自作のナイフの切れ味にびびりながら近くの木の皮を削ぎナイフと同じように直ぐに作成した。
出来たベルトを腰に付けてナイフホルダーにナイフをセットする。何だかこれだけで格好が様になっているような気がする。
うん、冒険者みたいね。私もこれで立派な異世界の住人。あっ、元々このからだは異世界の住人だったわ。
気を取り直して漸くアスタロの蔦を材料に肩掛けバッグを作成することにした。
先ずはイメージを膨らませる。今手にしているタブレットの倍位の大きさ、肩から斜めに掛けて腰の位置くらいに届く長さの肩紐、丈夫で破れにくい感じ……
そこまで頭に浮かべてふと考える。
「ねぇ、グレン、このバッグに空間拡張機能を付けることは出来ないかしら?」
前世の異世界小説物によくあったよね、亜空間収納的な物とか……
『ああ、それくらいなら出来ると思うぞ。なんてったってカリンの魔法はラシフィーヌ様から下賜された恩寵であるからな』
やっぱり出来るんだ……流石異世界!
「あっ、ちょっと待って! それよりも、このバッグの中と家の中を繋げることは出来ないかしら? このバッグに物を入れると直接家の中の好きな場所に収納出来る様にするとか、反対に家の中にあるものをこのバッグを媒介にして取り出すとか」
『なるほど。出来るだろうな、なんてったってカリンの魔法は……「あっそう、出来るのね」』
私は、グレンの言葉を遮り出来ることを確認した。だって、その後にグレンが言うことは分かっているからね。まぁ、神獣様の言葉を遮るなんてどうかと思ったけどグレンが気にしてないのでよしとしよう。
それにしても女神様の恩寵恐るべし……
では、改めて肩掛けバッグを作るとしましょうか。
そうして、私は家と空間を繋げたバッグを作成することに成功した。もちろん、盗難防止対策も忘れない。私以外の人がこのバックを使えば只の蔦製のバッグに過ぎない。万が一の対策は万全なのだ。
出来上がったバッグの中に片手を入れて家の中をイメージする。パントリーにある食品保存庫が頭の中に映像として展開された。試しにその中から昨日神の庭から採ってきたプランを取りだしてみた。そしてまた元に戻してみる。
このバッグは魔力を流して家の中をイメージすれば家の中に繋がるが、只手を入れただけなら普通のバッグと変わらない。
「うん、問題ないわね。これで容量を気にせず素材集めが出来るわ」
私は満足げに頷いた。
次の問題点を解決するための採取すべき素材を考える。
薄紫のシンプルなワンピース。腰には木の皮で作ったベルトにナイフホルダー、肩から掛けているのは先ほど作ったばかりのうす緑色のバッグ、そして転生していたときから履いていた茶色い革の靴。それが今の私の格好だった。
次はやっぱり真っ白のチュニックとスパッツ何とかしなきゃ。
「やっぱり染料が必要ね」
まぁ、布を染めるための染料なら前世の知識で何とかなる。草木染めとかあったしね。
あっ、でも黒く染めるための染料はどうすれば良いかしら? 木炭……かしらね。
先ずは草花から。
チェロと言う名の露草に似た小さな蒼い花、レティアと言う名の赤いパンジーに似た花、そしてヨミと言う名のヨモギに似た草。
タブレット情報を元に採取する。
次に木の枝から木炭を作った。
さて、早速アラクネの糸で作った服達を染めることにしよう。
バッグに手を入れて魔力を注ぐと家の中に接続される。頭の中に浮かんだ映像を元にタンスの中にある目的の物を捉えるとバッグから引き出した。
水色、薄紅色、薄緑色のチュニック、黒いスパッツ、綺麗に染まった服達を見て私は満足して顔が緩んだ。ついでにタオルも可愛く染めた。
次に必要な物は……?
そうそう、石けん類ね。シャンプーにトリートメント、ボディーソープに食器洗い石けん……
後、歯ブラシ、歯磨粉、化粧品はまだ若いから基礎化粧品くらいかしら?
う〜ん、以外と必要な物が多いわね。
とりあえず、快適なお風呂の為に石けんから作ることにしましょ。
私はタブレットに問いかける。
ーー 石鹸の材料を教えて。出来ればこの近くで調達出来る材料で……そうね、前世の平均的な固形石鹸の5個分くらいあるといいかな? ーー
ーーーー クルンの油20個、ロタの草、水 ーーーー
ん? クルン? クルンって何? と思ってタブレットに聞いたら前世の胡桃と似た木の実だった。
材料は私の希望通り近くで調達出来たので、創造魔法で石鹸を作った。良い匂いのする石鹸が欲しかったので近くで採った花の香りを付けた。前世の花に例えると見た目は黄色のコスモス、香はネメシアの様なフルーティーな香りだ。アスティアーテではリネアと呼ばれる森の中に咲く定番の花らしい。
次にシャンプーも作成。
材料はさっき作ったばかりの石鹸、水、蜂蜜、香り付けにリネアの花を使用する。
蜂蜜には酵素が含まれているので洗浄力が高く保湿性もある。
材料を準備して掌に魔力を流しイメージを膨らませると光りを帯びた複雑な魔方陣が出来上がりその光りは準備して置いたシャンプーの材料を覆った。
光りが消えると僅かに黄色く色づいた液体の塊が浮いていた。それがシャンプーだ。
予め作成しておいたガラスのボトルに出来上がったシャンプーを入れる。
何とガラスの材料ってその辺にある石や砂に含まれてるんだね。材料があれば創造魔法で作成可能だから直ぐに作れたよ。
あっ、蜂蜜なんだけどね、近くの木の上の方にかなり大きめのミツバチの巣を見つけたのだ。
空気砲を放ってその周りを真空状態にして気絶した蜂を一旦避けてから蜂蜜を頂いた。もちろん、その方法はタブレットに聞いたのだ。
空気砲を放ったのはグレンだけど……
ちょっと蜂が可哀想だから半分だけにした。
それでもたくさん採れたので残った蜂蜜は多めに作成しておいた瓶に入れ樹皮でコルクを作って蓋をした。
これは食用にするのだ。
ふふふ……。
蜂さんに感謝。私は手を合わせると次の作業に移った。
兎に角、思いつく限り必要な物を作成するのだ。
この森、材料に事欠かない。だから、ラシフィーヌ様はこの森に家を造ってくれたのかな?
早速、その日お風呂で手作り石鹸とシャンプーを使った。
良い香りに包まれて眠りについた私はいい夢を見られると思ったのだが、翌日の朝それが覆されてしまった。
くすんっ……。
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