第15話 異世界農場【其の一】
『ねぇ、グレン、どう思う? 大丈夫かなぁ?』
私は念話でグレンに相談した。
『ならば、森の家が見えるかどうか試せばいい。見えるようなら害意がないということだ』
なるほど……。
「あっ、あのっダンテさん! 今日はやっぱり家に送ってもらうだけで大丈夫です。家には結界が張っているから安全なんです。グレンが案内してくれるので後を付いていけば私の家に辿り付けます」
私は後ろに乗っているダンテさんの方に顔を向けるようにして言った。
「ほぅ、君の猫は随分賢いんだな。なら先ずは君の家まで送って行くことにするよ。君の言葉を疑う訳じゃ無いが本当にその結界が大丈夫なのか実際に見ないと安心出来ないからね」
うん? 私はダンテさんの言った言葉に首を傾げた。
見ただけで結界が大丈夫かどうか分かるのかしら?
私達3人を乗せた大きくて黒い馬は森の中心にある広い道に出て常歩で進む。その道を暫く行くと横道がある。私の家に続く道だ。樹木に覆われたその道は良く見なければ見逃してしまいそうだ。
馬ではその道を通れないので、三人は歩いて進む。グレンが先頭で私、ラルク、ダンテさんの順だ。
グレンが案内する通りに行くと目的の場所に辿り着いた。ダンテさんは家の前に来ると
「こんなところにこんな家があったとは…………」
と、不思議そうな顔をして呟いていた。
ダンテさんに私の家が見えると言うことは害意がないと言うことだ。
いい人そうだと思ったけど本当にいい人の様だ。
「ふむ、確かに強力な結界が張っているようだな。それに認識阻害も含まれている……?」
ダンテさんは私の家をジッと見つめて何やらブツブツ言っている。
「あっ、あの……ダンテさんは結界が張っているかどうか分かるんですか?」
私はここぞとばかりに疑問に思っていたことを尋ねた。
「……そうだな。私は魔力の流れが分かる。だから、この家にどんな結界が張られているのか大凡のことは分かるんだ」
ダンテさんの言葉に驚いた。
えっ? それって、この世界の人ならみんな分かるって事? それともそれは特別な力で分かる人は限定されるの? だとしたら意外とダンテさんてただ者じゃ無いかも……。
「この家が安全だと言うことは分かったよ。でも一度私の家に来てみないか? 私の家は農場を営んでいる。食材もたくさんあるから君が欲しいだけあげるよ」
「ありがとうございます。農場、行ってみたいです。でも食材はちゃんと買いますから譲って下さい」
「ハハハッ、君はしっかりしているね。じゃあ、このまま一緒に行こうか」
「わぁ! カリンも僕の家に来るの? やったぁー!」
私が一緒に行くことにしたらラルクが無邪気に喜んだ。
異世界の農場ってどんな感じ? 前世とはどこか違うのかしら?
私は初めての異世界農場に期待が膨らんだ。
森を抜けると辺り一面の草原が目に入った。草原の中に続く土を踏み固められたような道を3人を乗せた馬は速歩で進んで行く。
心地良い追い風が私達を後押しするように通り過ぎる。澄み渡る空に白い雲は前世と変わらずここが異世界であることが信じられないほどだ。
少し行くと、道が二つに分かれていた。左に続く道の方を見ると幌馬車がゆっくりと進んで行くのが見えた。その道がヨダの町に繋がっているとダンテさんが教えてくれた。
ダンテさんの話によるとその幌馬車は乗り合い馬車だと言うことだ。
乗合馬車はヨダの町とベスタの町を往復していて、それぞれの町から朝一と午後一に出発しているそうだ。片道半日もかかる道のりは前世の基準で考えるとかなり遠く感じる。
ベスタの町と言うのは、このタングステン領の領都エルドアに向かう途中にある町ででヨダの町よりもかなり大きい町らしい。
幌馬車には魔獣を警戒して結界魔法が施され、乗客を守ってくれるそうだ。とは言え、森の奥、つまり赤松の群生の先に行かなければそうそう魔獣の被害に遭うことは無いそうだが、魔獣以外の野生の獣が出没することもあるそうだ。
ダンテさんが私をあんなに心配したのはそのせいもあるのだろう。
私達は道無き道、つまり一面の草原の中を進む。
因みに右の道は港街へ続いているそうだ。
しかし、港街へは馬車で二日も掛かるらしい。
海の幸〜! とついつい心の中ではしゃいでしまった。馬車で二日はこの世界では近いのか遠いのか分からないが、前世の記憶を持つ私としては近いとは思えなかった。
グレンの背に乗って行けばもっと早く着くかしら? とすぐにグレンに頼ってしまう私。神獣を使い魔の如く扱っている感が否めないがグレンなら許してくれるだろう。きっと……
草原を暫く進んで次第に見えてきたのは、10センチ間隔で並ぶ3メートルもあろうかと思われる金属製のポールだった。農場を外敵から守るために農場の周りに張り巡らされているらしい。
金属製のポールの前で止まるとダンテさんが手を翳して魔力を放出した。すると、ポールの一部が地面に吸い込まれる様に下がっていき、農場の中が見渡せるようになった。草原が広がり、その奥には牛のような動物の群れがちらりと見えた。
私達を乗せた馬がそこを通り抜け農場内に入るとまたポールが迫り上がった。
魔獣や盗賊などから家畜を守るために張り巡らされたポールの塀は魔導具の一種で登録された魔力を持つ者しか通れない仕組みになっているそうだ。
これって前世よりも優れた設備ではなかろうか?
そんな疑問を「まぁ、異世界だしー」と自分自身を無理に納得させた。細かいことに一々拘っていては生きていけないのだ。
農場の中に足を踏み入れ、背の低い草に覆われたなだらかな坂道を常歩で進んで行った。次第に見えて来たのは入り口でちらりと目にした灰色の牛のような動物の群れだった。
「見えるかい? あそこにいる大きい牛たちは私の農場で飼っているんだよ」
私の視線を感じたダンテさんは牛たちが草を食んでいるのを指さして説明してくれた。
うん、思った通りあれは牛で間違いなかったようだ。前世の牛と色が違うけど……
草原の中で草を食む牛たちは長閑な景色に溶け込んで農場らしさを醸し出していた。
私は穏やかな風を受けながらその風景に癒される。
んっ?
徐々に近づいてくる牛たちをじーっと見ていると何だか違和感が…………。
「えっ? でかっ! まじででかっ!」
「そうだろう? 牛を見るのは初めてかい?」
ダンテさんはハハハッと笑っているけど、私が驚いたのはそうじゃない。
灰色の牛は色こそ違え前世の牛と同じ形だがどう見ても前世の牛の2倍近くはありそうなのだ。
しかも額の真ん中辺りに小さな白い角がある。
やはり異世界の生き物は地球とは違うと思った私だった。
牛の群れを抜けると3棟に分かれたそれぞれ平屋の家と2棟の大きな倉庫らしき建物が見えてきた。
「さぁ、着いたぞ」
真ん中にある一番大きな家の前で馬車を止めてダンテさんがこちらを振り向いて笑顔を向けてきた。ラルクが馬を飛び降り私も彼らに続いた。
「こっちだよ!」
ラルクが私の手を引いて家の玄関へ向かって引っ張っていく。私は抵抗せずラルクに従った。
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