第14話 お迎え

 グレンの案内で薬草は意外に直ぐに採取することが出来た。それ程遠く無い場所に有ったのも幸いだった。


「良かったね。でも、お母さん大丈夫なの。お医者様には見せたのかしら?」

 私は気になっていることをラルクに尋ねた。


「お医者様はお金がかかるから……それにそれ程酷くはないんだ。少し休めば大丈夫って言っていたから……」

 小さな声でラルクが自分自身に言い聞かせるように呟いた。もしかしたらこの国で医者に診て貰うのは多くのお金が必要なのかも知れない。


「そう、でも薬草には詳しいのね」

「うん、マギー婆ちゃんがねすごく詳しいの。だから教えて貰ったの」

「そうなんだ、おばあちゃんも一緒に暮らしているの?」

「うん、別棟だけどね。マギー婆ちゃんもロイ爺ちゃん、それとザルツ叔父さん達家族も別棟に住んでる」

 意外と大所帯ね。そう言えば農場を営んでいるってさっき言っていたから家族ぐるみでやってるのかな?


 そう考えていると、目の前から大きな黒い馬が人を乗せてこちらに向かってくるのが見えた。馬の上には筋肉隆々の大柄な男性が騎乗している。


 前世の馬よりも大分大きい様な気がする。でも、この世界の馬はそう言うものかも知れない。何てったって異世界だからね。


 ラルクより少し短いが同じ髪色のその男性はキョロキョロと辺りを見回していた。


 深緑の瞳が私達を捉えると、一瞬動きを止め直ぐに馬から下りてこちらに向かって駆けてきた。


 ラルクはハッとして固まっている。


「ラルク! 何で勝手に森に来たんだ? 一人で森に行ってはいけないと言っていただろう! どんなに心配したか!」

「ごめんなさい、父さん」

 男性がラルクを叱りながら抱きしめるとラルクは目に涙を浮かべて謝った。


 うっ、格好いい……

 

 この状況を無視して意に反して思考が逸れる私。

 全体的にガッシリとした体格、厚い胸板。包容力がありそうな落ち着いた雰囲気。

 しかも前世で憧れていたハリウッドスターに何となく似ている。


 私はラルクとラルクの父親らしい人の会話が耳に入らないほど見とれてしまった。


 そう、ラルクの父親らしいマッチョなイケメンに。


 もちろん、あくまでも恋愛対象を見るような感じではなくて、スターに向けるような憧れの目線なのだが……


「君は……?」

 ラルクの父親らしい男性は彼らの前にポカンとした顔で立っている私に気づき、目を止めると問いかけた。


「こんにちは、私はカリンって言います」

 我に返って慌てて挨拶した。


 ぺこりとお辞儀をした私に目を丸くした男性はこちらにゆっくりと近づいてきた。近くで見ると益々大きく見える。全体的にガッシリとした体格で身長は190センチはありそうだ。


 見とれている場合ではない。例えスターを見るような憧れの対象でもラルクの父親ならやはり奧さんであるラルクの母親もいるだろう。それにどうみても40才前後に見える。そんな彼にとってきっと私は只の子供にしか見えないに違いない。


 瞳の色はラルクと違うけど同じ髪色で良く見ると顔立ちも似ている。


「カリン……と言うのか。私はラルクの父親のダンテと言う。それにしてもこんな所に1人で来たのかい? 家の人が心配しているかも知れないよ。家まで送って行こう。家はどこだい?」

 どうやらかなりいい人みたい。見ず知らずの私を心配してくれてるようだ。


 でも、どうしよう。何て言ったら良いのかしら?


「あっ、あの……私この森に家があるんです。この森の入り口から少し奥に脇道があってそこ……」

 私が何とか言葉を発すると彼は目を大きく見開き私を凝視した。


「この森に……? まさか君はこの森の精霊ではないだろうね」

「ちっ、違います! ちゃんとした人間です!」

「ハハハッ、冗談だよ。でもこの森にそんな家あったかなぁ?」 

 慌てて否定した私に彼は可笑しそうに笑い、その後首を傾げた。


 ラルクと同じ疑問を口にするダンテさんに思わず「親子だなぁ」と思ってしまった。


「まぁいい、それでは君をその家まで送って行くことにするよ。家の人が心配しているかも知れないからね」


「大丈夫です。私の家族はこの猫のグレンだけだから。私、他の国から越してきたばかりなんです。両親が亡くなって祖母が住んでいたというこの森の中にある家を修復して住んでいるんです」

 と言うことにしておこう……。


「なるほど、その髪と瞳の色はこの国では珍しいからね。それにしても両親が…………ではやっぱりあの国の生まれなのか?」

 最後の方の言葉はよく聞き取れなかったけど、私の言葉にダンテさんは言葉を失ったようだった。


 やっぱり私の髪と瞳の色は珍しいようだ。森で出会ったベッキーさんが言っていたように……


「あの……本当に大丈夫です。家の中は魔導具設備で充実しているし、それにお金も多少あるので、そうよね、グレン」

 私はそう言ってグレンの方を見るとグレンは『ニャア』と鳴いてその存在を主張した。


「いや、いかん! こんな小さな子を1人にさせてはおけん! 一人じゃないと言っても猫じゃなぁ? 兎に角私達と一緒に来なさい。もちろんその猫も一緒でかまわん。さあ、一緒にこの馬で行こう。この馬は丈夫だからラルクと君が乗ってもビクともしないからね」


 有無を言わさぬ口調でダンテさんはそう言って、ラルクを抱き上げ馬に乗せたかと思うと私もいつの間にか抱き上げられて気がついたら馬の背の上に座っていた。


 ラルクとダンテさんの間に挟まれる感じだ。


 どっ、どうしよう。見た目はいい人そうだし、子供がいるなら大丈夫だと思うけど……


 私は、憧れのスター……ではなくて、イケメンマッチョなダンテさんの温かさに戸惑いを隠せなかった。

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