第13話 初めての友達

「こんにちは、君はこの近くのヨダの町の子?」

 なるべく愛想良く見えるため満面の笑顔で声をかけた。


 少年は驚いたように瞳を丸くしてジッとこちらを凝視している。

 目線は私より僅かに低い。やはり年下のようだ。


「この家の子なの?」

 小さな声で少年は呟くように言った。


「そうよ、最近引っ越してきたの」

「こんな所にこんな家あったかなぁ……?」

 少年は私に聞こえるか聞こえない位の小さな声を漏らした。


 少年の言葉をスルーすることにしよう。都合の悪いことは聞こえないふりが一番無難なのだ。


「ねぇ、もしかしてこの森に何か採りに来たの? 私、ここに越してきたばかりでこの森のこと分からないの。この森って何が採れるのかしら? 教えてくれない?」

「えっと…… 僕は薬草を採りに……後、木の実とかも採れる……」

 私の勢いに圧倒されたのか、一歩後ずさった少年はたじろぎながら答えた。


 ちょっと圧が強すぎたのかなぁ? 怯えている訳じゃないよね? だって私はこの世界では美少女の筈……怯える筈がない。そう自分自身に言い聞かせて謝罪の言葉を告げる。


「コホンッ、ごめんなさいね。この森に来てから初めて人に会ったから興奮してしまって……」

 私は今度は声のトーンを下げ、さらに言葉を繋げる。

 

「あの、私カリンって言うの。13才よ。貴方の名前は何て言うの?」

「……僕はラルク、10才」

「そう、よろしくね」

「…………よろしく……」

 私が挨拶をすると少年は戸惑い勝ちに挨拶を返してくれた。


 3つも年下の割に私と身長がそれ程変わらないのは気のせいだろうか? 


 私がチビってことかしら?


 遺伝によるものかしら?


 まぁそんなことどうでもいっかぁ……。


 深く考えないのが私の長所である。


 ラルクの見た目はお金持ちそうでも無いけど貧乏そうでもない。


 きっと平均的な家庭の子供なのだろう。


「やっぱりヨダの町から来たのよね?」

 私はさっき言った質問を繰り返した。


「えっとぉ、僕の家はヨダの町の外にある場所で農場をしているんだ」

「えっ? じゃあ、もしかして牛とか鶏とか育てて、牛乳とか卵とか生産していたりするの?」

 あっ、でもこの世界に牛とか鶏とかいるのかしら? うっかり前世の動物を口に出してしまった私はちょっぴり後悔した。


「うん、牛も鶏もいるよ」

 あっ、大丈夫だったみたい。

 私の心配をよそにラルクは直ぐに私が求める答えをくれた。

 それを聞いた私はもちろん目が輝いた。ヤッホー! 心の中で思わず叫ぶ。


 この世界でも牛や鶏がいるのね。これで卵と牛乳ゲットだわ! それに、牛乳があればバターもチーズもあるよね。だとしたらお菓子が作れるじゃない? 


「じゃあ、もしかして、バターやチーズも作ってるの?」

「バター? チーズ?」

 私の質問にラルクは小首を傾げた。それを見た私は思った。えぇっ? もしかしてバターもチーズも無いの? 牛乳があるのに? 


 でもここは異世界だ。前世にない物はきっとたくさんあるのかも知れない。


「あっ、何でもないわ」

 そのことに気づき、今言った言葉を取り消す。でもこの世界に無いとは限らないよね。もしかしたらこの子の農場では作って無いだけかも知れないし。


 もし無かったとしても牛乳があるのだから作ればいいのだ。


 兎に角、ここで先走ってはいけない。何とかラルクと親しくなってこの世界のことを教えて貰い、牛乳と卵を譲ってもらおう。


 いや、下心じゃないよ。やっぱり異世界でもお友達がいた方がいいし……


「ねぇ、ラルクって呼んで良いかしら? 私も一緒に薬草採取に行ってもいいかなぁ?」

「うん、いいよ」

「ほんとに? よかったぁ! ねぇ、ちょっと待ってて準備するから」

 ラルクが微笑んで私の参加に了承してくれたので、私は喜々として準備をする為に踵を返した。


『其はここで待っておるぞ』

 グレンはラルクに撫でられながら私に念話を飛ばして来たので私も「分かったわ」と念話を返した。


 家の中に入ると、バッグを肩に掛けて直ぐに家を出てラルクの所に戻った。

「お待たせ」

「ううん、そんなに待ってないよ。ところでこの猫なんて言う名前?」

 ラルクがグレンのことをよほど気に入ったのかグレンから目を離さない。


『グレンだ』

「あははっ、この猫僕に返事しているみたい。でも、ニャアって言っても何て言ってるのか分からないよ」

「この子はグレンって言うのよ」

 そう、グレンの言っている事は他の者には分からない。だから、私が代わりにラルクに答えた。


 ラルクの様子からすると猫はこの世界でも珍しくは無いようだ。


「薬草って何の薬草を採りに行くの?」

「母さんが腰を痛めてあまり動けないから……だから湿布と痛み止めに効く薬草を探しているの。ツワフキ草とオオバコ草と言う薬草なんだけど。こういうの」

 ラルクは一枚の紙に書かれた薬草の絵を私に見せてくれた。あら? 何か前世でも聞いたことがある名前ねぇ。ラシフィーヌ様、やっぱり地球贔屓だわね。


 ツワブキと言えば蕗と似ている植物で佃煮にすると美味しいのよねぇ。それにオオバコも料理に使えるのだ。もちろん、どちらも薬効がある。

 ついつい前世で作ったレシピを思い浮かべてしまう。


 私も採取しておいて後で何か作ろうかしら?


「それってどこにあるか分かるの?」

「森の奥ってだけしか……いつもは母さんと行くんだけど……道は何となくしか覚えてない」

 私の質問にラルクは首を横に振って小さな声を零した。


 ならば、私がタブレットで探せば良いんじゃない? あっ、でもこのタブレットのことは知られない方がいいかなぁ? これって女神様仕様だしきっとこの世界にないだろうなぁ。そもそもタブレットは他の人に見えないみたいだからきっと大丈夫ね。


 私は早速タブレットを呼び出した。さっきラルクから聞いた薬草が生えている場所を心の中で聞いてみる。先ずはツワフキ草だ。


 タブレットが示した場所は意外と近くだった。


 さて、どうしよう? いきなり薬草のある場所をラルクに教えても越してきたばかりの私が知っているのは不自然かも知れない。そう考えているとグレンの姿が目に入った。


 そうだ、グレンはこの森で拾ったことにして、だからこの森のことに詳しい事にしよう。


 その事を念話でグレンにお願いして、ラルクの前でグレンに指示するように振る舞えばいい。


『ねぇ、グレン、この薬草の場所を案内するように私達の前を歩いてくれない?』

『なるほど、構わぬぞ』

 薬草の書かれた絵をセレンに借りてグレンに見せて、「これがある場所知ってる?」と聞くと私達の少し前に躍り出る。


 グレンがニャアとこちらを振り向いて普通の猫のように鳴いた。

「ラルク、グレンがあっちの方にあるって言っている見たい」

「えっ? この猫ちゃん僕達の言っていることが分かるの?」

「ええ、そうよ。すごく賢いでしょ? グレンはこの森で拾ったの。だからこの森に詳しいのよ」


「へぇ、すごいね」

 ラルクは何の疑いもなく感心した様子だった。


 素直ないい子だね。



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