第7話 タブレット
「平皿、スープ皿、コップがそれぞれ1個づつあるわね……これもラシフィーヌ様作よねぇ……」
パントリーの棚を1段ずつ確認していると、目の前の棚の上に黒くて平べったい板のような物が置いてあることに気づいた。
スマホの倍位の大きさで角が少し丸くなっている。片手で簡単に持ち上げられとても軽い。棚に置かれていた時は黒く見えたのに手で持つと若干透き通って見えた。
「なんだろう? これ……」
『それは情報を得るための魔導具だ』
「えっ? 魔導具? もしかしてスマホみたいな物?」
『まぁ、似ていると言えば似ているかも知れんが、通信機能は付いていない。その板に魔力を流し知りたいことを心の中で唱えれば教えてくれるのだ。アスティアーテの情報も地球の情報も得る事が出来るぞ。地球に関しては其が五千年程調査した故、情報量は十分であろう』
私が小首を傾げて疑問を投げかけるとグレンが直ぐに教えてくれた。それよりも、グレンが5,000年も前から地球に来ていたことに驚いた。
地球のこと私より知っているんだろうな。特に私、歴史苦手だったし……
でも、このタブレットがあれば情報を取得できるから問題ないわね。
さて、それでは早速タブレットに聞いてみよう。
先ずは……
ーー 私が今いる場所は何て言う国かしら? ーー
私は一番気になっていることをその魔導具に向かって心の中で唱えた。
ーーーー ティディアール王国。人口三千万人。人口、面積共全世界第4位 ーーーー
「へぇ〜、私ってばかなりの大国に転生したのね」
ーー 私が居るこの森について教えて、そうね、場所とか名称があれば ーー
ーーーー ティディアール王国の王都グレサリアから南へ馬車で5日、タングステン領の東、ヨダの町の近くにある森でガイストの森と呼ばれている ーーーー
「なるほど、なるほど。と言うことは、ここから一番近い町がヨダの町と言う事ね。王都から結構離れた場所の様だからそれほど大きな町でもないのかしら? 色々落ち着いたら行って見よーっと! それにしても地図まで表示されるなんて至れり尽くせりね」
私は、タブレットみたいな魔導具を見つめ口角を上げた。
そして、色々この世界やこの国のことについて調べた。そのお陰でこの世界やこの国の基礎知識が備わったのでは無いかと思う。
この世界は大きく分けて三つの大陸がある。その中でも最も大きな大陸テネシン大陸にある国がこのティディアール王国だ。ティディアール王国はこのテネシン大陸では四番目に大きな国だ。
では、この世界で最も大きな国はと言うと大陸一つが一つの国として存在するテルル連邦国である。テルル連邦国には様々な人種が居住しているらしい。
前世で言えばアメリカ合衆国がそれに当たるのでは無いだろうか? と勝手に想像してしまった。
この世界の国々は基本的に封建国家である。つまり、権力を中心に主従関係が組み込まれた政治により統治されている。王族の下には貴族が傅き、その下には平民が傅く。
う〜ん、封建制かぁ〜、これって前世の歴史を鑑みるとその内廃れるのでは? まぁ、この世界は前世よりも大分遅れているようだし、魔法もあるようだからそうとは限らないのかしら……?
封建制とは言え上に立つ者が賢王であれば国民は幸せに暮らせるだろうけど……。ここに来たばかりでまだこの国が良い国かどうかは分からないけど追々分かるだろう。少しずつ知ればいい。時間はたっぷりあるのだから……。
小説や映画では横柄な王族や貴族の事が描かれていたりしたけど、いるんだろうなぁ、そう言う人達。
まあ、この場所は王都よりも結構離れているしそうそう関わることは無いだろうけど、兎に角、権力者に近づくと碌なことにはならないような気がする。余り関わりにならないようにしよーっと!
この世界では目立たず、まったりとした日常を過ごそうと私は心に決めた瞬間だった。
で、この世界で生きていくために肝心なこと、お金についても調べてみた。
この国の貨幣は、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、黒金貨の5種類の様だ。
銅貨一枚が100ロンで日本円に換算すると約100円。銀貨一枚が1,000ロンで日本円に換算すると約1,000円。金貨一枚が10,000ロンで日本円に換算すると日本円で約10,000円。白金貨一枚が100,000ロンで日本円に換算すると日本円で約100,000円。黒金貨一枚が1000000ロンで日本円に換算すると約1,000,000円と言うことだ。
そして、一般庶民の1月の生活費は約50,000ロン、つまり日本円で約50,000円だ。
因みに、この世界ではどの国でも貨幣価値は同じのようだ。但し、作られた国によってコインに施されている絵柄が違うようだ。
で、ここで重要な問題がある。今、私にはお金がない。神の庭に果物があるから飢え死にすることはないだろうが、それだけでは料理することが出来ない。つまり、折角女神様から頂いたお店をオープンすることが出来ないのだ。
何か売れる物はないだろうか? そう思って寝室へ行って家捜しすることにした。女神様から頂いた物だけど売ってもいいよね?
寝室に入り、先ずはタンスの中身からチェックする事にした。
「ん? あれ? さっきこんな物あったっけ?」
私はタンスの上に置いてある木で出来たなにやら熊らしき頭が付いている円柱の置物を手に取った。熊の頭は現実味がありすぎて何だか可愛くない。高さは20cm位ある。持ち上げる時にジャラッと音がした。中に何か入っているみたいだ。
「中が空洞になっているのかなぁ? どうやって開けるのだろう?」
私が徐に熊の頭を引っ張ると、ポコッと言う音と共に簡単に取れてしまった。中には銀色のコインがいくつも入っていた。
「えっ? お金? 何で?」
暫し、固まったが前世の記憶が蘇ってきた。
そう言えば、前世では500円玉貯金をしていた。プラスチックの熊の貯金箱に。もしかして、それがこの世界バージョンで女神様が再現してくれたのだろうか?
『それは前世のカリンの部屋にあった物を参考に再現した物だとラシフィーヌ様が言っていたぞ。お金も必要だろうからとな』
なるほど、やっぱり思った通りだった。
それにしてもこの熊の貯金箱は適当過ぎやしないかい? 全然可愛くない。前世で北の方に旅行に行った時に木彫りの熊の置物があったけど何だかそれに似ているような気がする。
こんな物だれが買うのかねぇ? とその時は思っていたけどまさか私が似たような物を手にするとは……
はぁ……。それにしてもこの貯金箱、私が前世で持っていた熊の貯金箱を模倣したものではないよね。だって私が持っていた貯金箱は前世でも有名な可愛い熊のキャラクターだったのだから……。
女神様の趣味ってどうなってんの?
などど些か失礼なことを考えながら、ハッとした。
いやいや、肝心なのは貯金箱ではなくて中身だ。前世では確か、20万円位はあったと思う。だとしたら、この中にも同じ位の金額が入っているのかも知れない。
そう考えて、コインを全て出して数えてみた。全部で二百五枚。と言うことは、205,000ロン、日本円で20万円と5,000円だ。
これで買い物が出来る! 私が胸の前で手を合わせラシフィーヌ様に感謝の言葉を述べたのは言うまでもない。
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