幕間

 ***


「――すまないね、世宇ちゃん」


 脚本『私の世界を覆す魔法』を更にブラッシュアップ出来ないかと考えていた世宇の頭上から、男の声が降り注がれた。世宇はパソコンから目を離すと、そのまま視線を上に移した。


 そこにいたのは、劇団セカイズの総支配人となる田井中奏汰だった。まだ三十代後半で若い年齢だというのに、よくやっている。


 奏汰は手に持っていた缶コーヒーを、世宇のパソコンの隣に置いた。缶コーヒーのプルタブは既に開けられていて、周りに気を遣える奏汰らしい配慮だった。世宇は缶コーヒーをそのまま仰いで飲む。少しだけ頭がスッキリとした。


「んで、何を謝ったんですか?」

「君には辛い役目を振ってしまったと思ってね……。その、多紀ちゃんの件で。怒っていただろう?」


 多紀に脚本を渡した日のことを思い出した。その場にいなかった奏汰の言う通り、多紀は物凄く動じていて、珍しく声を荒げていた。あの日の多紀を頭に浮かべると、多紀には申し訳ないながら、世宇はいつも思い出し笑いをしてしまう。今もそうだった。不可解なものを目の当たりにするかのように、奏汰は首を傾げる。


「まぁ、多紀には良い薬になったんじゃないですかね」


 主役ばかり務めて来た多紀には、俯瞰する目が必要だ。


「それに、私は慣れてるから大丈夫ですよ。物語を盛り上げるためには、どこかで悪役の存在は必要になりますから。嫌なことから目を背けていたら、世界は変わらない」

「……悪役が板についているね、世宇ちゃんは」


 奏汰の言葉に、世宇は薄ら笑いを浮かべるだけだった。

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