第13話:ついにメイドさん。

一吾が苺のことで会社を休んだ次の日、案の定、一吾が会社に出勤すると

木之下君が拡声器を持って会社中、回ったんだろう。


苺のことが会社中に知れ渡っていた・・・甘王が女を囲ってるって・・・。

まあ、苺じゃなくても一吾の周りには、いつも女がタムロしていた時期があった

からそういうのは、いまさら珍しいわけじゃなかった。


と言っても一吾は苺って彼女ができて以来、女遊びは一切しなくなっていた。


人は、目的と希望と愛を手に入れると変わるのものなのだ。


人の噂も75日とはよく言ったモノ。

75日も経つと、その頃には一吾と苺の噂はとっくに消えていた。

最初はちょっと興味を示しても、結局人の恋路なんかに誰も関心なんかなくなる。

興味から嫉妬や妬みの変わってくる。

新しい情報がどんどん入れ替わり立ち替わり人の脳に目まぐるしく入ってくるしね。


それから数日後。


土曜日の昼下がり、大あくびをしながら退屈そうにしている一吾に苺が言った。


「イッちゃん、私、会社辞めたの・・・」


「え?辞めたの・・・・して、その理由を述べよ」


「・・・辞めちゃった理由だけどね、 懇親会の時、私が頭をなぐちゃった男

って取引先の誰かだと思うんだよね 」

このまま会社に勤めてたら、またその男と出くわしちゃうかもしれないでしょ」

「私、その男の顔見たら、頭殴ったこと思い出すから・・・今でもそれが

トラウマになってるの・・・もし偶然にも出会っちゃったら嫌だから、だから

会社辞めちゃった・・・」


「そうか・・・まあそのほうがいいな」

「あのさ、思うんだけど苺、無理に働かなくてもいいんじゃない?」


「働かないと食べて行けないじゃん」


「今、苺が住んでる安マンション引き払って僕のマンションに来りゃいいじゃん」


「ん?・・・それって同棲ってこと?」


「そうだよ、本当はさ、もっと早く苺に僕のマンションに来て欲しかったんだ」

「彼女、募集の条件にも書いえてたと思うけどメイドの衣装着て僕と暮らして

くれる人って書いてたの覚えてない?」


「うん、覚えてる・・・変わった趣味の人だなって思ったもん」


「それを承知で応募してくれたんだよね」


「そうだね・・・面白そうだったし・・・それでもいいって思ったし」


「それに僕のマンションへ引越してきたら家賃だって浮くだろ? 」

「だから無理に働かなくても苺ひとりくらいなら養っていけるし・・・」


「ダメだよ、結婚もしてないのに養ってもらうなんて、それはダメ 」

「私、公私混同したくないし・・・ 」

「だからまた新しいお仕事探すつもりでいたんだもん 」


「って言うかさ・・・苺、花屋やりたかたんだろ?」

「このさいさ・・・・働きに出るの辞めて花屋さんの店主にならないか?」


「え?・・・それって?」

「だから、そう言うこと・・・いずれはさ、僕は苺の夢を叶えてあげようと

思ってたし・・・それが少し早くなるだけだよ」


「それは嬉しいけど・・・資金援助してくれるってことでしょ?」

「まあ、そうだね」


「それもダメね・・・それだってイッちゃんのお世話になるんでしょ?」

「さっきも言ったけど結婚でもしてるなら別だけど・・・お互いまだどうなるか

分からないのに甘えることはできないよ」


「じゃ〜はっきり言うけど・・・援助とかそう言うのがイヤなら、それもいい、

ただ僕は、苺にはこのマンションで毎日メイドの衣装着て僕と暮らして欲しい、

そもそも僕の願望はそこだから」

「僕はメイドさんと暮らしたいんだ」

「それが苺なら、僕の夢は叶えられる」

「そうじゃなきゃ、なんのために彼女を募集したのか意味がなくなるからね」


「一気に喋ったね・・・それがイッちゃんの本音だもんね」

「分かった・・・それが彼女募集の時の条件のひとつだし・・・」


「私、このマンションの引っ越してくる」


苺は決心した。

一吾の夢を叶えるために・・・。


なわけで、満を持して苺は一吾のマンションに引っ越して来ることになった。

そしてメイドの衣装を着て一吾と暮らすことに同意した。


メイド服はネットの安物のメイド衣装なんかじゃなくちゃんとしたオーダーメイド

の衣装だった。

一吾はそこまでちゃんと拘ったからだ。


だけど、昼間一吾が会社に行ってる間は、苺だって洗濯と掃除を済ませたら

余分な時間ができる。

だから、バイトに出ることにした。


決まったバイト先は、お好み焼屋さん。


店名は 「お好み焼き・鉄ちゃん」


そのお好み焼屋さん、ダルマみたいな主人と奥さんふたりでがんばってたん

だけど、今現在奥さんが病院に入院してるとかで、手が足りないということで、

従業員またはアルバイト募集の求人広告をだした。


でその求人広告を見た苺が「鉄ちゃん」の主人に連絡して面接して、めでたく

働くことになった。

勤務時間は平日夕方から夜の10時まで。


一吾と過ごしたい苺は土曜日だけは休ませてもらえるよう交渉したみたいだ。

土曜日の夜なんて書き入れ時なのにね。


とりあえず苺の生活はメイドさんとお好み焼き屋さん掛け持ちになった。

だから、普段のスーパーの買い物もメイドの格好だったから、ご近所の

ちょっとした話題になって、メイド服が苺の私服になった。


つづく。



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