第12話:木之下君。

その日、一吾が会社を休んだもんだから一吾の様子を見に同僚がマンションを

訪ねてきた。

そいつは木之下君と言って同じ部署の中でも一番親しい友人。


金のために一吾に近ずくようなことのない信頼できるであろう友人のひとり。

というのも木之下君の家も、そこそこな金持ち。

だから一吾の腰巾着には、なり下がらないのだ。


「おはよう、甘王・・・俺・・・木之下だけど・・・」

「セキュリティー解除してくんない?」


木之下君が一吾の部屋までやってきた。


「おう、木之下・・・なにか用か?」


「つうか、おまえが会社休むなんて珍しいなって思ってさ」

「雨も止んだし、暇だったから様子見に来てやったぞ・・・」


「ほい・・・チーズケーキ」


「お〜すまんな、気使わせて」


「風邪でもひいて寝込んでるのかと思ったら、なんだよ元気そうじゃん・・・」


木之下君はまるで自分んちの家でもあるかのように、ずけずけ部屋のなかに

上がり込んできた。

で、キッチンテーブルにいた苺を見つけて、ちょっと固まった。


苺は木之下君にちょこんとお辞儀した。


「あれま・・・そういうことか・・・甘王君」


「なにがそういうことだよ」


「一吾、いつの間にこんな綺麗なおネエちゃん囲ってたんだよ」

「そりゃ〜会社になんて来る訳ないわな・・・」


「囲うってなんだよ、人聞きの悪い」

「彼女は幸乃果 苺さちのか いちご・・・俺の彼女だよ」


「え?おまえら、いつから付き合ってんの?」


「ピテカントロプズが地上に出現したころからだよ」


「へ〜ずいぶん昔からなんだな・・・」

「ねえ、おネエさんも・・・苺さんだっけ・・・苺さんも甘王の金が目当て?」


「なに、バカなこと言ってんだよ・・・失礼だろうが・・・用事がないなら

とっとと帰れ」

「だって、おまえに寄って来る女って金目当てのやつばっかだからな・・・」


「苺はそんな女じゃないよ」


〈高額報酬につられて彼女募集に応募してきたけどね〉


「いいから・・・木之下、今日はおまえと話してる暇なんかないんだよ、

だから帰ってくれないか?」


「ふ〜ん・・・まあ、お前がダウンしてなくてよかったわ」

「じゃあ、また会いに来るから・・・おまえじゃなく苺さんに会いに・・・」

「じゃ〜ね苺さん、またね」


「はい、またいらっしゃい」


「甘王は飽きっぽいやつだから、もし捨てられたら僕が彼氏に立候補します

から・・・予定入れといてください」

「ああ、逆か・・・甘王が苺さんに捨てられるってパターンだな」


「バカなこと言ってないで帰れ!!」


木之下君は苺を品定めするような眼差しをくれて、ニタニタ笑いながらへこへこ

帰って行った。

たぶん明日、会社中に苺のことが知れ渡ってるに違いと一吾は思った。


「ごめんな・・・がさつなやつで・・・」


「うん、気にしないから、おかげで少し元気出たかな」

「あいつのバカが苺に感染したのかもな」


「そう言えば、思い出した・・・今更だけど苺に高額報酬払ってなかったよな」


「高額報酬より高額な愛情もらってるからもういいよ」


「愛情もらってるのは俺のほうだと思うけど・・・高額報酬って聞いてさらに

元気出たかな〜苺ちゃん」


そう言って一吾は苺の顔を覗き込んだ。


「もう、からかうなバカ」


つづく。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る