第11話:僕が添い寝してあげるから。
苺のビールの空瓶で思い切り頭を殴られた若い男の頭の傷は幸いにも
たいしたことなく、苺は無事解放された。
あとから駆けつけた上司のお咎めを受けた苺の気分は最悪だった。
帰っていいからって上司に言われて病院を出た。
日も暮れた夜・・・外はまだ雨が降っていた。
苺は自分を戒めるように、雨の中を傘もささず近隣の駅まで歩いた。
ずぶ濡れになりながら・・・悲しくてただ意味もなく涙があふれた。
駅までたどり着いた苺は、駅のベンチに腰掛けて呆然としていた。
一吾に会いたい・・・そう思った。
そう思うと舞子は無性に一吾に来てほしかった。
その頃、一吾はマンションにいた。
「はい、もしもし?・・・あ、苺?」
「イッちゃん・・・」
「なに?どうしたの・・・泣いてるのか? 苺」
「すぐに来て・・・お願い・・・来て・・ 」
「分かった、すぐ行く・・・今どこ?」
「駅にいる・・・早く来て」
一吾はスマホを切るとすぐにミニで駅まで走った。
一吾は苺になにがあったか分からないから、胸がドキドキしていた。
急いでいる時にかぎって時間が経つのが遅く感じると思った。
駅のロータリーを回ったらバス停のベンチの端っこで舞子がずぶ濡れに
なって座っていた。
ミニから降りた一吾はすぐに苺のところまで駆け寄った。
「ずぶ濡れじゃないか・・・ぶちゃいくになってるぞ」
「何があったの?」
苺は一吾を見て、すぐにしがみつくとまた泣き出した。
「ああ、それよりこんなところにいたら風邪引くよ・・・とにかく車に乗って」
理由を聞くのは後だと思って一吾は苺をミニに乗せて自分のマンションまで走った。
マンションにつくと急いで苺を風呂に入れた。
風呂から出てきた苺は、少し落ち着きを取り戻していた。
で、一吾はことの顛末を苺から聞いた。
「酒の上での失態か・・・」
「酒はね・・・ほどほどにしないと・・・」
ロクデナシの元彼も酒癖が悪かったから、苺はその醜態をよく知っていた。
それは苺自身も判っていたことだった。
人って時々羽目を外すもの・・・魔が差すもの。
「私、もうお酒は一滴も飲まない・・・」
「まあ、そんなに極端に決めなくても・・・楽しむ程度ならいいんじゃないか?」
「飲み過ぎなきゃね」
「でも・・・もしかしたら、もっと大怪我させてたかもしれないんだよ」
「相手の男だって悪いんだろ?、だからそんなに思い詰めないの」
「僕はさ、苺自身に悪いことが起きたのかと心配したよ」
「君になにもなくてよかった」
「嫌なことは早く寝て忘れな、今夜はここに泊まっていいからね・・・」
「僕が添い寝してあげるから・・・まあ、いつもしてるけど・・・」
「ごめんね、イッちゃん・・・私を嫌いにならないでね」
「大丈夫だよ・・・嫌いになんかならないさ、あっち行けって言われたって
ストーカーみたいに付きまとってやるから・・・」
苺は一吾の優しさに癒された。
つづく。
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