動き出した日常

その日も相変わらず俺は教室で本を読んでいた。いつもなら本を読んでいる間でも周りの目を気にしてしまっていたが、もう俺には友達が出来た。休み時間になる度にお喋りするとかそんな仲じゃない。でも友達が出来たという事実が俺に少しの安心感を与えてくれた。


だからいつもよりは周りの目を気にすることなく本を読めていた。


ふと清水の方を見てみると清水も同じように本を読んでいた。ほんと楽しそうに本を読んでるよな…その顔を見るだけでこっちまで笑顔になってしまいそうだ。


…清水ってちゃんと身なりを整えたら普通に可愛いと思うんだけどな。まぁ本人がそんなこと気にしてる様子もないから俺がどうこう言う話でもないか。


そう思い再び本に目線を戻した。


だがどこかからか視線を感じて直ぐに本から目を離し辺りをキョロキョロと見渡す。みんな各々友達と話している。…気のせいか?


そう思い気にすることをやめ今度こそ本を読み始めた。


4限目の授業が終わり昼休みが始まる。俺はいつも通り弁当を机の上に出して開く。そこにはそこそこバランスのいいご飯が顔を出した。実を言うと弁当は自分で作っている。


母さん曰く、「一人暮らしすることもあるかもしれないから今のうちから練習しておきなさい」とのことだ。絶対朝早く起きて作るのがめんどくさいだけだろと思いながらも家での最高権力者にそう言われると作るしかない。


風呂敷を広げようとしたところで影がかかった。誰だ?そう思いながら弁当に向いていた目を前に向ける。そこには清水が立っていた。


「清水?どうかしたのか?」


そう聞くと清水は俺の前に自分の弁当が包まれているだろう風呂敷を出てきた。


「樂間さんのことですから、どうせお弁当を食べる相手がいないだろうと思いまして」


「おうおう言ってくれるじゃないの清水さん?」


「私もいません」


いや、自分で言うのかよ。


「だから一緒にご飯を食べませんか?」


思ってもないような言葉が聞こえた。


「え?お、俺とか?」


「樂間さん以外誰がいるんですか」


そう言った清水は顔を赤くしていた。


「べ、別に嫌ならいいんですが…」


少ししょんぼりとしながら清水がそう言った。


「い、嫌じゃない。俺も清水が一緒に食べてくれたら嬉しいよ」


「樂間さんって…いえ、なんでもありません」


清水が何かを言おうとしてやめた。途中でやめられると余計に気になる。


「な、なんだよ」


「いえ、気にしないでください。ほらほら、早く立ってください」


「え?どこか行くのか?」


ご飯を食べるならここでいいと思うんだけど…


「ここでは私が他の人の椅子を借りないといけないじゃないですか。私には少しハードルが高すぎます」


「あ…」


俺たちは少し悲しい気持ちになった。


「…庭に行きますか」


「…そうだな」


俺たちは立ち上がり教室を出た。


「旭?どうしたの?教室の扉の方をぼーっと見てたけど」


「え?!あ、な、なんでもないよ?」


「そう?」


この学校には校庭とは別に庭と言われている場所がある。そこは芝が生い茂り木漏れ日が心地よいとてもいい場所だ。


俺たちは適当なベンチを見つけて横並びで腰をかけた。


「心地いいですね…」


清水が目を細めながら気持ちよさそうにそう言った。うん。やっぱり清水はちゃんとしたら可愛いんだろうな。


「そうだな…」


俺たちは少ししてからお互い風呂敷を開き弁当を開けた。


「ほう、かなりバランスの取れたお弁当ですね」


清水が俺の弁当を覗きながら関心したようにそう言ってきた。


「そうか?清水の弁当も色合いが良くて可愛らしいな」


清水の弁当はなんというか可愛らしかった。ウインナーは律儀にタコさんウインナーにしていてプチトマトも入っている。卵焼きはハート型になっていてミートボールも入っている。白ご飯には桜でんぷんがかけられていた。とても女の子らしさが溢れるお弁当だった。


「そうでしょうそうでしょう。なんたって毎日私が作っていますからね」


清水はフフンと言いながら得意気な顔をした。


「え、凄いな…毎日こんなに手間をかけて作ってるのか…俺はただ作って入れてるだけだな」


「え?このお弁当樂間さんが作ったんですか?」


清水が驚いたような顔をして俺の事を見ていた。


「ん?あぁ、俺が作ってるぞ?て言っても簡単なものばっかりだけどな」


茹でただけのブロッコリーに電子レンジでチンして潰しただけのかぼちゃサラダ、唐揚げなんて鶏肉に市販の唐揚げ粉をまぶしてあげただけだ。


「それでもすごいことですよ。樂間さんは将来いいお嫁さんになりますね」


清水が笑いながらそう言ってきた。


「そのセリフは俺のセリフだろ」


なんだかんだ楽しい昼ごはんになった。


放課後、俺は先生に言われて職員室からノートを教室に運んでいた。


なんで俺なんだ…ちょうど1人で暇そうだったからか。わかりやすいね。


少し悲しくなりながら教室の机の上に大量に重ねられたノートを置いた。


「ふぅ…帰るか」


そう思い自分の机に置いてあったカバンを手に取ろうとした時


「ねぇ、蒼緋」


そんな声がかけられた。



あとがき


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