同じ穴の狢
図書室の前に着いた俺は扉に手をかけて開く。中には誰も居なく閑静な空間が広がっていた。
誰もいない図書室は異様なほど静かでどこか現実味がない。
もう何度も図書室で委員会としての仕事をしているが放課後に誰かが本を借りに来ることなんて本当に稀だ。片手で数えられるくらいしかない。
…放課後に残る図書委員2人もいらないよな。でもたまに人が来るのも事実だ。しっかり仕事はしないとな。
そう思いカウンターに座る。そしてカバンに入れておいた小説を取り出し栞を差しておいたページから読み始める。
中学生の頃の俺は本なんて全く読まなかった。本なんて読む必要がなかったからだ。それなりに友達が居てそれなりに楽しい学校生活を送っていたからだ。
だが今の俺は友達なんて1人も居ないし今更作り方も分からない。だから1人で居ても劣等感を薄めてくれる本を読みだした。こんな動機で読み始めるなんて不純だが、いざ読んでみると面白い。こんなことならもっと早く読んでいれば良かったと思うほどに面白いものだった。
そうして何分経っただろうか?図書室の扉が開く音がした。
本から目を離し図書室の出口に目を向ける。そこにはお世辞にも華やかとは言えない少女が立っていた。ボサボサの髪を目が隠れる程まで伸ばして背中を曲げている少女が。
「もう来ていたんですか。
「いや、俺が早いんじゃなくて
「そうですか?来ただけ褒めて欲しいものです」
「図書委員なんだから来るのは当たり前だろ…」
そんな意味のわからないことを言っている少女は清水
「いいじゃないてすか。どうせ今日も誰も来ませんよ」
そんなことを言いながら俺の横の席に座る。
「そんなこと言うなよ…多分そうだろうけど」
「実際そうじゃないですか。誰も来ません」
清水は何故かドヤ顔でそう断言した。
「はぁ…全く。それでなんで遅れたんだ?」
「あぁ、それはですね。教室で本を読んでいたんです。そしたら夢中になってしまって…」
「そんなことだろうと思ったよ…」
清水は本の虫だ。清水とは同じクラスなのだが休み時間は常に本を読んでいる姿しか見たことがない。清水も俺と同じで友達が居ない。だが俺のように劣等感を抱えているとは思えない。本を読んでいる時の清水は本当に楽しそうだ。それこそ周りのことなんて何も気にしていないと思う。俺のように本を逃げ道にすることなく純粋に楽しんでいる。それが羨ましくもあり罪悪感を抱いてしまう。
「いいじゃないですか。どうせ樂間さんもここで本を読んでいたんでしょう?」
「ど、どうしてそれを…」
「もう何度ここで一緒に仕事をしてると思ってるんですか?暇があればすぐ本を取り出して楽しそうに読んでいるじゃないですか」
「…」
確かに俺は本を読むのが好きだ。楽しい。だが俺は純粋に本を楽しんでいるわけじゃない。友達ひとり居ない自分の惨めさを紛らわせるために本を利用しているだけだ。
「どうかしましたか?」
清水が不思議そうに俺の顔を見てきた。
「…確かに俺は本を読むことは楽しいと思っている。だが純粋に楽しんでるわけじゃないんだ」
「と言いますと?」
「俺は友達が居ない自分の惨めさを紛らわせるために本を読んでるんだ。だから清水みたいに純粋に本を楽しんでるわけじゃ…」
「別にどんな風に本を読もうとその人の勝手じゃないですか?」
「え?」
俺は清水の言葉に驚いた。
「樂間さんがどんな感情を持ちながら本を読んでいるのかは知りませんでしたが、本を読んでいる時の樂間さんは本当に楽しそうでしたよ?それに楽しいから樂間さん自身本を読んでいるのでないですか?純粋に楽しめてないとかそんなのはどうでもいいでしょう?読みたいから読む。それでいいじゃないですか」
俺はてっきり、清水はそんな動機で本を読むなんて最低だと言うと思っていた。だが返ってきた言葉は想像していたものでは無かった。
「それに私は友達ではないのですか?私は樂間さんのことを勝手に友達だと思っていたのですが…」
清水が少し寂しそうな顔をしながらそう言った。
「し、清水…」
俺は勝手に決めつけていた。清水が俺の事を友達だと思っていないと。だが清水は俺の事を友達だと思っていくれていた。その事実がとても嬉しかった。
「い、いや、俺で良かったら是非友達になってくれ」
「そうでしょうそうでしょう。私と友達になれて嬉しいでしょう」
清水はフフンと得意気な顔をしながらそう言ってきた。
「あぁ、めちゃくちゃ嬉しいよ」
なんたって高校に入って初めての友達だ。嬉しくないわけが無い。
「そ、そうですか…」
俺がそう言うと何故か清水は俯いてしまった。
「ん?どうしたんだ?」
「な、なんでもありません…」
そう言った清水の顔は赤くなっていた。
「ど、どうしたんだよ清水!顔が赤いぞ!?熱でもあるんじゃ…」
「な、なんでもないですから!」
そう言った清水の顔はやはり赤かった。
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