第2話
あれは妹が生まれて間もない頃だった。
両親の視線や注意は妹に集中し、当時の俺は
要するに寂しかったのだ。俺は内向的になり、無口になった。
そんな俺を谷川は気に入らなかったのだろう。同級生らと閉鎖したボーリング場に入り込みサッカーをした際、俺の些細なミスを谷川は責め立て、腹に強烈な膝蹴りを入れた。
体を“くの字”にして倒れ込んだ俺に谷川は「スカしてんじゃねーよ!」と吐き捨て、他の皆を引き連れて帰ってしまった。
俺は
薄暗い
何故それをしようと思ったのか?何故そうしたのか?今では思い出せないが、俺は竹と街灯の間にロープを張った。
小学生だった俺は、それに車やバイクが当たっても、さほど大事にはならないと考えたんだと思う…。
ロープを結び付けると俺は竹藪にしゃがみ込んで悪戯の
遠くからバイクのエンジン音が急速に近づあたと思ったら、
ノーヘルで原付バイクに乗った茶髪の女の
唐突に固定された頭部に反して身体だけは進行方向に進もうとし、一瞬、手足が道路と水平になる。だるま落としのように原付バイクだけが、すっ飛び
重力により女の手足が下がり、
俺は事の大きさに呆然となり立ち尽くした。そんな俺を動かしたのは「誰かに知られたら」という恐怖だった。俺は竹に飛び付くとロープの結び目を手早く外し、強く引いた。倒れ込んだ女の頭が、ぶるんと震え、めり込んでいたロープが外れる。俺は力いっぱいロープを
家にたどり着いた俺は高熱を出し、二日間ほど寝込んだ。そして俺が起き上がれるようになった頃には全ての片が付いていた。
俺が逃走した後、女の遺体の上には雪が降り積もり、翌日その上を通過したトラックの運転手がそれを発見した。だが、トラックに乗り上げられた遺体は
全てを思い出した俺は再び発熱し、次の日をベッドの中で過ごした。そして寝ている間、断片的に様々な悪夢を見た。夢の中では会ったことも無い谷川の家族が
翌朝、まだ微熱はあったが、両親に「急ぎの仕事を思い出した」と告げて家を出た。
そう、俺は、またしても逃げ出したのだ。
俺はポケットに両手を突っ込み、何も考えないようにしながら駅までの道を足早に歩いた。目線は下げ、車道も
“トッ、トッ、トッ…”
まるで足音のような、アスファルトを裸足で走ってるような、そんな音。
それも背後から追ってきてるような…。
いや、違う。これは俺の動悸だ。早くなった心臓の鼓動を過敏に感知してるのだ。
だから俺は決して振り返らない。
音がさらに近づき、誰かが背後から俺の上着を強く
そこからどういう経路を経たのか、まるで記憶に無いが、気が付くと俺は新幹線のシートに身を沈めていた。全身に強い倦怠感と疲労感を感じる。目線を車窓に向けると、窓ガラスに反射して自分の顔と頬寄せ合うように映り込む口が耳まで裂けた女の顔が見えた。
女の顔は
俺は全身に脂汗が吹き出すのを感じながら「だから田舎は嫌いだ」とつぶやき、目をきつく閉じた──。
-Fin-
口裂ケ、オンナ @tsutanai_kouta
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