第27話 今回はシコルのお手柄だった!?

 俺たちはファイアおじさんから紹介してもらった魔王を知る重要人物キモヲッタ・ド・ルヲッタを訪ねるべく、そいつが住むネクラナンダの街へとまたやって来た。


 キモヲッタは街の一角にある人気ひとけのない公園をねぐらにしているのだという。それって、つまりホームレスってことじゃねーか。


 すっかり日も暮れた頃にその公園へ行ってみると、何やら数条の謎の光が高速で激しく動いているのが見える。近寄ってよく見てみると、それは何と氷河期と思しきおっさんがサイリウムを使ってヲタ芸をしている光だった。


 くそっ、一瞬でもこの光を綺麗だと思ってしまった自分が何か悔しい……。


「あんたがキモヲッタか?」

「…………。お前はメスケーイーでは誰推しだ?」


 俺の問いかけには答えず、逆におっさんが藪から棒にそんなことを聞いてきた。質問に質問で返すなと言いたいところだが、どうやらこのおっさんがキモヲッタで間違いなさそうだ。


「メスケーイーではセンターのベッショリーナちゃん推しだが」

「……チッ、にわかが」


 キモヲッタは舌打ちすると蔑むような視線を向けてきた。

 

 感じわるっ! あぁ、何だろな、このイラッとくる感じ……。


「それなら、そう言うお前は誰推しだっていうんだ?」

「ふんっ、にわかのお前に言っても無駄だろうが特別に教えてやろう。俺の推しはツルーダちゃんだ!」


 はぁ? 誰だそれ?? ぶっちゃけ俺は、ベッショリーナちゃん以外のメンバーについては全くわからない。だって108人もいるんだからな。


「ツルーダちゃん……だと!?」


 思いがけず、その名前に反応したのはシコルだった。


 ツルーダちゃんとは、この前のライブでシコルが推しだと言っていたJS1~2くらいにしか見えないあの幼女のことらしい。


 てことは、このキモヲッタもシコルと同類の、ロリの一線をさらに越えちまったヤベー奴ということだな。


「ベッショリーナ推しとか抜かすそこのにわかは信用ならんが、ツルーダちゃん推しのお前とならいい酒が飲めそうだ。どうだ、一杯やりながらツルーダちゃんの魅力について語り明かさないか?」

「いいですね、こちらこそぜひ! いやぁ、しかしツルーダちゃんの魅力は、なんと言っても第二次性徴期前のあの平坦でつるっとした身体でしょう! 特にライブ中に見せるあの腋やへそチラなどは……ぺちゃくちゃ」

「それな! 俺はプラチナ会員限定のスク水罵倒握手会に参加した時に、ツルーダちゃんの全身を舐めるように見回したんだが、その際に『幼いあたしの身体見て何イキり立ってんの?♡』というありがたいお言葉を賜ってだな……ぺちゃくちゃ」


 推しの話で意気投合したシコルとキモヲッタは、そのまま盃を酌み交わして朝まで語り明かしやがった。


 その甲斐あってか、すっかり気を許したキモヲッタは魔王を紹介してやってもよいと言い出した。その代わり、キモヲッタの推しであるツルーダちゃんのグッズを何でもいいからもらってきてくれと頼まれる。


 そんなのはお前自身がもらってこいよと思ったら、キモヲッタはメスケーイーの運営から出禁をくらっていて、ライブや握手会などには参加できないらしい。出禁くらうって、一体何やらかしたんだこいつ……。


 まぁ俺としても参加するのはやぶさかではないので、地下で開催されているメスケーイーのライブイベントに再び参加することにした。


「あたしに興奮するって、おぢさんてもうロリじゃなくてペドだよね♡」

「ありがとうございます!」

「おぢさんはもう治らないビョーキだから死んだ方がいいよ♡」

「ありがとうございます!」

「おぢさん、そのガイガーカウンターと結束バンド何に使うの?♡ ヤバすぎる♡」

「ありがとうございます!」


 ライブ後の握手会では、ツルーダのレーンには多くのおっさんが集まり、センターを務めるベッショリーナのレーンよりも賑わっていた。

 

 このレーンに並んでいる連中は、会場の中でも選りすぐりの猛者ばかりなのだが、そんな彼らをツルーダは華麗に煽り散らかしていく。


 そしていよいよ俺の番が回ってきたのだが――。


「おぢさんのちっさ♡ あたしの親指くらいしかないじゃん♡」


 そうなのだ。俺としたことがまた《わからせ棒》を差し出してしまったのだが、前回のベッショリーナちゃんの時と同様に残念なことになってしまっている。


「つーか、おぢさんあたし見ておっきくならないのは偉いじゃん♡ でもそれって、わからせおぢさんとしてどうなの?♡」


 ……おかしい。どれだけ煽られても《わからせ棒》が反応しない。


 前回のように、大勢の前で緊張しているからというわけではない。それなのに、《わからせ棒》がぴくりとも反応しないのだ……。


 そうか、わかったぞ! 反応しないのはツルーダがあまりにも幼すぎるからだ! でもそれって当たり前、マトモってことだよね?


「……ふっ。コドージ殿、ここは私に任せてくれませんか?」


 自信に満ち溢れたような顔をしたシコルが俺の肩に手を乗せてきた。くそっ、何かムカつくなその顔。


 ふと下に目をやると、シコルはすでに準備万端、ギンギンにイキり立っている。


 !? ま、まさか、この俺がシコルのよりも小さい……だと!?


 俺は目の前の事実に愕然とした。


 い、いや、違う。ツルーダのようなあまりにも幼すぎる女の子にイキり立つシコルがヤバいのであって、反応しない俺の方がマトモなのだ。そうだ、そうに決まってる。


「さぁ、見せてもらいますよ! ツルーダちゃんの真の実力とやらを!」


 シコルは《ただの棒》を使った。


「ちょ……、あ、あたしにおっきくなってるおぢさんてほんとヤバいよ? や、やだ、そんなのこっちに近づけないで!」


 シコルは《ただの棒》を使った。


「こ、こんなのガチで犯罪なんだからね! さわんないで! や、やだ……、やだやだやだぁ! ひゃあ!? ……あ゛あ゛あ゛」


 シコルは《ただの棒》を使った。と思ったら――。


 んんっ!? 


 何とシコルは、《ただの棒》を本格的に使う前にあっさり果ててしまったのだった。それだけ、幼すぎるツルーダちゃんの破壊力が凄まじかったということか。


 さっきはドヤ顔のシコルにイラッときたものの、さすがにこれは恥ずかしいというか情けないというか、同情を禁じ得ない。


「きひひひひ♡ おぢさん秒で果ててる~♡ やーい、ざーこざーこ♡」


 ここで形勢が一気に逆転。賢者に成り果ててうなだれるシコルをツルーダが容赦なく煽り散らかす。


「だけど、こんなにドキドキさせられたのはおぢさんが初めてだったよ♡ だからご褒美にこれあげる♡」


 そう言って、ツルーダがシコルにチェキを手渡した。それには何と、見事なまでにつるっつるのツルーダちゃんのが写っているじゃないか!


 こうして俺たちは、シコルのおかげもあって《ツルーダのチェキ》を手に入れたのだった。


 だが今回、ツルーダを前に俺の《わからせ棒》はまるで歯が立たず、おまけにシコルの《ただの棒》にも負けたということで、精神的にかなりのダメージを受けた。まぁシコルはシコルで、別の精神的ダメージを負ったようだが。


 なので、俺は帰りがけに推しのベッショリーナちゃんをわからせて、なくした自信を少しだけ取り戻したのだった。

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