第25話 メスガキアイドルをわからせた!

 クサイモンから握手券をもらった俺たちは、船でインビ洋を渡り地下アイドルのイベントが開催されているというネクラナンダの街へとやってきた。


 地上の街並みはいたって普通だが、郊外にダンジョンの入り口があり、その最深部でイベントが行われているのだという。本当にリアルな意味での地下アイドルだな。

 

 ちなみに、お目当ての地下アイドルはメスケーイー108というらしい。何でも、煽られにいけるアイドルというのが売りのようだ。そういうことなら俄然興味が湧いてくる。


 恐る恐る中へ入ってみると、ダンジョンの内部はモンスターなどの姿はなく、見かけるのは氷河期と見られるおじさんばかりだ。そうして4階層ほど降りたところで広い空間に出た。そこで何と、お目当てのメスケーイー108と見られるアイドルらがライブを行っているじゃないか。


 明滅するスポットライトやレーザーに目がくらみ、巨大なスピーカーから流れる大音量の音楽が耳をつんざく。


「わからせは~悪いこと~なの♪♡ あたしに声かけてみなよ~♪♡ そんな勇気があるなら~♪♡」

「フォアフォア!」

「いつまでも~♪ おじさんいっぱいじらして~わからせなんてさせてあげない♪♡」

「フォアフォアフォアフォア!」

「わからせは~いけないことなの♪♡ おじさんの~魂胆なんてわかってる~♪♡」

「フォアフォア!」

「欲望を我慢したなら~♪♡ そんなの~ただの氷河期クソざこおじさんなの♪♡」

「フォアフォアフォアフォア! フッフー!!」


 ステージ上では108人もの女の子がひしめき、歌いながら扇情的なダンスを披露している。そんな彼女らをよく見てみるとその大半がJSくらいで、しかもメスガキっぽい。


 客席は客席で俺らと同じような氷河期おじさんが埋め尽くしていて、熱狂的なコールやヲタ芸が繰り広げられ阿鼻叫喚の様相を呈している。


 そして、そうした観客の汗やら色んな汁が熱気となって会場内に充満して、天井付近で汚らしい雲を作り上げていた。


 ……臭い。とにかく臭い。あまりの臭さに気を失いそうになるのをどうにか堪える。だがそれとは別に、俺は初めて観るアイドルの生ライブというものに興奮してしまっていた。


「今日はあたしたちメスケーイー108の45枚目のニューシングル『ランドセルのメスガキ♡』のリリイベ&握手会に参加してくれてありがと~♡ つーか、平日昼間のイベントに来るってお前ら絶対無職だろ~♡」


 ステージの中央に立つセンターと思われるメスガキが侮蔑を含んだ笑顔で観客を煽る。黒髪のゆるふわツインテールが特徴的なその子の見た目はJS6くらいだろうか。ヘソ出しのオフショルトップスにパンツが見えそうなくらいの短いスカート。そしてタイトルに合わせるかのように真っ赤なランドセルを背負ったその姿はじつに神々しい。


 ベタかもしれないが推すなら断然この子だな。何でも彼女は6期生で、名前はベッショリーナというらしい。


「コドージ殿はどの子を推しますか? わ、私は右から二番目の子に決めましたよ! あの子は地上に舞い降りた天使だ!!」


 目をギラつかせたシコルの推しだという女の子は、バードテイルの髪型が何とも可愛らしいものの他のメンバーよりひときわ背が小さく、JS1~2くらいにしか見えない。


 シコルお前……、ついに一線を越えちまったようだな。そこまで行ってしまったらもう二度と引き返すことはできないだろう。


「ひゃっひゃっひゃ! ワシャWDDじゃ!」


 さらにヤライソが聞いてもいないのにそんなことをのたまった。WDDって、それってつまり、若ければ誰でも大好きってことか。そりゃお前は若ければ誰でもいいんだもんな。ていうか、お前は女なら誰でもいいんじゃねーか。


「ふんっ、ばかばかしい! あんたたち、いい年したおじさんのくせにアイドルなんかに夢中になるなんて恥ずかしくないの?」


 トヨーコがひどく冷めた目つきで俺たちを見つつ吐き捨てた。ババアのお前がそんなことを言ってもただの僻みにしか聞こえないからな。


 そんなこんなで、俺はミニライブ後の握手会に胸を高鳴らせて参加することにした。俺の推しはやはりセンターの女の子ということで、ベッショリーナちゃんのレーンに並ぶ。


「うわっ、ちゃんと手を洗ってきたのかよ♡ すげーぬめぬめしてんじゃん♡」

「ありがとうございます!」

「おじさん今いくつ?♡ あたしみたいな幼い女の子におっきしちゃってるけど♡」

「ありがとうございます!」

「ちょ、どこ見てんだよ♡ お前、ぜってー今晩のオカズにするつもりだろ♡」

「ありがとうございます!」


 ベッショリーナはファンの氷河期おじさんと流れるように握手をしては次々と煽っていく。煽られたファンは「ありがとうございます!」と返すのが暗黙のルールになっているらしい。


 そうこうしているうちに俺の番がやってくる。ヤバい、何だか年甲斐もなく緊張してきやがった。


「おいおい、おっさん♡ 握手会なのにあたしに何を握らせようとしてんだよ♡ 超ウケる~♡」


 はっ!? 俺としたことが、緊張のあまり手ではなく《わからせ棒》を差し出してしまった。


 会場内にざわめきが走る。


「つーかさ、そんなの出してきたくせにすごく残念なことになってるんだけど~♡」


 そうなのだ。じつは大勢の前という極度の緊張状態のせいで、俺の《わからせ棒》が何とも情けないことになってしまっている。


「きゃはは♡ これどうしたらおっきすんの?♡ 何ならあたしのパンツ見せたげよっか♡」

「うっ、ぐぬぬ……」


 ベッショリーナは《わからせ棒》を前にしてもまるで動じることなく、むしろ面白いおもちゃを見つけたとばかりに、底意地の悪い笑みを浮かべながら煽ってくる。さすが煽られにいけるアイドルを標榜するグループのセンターを務めているだけのことはあるな。


 だがここで、俺の中で小さな変化が起こるのを感じた。こんなにも大勢の前で《わからせ棒》を晒してメスガキから煽られることにぞくぞくとしてきたのだ。


 こ、こんな感覚は初めてだ……。


「ほらほら~、早くおっきしてみせろよ~♡ このままじゃクソざこ確定だぞ~♡」


 そうだ、これこれ! 段々と《わからせ棒》に力が漲ってくる!


「お、どうした?♡ ピクッと反応したじゃん♡ でもまだざこのままだし~♡ きゃはははは♡」


 いいぞ、その調子でもっと煽ってみせろメスガキ!


「まぁ、どうせおっきしたところで、意気地のない氷河期童貞クソざこおじさんじゃな~んにもできやしないだろうけど~♡ ざ~こざ~こ♡」


 ふぅ……。メスガキの煽りが最高潮に達したのと同時に、俺の中でもついにわからせが覚醒した。


「きゃはは♡ もうおっきしないならそんなのしまっとけよ♡ ……って、え!? うそ……何それ??」


 新たな境地に目覚めた俺の《わからせ棒》は、自分でも驚くほどの大きさとなり脈打っている。


 よし、準備は整った! 推して参るぞ、ベッショリーナ!


 俺は《わからせ棒》を使った。


「ちょ、そ、そんなでかいのマジでムリ! ねぇお願い、やめて! そんなの絶対ムリだから! いやあああああ! ……@※∀∑#◎√!?」


 俺は《わからせ棒》を使った。


「くっふお゛お゛お゛お゛お゛……、い゛っ、あ゛っ、い゛っ、い゛っ……、やだっ、い゛だっ……、お゛っ、あ゛っ……痛い痛い!」


 俺は《わからせ棒》を使った。


「い゛あっ、ん゛っ、お゛んっ……、んあっ、あんっ、はっ、おんっ……、あっ♡ あんっ♡ はっ♡ はっ♡ あッ♡ いっ♡ いいっ♡ はひっ♡ ああっ♡」


 俺は《わからせ棒》を使った。


「あ゛っ♡ ん゛ッ♡ んあ゛っ♡ あんっ♡ な、何これ……♡ お゛っ♡ あひっ♡ お゛んっ♡ すんごくいい♡ あんっ♡ あんっ♡ あッ♡ はひっ♡ はあああ♡」


 俺は《わからせ棒》を使った。


「お゛っ♡ お゛っ♡ お゛っ♡ あ゛っ♡ お゛っ♡ いいっ♡ お゛んっ♡ い゛っ♡ もっと……、あ゛んっ♡ はッ♡ ひぅ♡ もっと激しく♡ ん゛おっ♡ はんッ♡ あ゛っ♡ あ゛っ♡ お゛っ♡ い゛っ♡ あひっ♡ ふひっ♡ あ゛っ♡ ん゛おっ♡ もっとお願いひまひゅううううう♡」


 こうして俺はベッショリーナを徹底的にわからせた。そして、このメスガキによって俺は新たなステージへと昇華したのだった。


「ただのキモヲタ氷河期おじさんだと思ったらすごいの持ってんじゃん♡ 次の握手会にも絶対に来てよね♡ その時もまた握らせて♡」


 すっかりメスの顔になったベッショリーナが淫靡な目つきでにじり寄ってくると、俺の手に何かを握らせてきた。


 べっしょりと濡れたそれを広げてみると、何と淡いピンク色をしたおパンツだった。そこには滲んだ字でベッショリーナのサインも書いてある。


 ほう、これはファン垂涎の超激レアお宝アイテムだ。


 こうして俺たちは《メスガキアイドルのサイン入りパンツ》を手に入れ、握手会会場を後にしたのだった。

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