第11話 龍雲
~族長執務室~
族長のお披露目会を翌週に控えたある日、不機嫌な
「族長、龍雲のことでご相談が・・・」
「ん?なんだ?」
「龍雲の離婚と再婚の御承認を頂きたいのです。龍雲は今年37になりますが、結婚して14年目になる妻は一度も妊娠に至っておらず、もう5年近く前から妻を変えるよう言っているのですが・・・龍雲が承諾しないのです。」
竜和はため息をつきながら龍雲を見る。
「離婚に異存はありませんよ!ただ、妊娠しない不良品を押し付けられたのです、ジャガー族には結納金を返してもらいたい。」
「は?」
「族長からも無理だと言ってやって下さい。」
竜和が困った顔をしている理由はこれらしい。
龍雲は相変わらずめんどくせぇなあ。
龍雲の父は前族長と並ぶ後継候補だったらしいが、龍雲以外に子ができず、しかも龍雲には後継候補になるほどの力がない。
だから孫に期待をよせて龍雲が成獣するなり、父親が結納金を積んでジャガーとの縁談を取り付けたらしい。
龍雲の序列的には過分なのにと竜湖が昔ぼやいていた。
龍雲の父は前族長を嫌っていて、それを理由に補佐官になることを拒否したほどだったらしい。
そのせいか子どもの頃は龍雲との接点は皆無だったが、龍雲の父が死んで、俺が成獣した後はリュウレイ山で会えば一緒に酒を飲んだりはしてたなぁ。
「龍雲、お前、次の妻への結納金がないのか?」
「そんなわけないでしょう!成獣になって14年ですよ!とっくに貯まってます!お金の問題ではありません。10年以上連れ添って一度も妊娠しないなんておかしいと思われませんか?」
「まあ・・・死産、流産ならともかく妊娠自体がないのは不思議だな。」
龍希は困った。
「やはり族長もそう思われますよね!俺はジャガー族に騙されたんです!」
「妻が妊娠できないのはなんでなんだ?それが分からないと返金請求なんてできないぞ。」
「・・・」
龍雲は困った顔になる。
「理由なんて分かりようがありません。時間の無駄です。それよりもとっとと離婚して新しい妻を迎えましょう。」
竜和はそう言って龍雲の肩に手を置いた。
「妻は離婚を承諾してるのか?」
「いえ、それで族長にご相談なのです。妻の実家は数年前の黄虎との戦争でなくなったそうで、妻には離婚して帰る先がないらしいのです。なので妻は離婚を断固拒否してまして・・・」
「あ~そういえば、あの族長になってからジャガーとも戦争してたな。しかし、妻が巣から出ていかないんじゃ離婚できないじゃないか。」
「はい、困っております。ジャガー族は黄虎に続いてうちとの縁談までなくなるのは困るとのことで・・・離婚の協力もえられず。」
「竜夢に頼むか。こういうの得意だろ。」
「竜夢様のお手を煩わすのはさすがに・・・」
龍雲は気が進まないようだ。
「族長はどうやって役立たずのカラスを追い出したのですか?」
「ん?自分から出てったらしいぞ。もう覚えてねぇけど。」
「いや、絶対に追い出すって息巻いておられたじゃないですか!」
「そうなのか?」
龍希は全く覚えてない。
「ええ!?」
龍雲は困惑した顔で竜和を見る。
「私も詳しくは知りませんが、龍希様が結婚早々にカラスとの子作りを拒否されてしまったと竜湖様が頭を抱えておられたのは覚えております。」
「そうなの?俺が?元妻じゃなくて?」
龍希は全く覚えてない。
「花見会でも龍希様の妻に対する態度は酷かったですよ。あの先代族長ですら、会の途中で龍希様を呼んでカラスへの態度を改めろと説教されたじゃないですか。族長の雷が落ちるんじゃないかと俺怖かったですもん。」
「そうなの?」
「え~それも覚えておられないのですか?」
「全く。」
龍希は首をひねる。
「今の奥様とのご記憶はありますでしょう?再婚が分かったときだって、先代族長は激怒されていたではありませんか。カラスの時にあんなに妻を大切にしろと説教したのに、懐妊が分かるまで妻とすら扱わないなんてあんまりだと。」
竜和は呆れた顔でそう言うが、
「だから懐妊は関係ねぇよ!鶯亭の出産まで隠してただけだってば!早く懐妊しろなんてプレッシャーかけられたら芙蓉が可哀想だろうが!」
「いや、実家が文句を言ってくることもなければ、妻には離婚して帰る場所もないんですからそんな気遣い不要でしょう?」
「はあ?お前、そんなんだから妻に嫌われてんだよ!」
龍希は怒りのあまり龍雲を怒鳴り付けた。
「ええ!?いや、龍希様はかつてカラスの実家が文句言ってきてうざいから、次は実家のない妻にすると言って有言実行されてるじゃないですか!」
「え?いや、そんなこと言ったかなぁ~」
龍希は慌てた。
『公言したっけ?』
「龍雲、族長の奥様に失礼なこと言わないの。離婚の経緯なら守番の竜湖様にきいた方が早いわよ。」
竜和の提案に龍雲は嫌そうな顔になった。
「え?竜湖様ですか・・・いや・・・俺からはその・・・」
「お前、苦手なやつ多すぎん?」
「悪かったですね!序列の高い父を持つと大変なんですよ。」
「序列というよりも龍雲の父上は敵をどんどん作るタイプだったからねぇ。」
竜和は肩をすくめる。
「そうなのか?」
龍希にはもう龍雲父の記憶はない。
「はい、ですからあの方が族長になることはなかったです。万に一つも。」
竜和は怖い笑みを浮かべた。
「・・・もう下がってくれ。」
女は怖い・・・
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