第4話アズライトの誘惑
このところ身に力が入らない日々が続いていた。
仕事が忙しく、寝たら治る筈だなんて休日寝倒してみるも気怠さが抜けず。
元氣だせよ、と。
プロジェクト一つ終えたんだから良いだろうと誘われて連れて来られた、居酒屋。案内された場所に居た女性たちが並んで、隣の同僚に手を振る。
待ってたよ!と。
座敷と聞いて嫌な予感はしたんだが、体を引かれ来た場所。帰ると言うが、止められ押されて席に着く。
重なる声が多く知らない声が多く、視界も疲れ目で霞んで見にくいしタバコを吸う同僚のせいで、味も匂いも混ざって判別しにくい。
混ぜすぎて嫌な部分だけ強調されたみたいな空気と、迫り上がる胃液。それを飲み下すようにしてトイレへ席を立ち、そのまま断らず帰宅して仕舞う事にした。
顔見た同僚が顔白いと、言うくらい側からも具合悪く、見えたのだから。
まあ、許して貰えるだろうと思う。
このところ夢で同じ声がして目覚める毎日。
しかも毎回内容書き留められずにいる。
忘れてしまうのか実は相手の話を聴くまで夢を見られていないのか、何なのか。
ふと書こうとか、思い出そうとしたとたん霧は晴れ何も無い。
寝たいのに、寝たく無いのは、益々解らない不快さと、謎の声の、何かを言いたそうな空気、そう、次の言葉を紡ごうとした口元だけが。
その紅の色が。
白い夢の世界に毒キノコみたいに、浮いて、帰らなくてはと警告が頭に響く。
だけど何を注意しろと言うのか解らなきゃあ避けられない、でしょう?
勝手に帰った日の支払いをしようと呼び止めた同僚は、何故か、ありがとうお前のおかげだと、喜び支払いを断り今日はデートなんだと言って。
「友達の心配して支払いをしてあげるなんて格好良いーとタイプの子に褒められたからさ。これで払えなんて言う男になれないだろ?」
言った事嘘にしたく無いし、話すきっかけがしっかり掴めたお礼だと重ねてありがとうと笑って支払いは断られた。
多少、いや普通、どんな人も怒りそうなのだが本人がいいならと別れて。
そういえば、こんな不思議な運の良さが続いている事を思い出す。
偶々乗り換え案内をして助けた人が、実は会社の社長のお知り合いで話が弾み、仕事終わりに隠れ家的バーにて御馳走になったのは三週間前。後はそのお礼にお知り合いの方の息子さんに秘蔵のフィギュアをと差し上げてみたら、オタクの聖地秋葉原に行く付き添いをして欲しいと頼まれて。
氣の良い高校生くんとまさか運転手付きの秋葉原めぐりをしたが先週の日曜日。
でそのお礼のメッセージと銀座の有名果物屋さんのフルーツゼリーが届いて驚いたのが秋葉原行きの翌々日
小さな事なら自販機で当たりが出て缶コーヒー2個に喜んだのが一昨日。
後は最近顧客たちからしょっちゅうお菓子を頂き、部内に配っていたら、お返しにとホワイトデーと言いながらクッキー缶ビッグサイズを女性陣から。
みんな用とは別に、また貰うなんて、親以外なら初めてだからこれもかなりの幸運。
そう。
最近上手くいきすぎていて。
ミスが、良かった、ありがとうと言われて。
した事が良かったと言われて。
変な世界に紛れたのか、皆が皆に化かされてないかと思うくらいに僕に都合が良くて。
だからしょっちゅう、当たりがきつい人が居ていつもその、いいなぁお前はと言う声になんとも返せない。
はいと言えば正直な奴だと濁さないなんてと嫌味。
いいえと言うなら謙遜しやがる嫌味。
答え難いモヤモヤ、嫌味のあの暗い視線の暗さが深く濁りゆくに。
言うに相手もおらず、何も出せないまま心は良い出来事ほどに重くなる。
疲れた身体が、重いじゃない。
もしかしたら、心が、重すぎて、足取りにくるそんな感じ、もして。
あーもー眼を開ける事すら、億劫。
喉が渇こうと、渇いたなと思ってしばらくして、また、渇望したあたりでやっと。
手を伸ばし届かないとまた、停止して渇望の波が来るまで立ち上がって行く氣が出ない。
日常に弊害が出るくらい、しんどい。
とは言え僕を呼ぶ人に笑って話して、仕事して。そんなこんなで毎日の記憶曖昧な、また夢うつつみたいな、日を続けた。
そんなある日。
たまたま僕の家に来た母にバレて警察署、後病院で診察と診断書を貰う。
実家のご近所さん何人かから貰った筍で大鍋で筑前煮を作り、ついでに一人暮らししている我が家を見に来たのだが、不幸中の幸い?
もし、この時母に会わなければ。
言わなかっただろうし、警察にも行かなかった、行けないで居たかもしれない。
あくまで有耶無耶に。
「今晩ワ」
帰宅し鍵を回す背後から肩を掴まれ振り向く僕の鳩尾にめり込む音とだれかの拳。
そして、記憶は、母の声で呼び戻され。
盗まれたものはなどと言われてすぐそばに、ポケットから出した覚えのない僕の石があり。これはあんたの?と言う母に、頷き返した所で揺らした体の痛み。
何一つなくなっていた物はなかった。
服も鞄も家の中も。
鍵を刺したまま倒れたのに、荒れてなくて。
携帯画面の時刻も、帰宅した時間から30分も経ってなくて。
警察で話をしたら。
もしかしたらお母様と入れ違いくらいだったかも知れませんよ?などと、母も目撃証言を尋ねられたが。
ない、と言う母と、逆光で、暗い中色味ない服を着ていたらしいとしか解らない僕。
答えられる事が少なく、そもそも疲れていたのでとりあえず被害届を出し、明日昼間、僕は一度母と自宅帰宅しら最低限荷物実家に引き上げしばし戻る事にするとして。
ともかく今日は仕事にいるものが入った鞄とスーツで実家へ。
明日はまず明日朝連絡して仕事は休む事に決め、寝る。
翌朝。
休む連絡をして、久しぶりの平日お昼のワイドショー。あれ、見た事ある景色だ、と見ていたら。背任容疑でと映し出された写真が見慣れた上司、その顔で。
ふと、タバコ休憩、喫煙室内で。
避けていたがタイミングよく居合わせ、あれ?と目が合うとひやっとした、嫌な感じがあったその時が蘇る。
『最近君さ、ずっとポケット触ってんね。』
黙る僕に。
見せて?いや触らせてよ?御利益ありそうじゃない。だって俺も、それ持てば君みたいにモテモテのウハウハになるんじゃない、かなってさ』
それが無い時、あんなダメダメだったのに、さ、と言う目がナイフみたいで。
狙う目で。
見せる事、その場をトイレと言いつつコンビニまで逃げる事で避けたが。
まさか?理由ある人と思い当たる人は彼しかいないかも、て思いながら
うちの会社のニュースだ、と母と見て。
すぐ電話。犯人は、やはり上司だったと判明したそうだった。
あまり彼の住まいとは違う僕の近所で数少ない防犯カメラにしっかり写っていたらしく。
そこから彼の自宅内に僕の住まいを調べた痕跡など証拠が出て自白が取れたらしい。
狙いは、この、小指程の小さなアズライトだったらしい。
としたら何故、ポケットからつまみ出した癖に置いていく間抜けをしたのだろう。
聞いた刑事さん曰く。
石が無い、手の上て消えたんだ。自分の周りを探しているうちに足音がしてすぐ非常階段から建物出たら。
目の前に、警察官が居てあっという間にお縄にされた。
何年も全くバレなかったのに、突然。
なんで、石のせいか?
等々。
あまりに変な話だが一応自白だからと、確認を取るため掛けたて言う電話に。
話している警察官も、それを聴いた僕も。
これまで嘘をついて罪を作った人の、とは言え作り話するにはすぐバレそうな話を、どこまで信じたら良い話なのか悩む、そんな超常現象に心当たりあるかなんて、一応形式で聴かれても。
なあ。わからないとしか、言えないよな。
なんにせよ。
しばし痛む腹と、ともに。
会社に溜まった有給休暇を申請し。
身を休める事にした。
それは、ニュースの元上司の件で僕の事まで話題にならない配慮として会社とも相談した上で名目は体調不良の療養として。
騒ぎのせいで会社内はえらい事になっているだろうが。
僕宛のメールには、顧客たちから引き続き宜しくと言うメッセージが数十通も並び。
うちで働く?と言うお誘いも何通も。
そして。
「これ、あんたに」
「は?あ?」
また、石が増えた。
実家内の収納からあんた宛にじいちゃんが残した奴と、母。
これで収納スペース空くわ送料出さなくて良いわで、一件落着と鼻歌混じりの側に。扇風機サイズの石が二つ。後は古いトランクが5つ。
預かり物だから引き取りに来たら渡して欲しいものと、完全にお祖父私物の石があり、添えられていた手紙に説明があると言うそれは。
重い。
ひたすらに重いが。
全て、寝起きする場所に置きなさいと言う遺言付き。
「いっそ、実家から通う?」
「それ、しかないか?アソコにはもう住みたく無いし」
因みに。
祖父は。
石を預かるという頼まれ稼業をしていた、と言う事が判明したが。
母曰くそれが仕事だったわけでも、稼いでいたわけでもなく、石を人に渡したり人から渡されたりしていた、あくまで変わった趣味、趣味の集まりみたいなんだっていう話をしていたらしいが。
ともに渡された住所録の、名前に。
思わず悲鳴。
中に僕も知る錚々たる有名政界人たちが有り。母に押し返そうとするが。
遺言だからと、中身も知らず渡す様にと言われただけの母も見て。
すぐに。
「こんな物騒なもん、私は要らない。
あんたが、一人でがんばりな」
結局。
死んだ祖父の遺品を受け取り話を聴き、それでも、祖父の謎、石の謎は深まるだけで解らず。
デカデカと、預かり証なる表紙裏に。
但し書き。
"相手にはお前の話はしてあるから来たら拒むな"て、書いてある。
なるほどー?
どうしろと?
そして。
タッキュー便でーすと、特大段ボール二箱。
居場所教えてもいないのに中身の一箱は。
見覚えのある高級石鹸箱が。
しかも、何個入りか気になり、番号振った自宅に置いていた物たち。
それ以外は贈り物ですと色々と物が詰まっていて。
懐かしい後輩のは贈り物箱。
彼氏の書いた手紙が石鹸箱にあり。
大事に、預かっていてくれと彼の一言。
隣で喜ぶ母には、見せられない。
こちらは急いで片付ける、と思えば覗きに来た母。
沢山の石鹸に。
変わったお友達がいるのね?と、半笑いし、そしてさらに。
「最近偶然貴方のお陰様と言うお嬢さんと旦那さんに会ってね。
実家この辺りと知って驚いた二人と話したら弾んじゃって。教えておいたんだけど。
早速下さったみたいね。あ、コレあら新しい石よ。お祝いにって」
「・・・・・・はあ?」
どうやら。
なんも解決し切らないまま。
石は増えていくばかり。
だが。
体は楽に心も楽にいつのまにかなっていて。
石との生活にも、慣れつつあって。
仕事は復帰後も、もし仮に転職しても大丈夫なくらい、幸運も来る度、わたわたせず普通の毎日になり。
幸いいつも。なんとかなる。
で今はしばし中休みだがまた次が来るから、と言うわけで。
そんな感じなら仕方ない。
さて、今日とりあえずは。
箱に貰ったボルシチパウチを食べようか。
-お仕舞い-
アズライトの夢 STORY TELLER 月巳(〜202 @Tsukimi8taiyou
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