第30話 ジャックとディーノ
「その顔ムカつくんだけど」
速足で歩く男の後ろから追い抜かさんばかりに速足なディーノが言うと「なんで? 君の大好きな怜君だよ」とからかうように言う。
「だからだよ、どうやって作ってるんだそれ」と横目でディーノがまじまじと顔を観察する。
「企業秘密さ。ところで君は整形とか得意? お医者さんでも専門外かな、ああ闇医者だったね」
「! お前は一体何なんだ?」
「俺? 俺はこの世の
「フン、神様にでもなったつもりかよ」
「ああ、神様か、俺はそれでも良かったんだけどね」
「頭がおかしいのか、もういい」
「じゃあ、乗って」 駐車場に着くと男が指さしたのはボロボロの日本車だった。
「動くのか、これ?」
「日本車をバカにするなよ。見た目が悪くても性能はバッチリだ。いいから乗れ」
二人は車に乗り込むとすぐさまエンジンをかけて走り出す、すると後から一台の車が少し間をあけてつけてきた。それはディーノにも分かった。
「後ろからもお客さんが来きてるぞ」
「ああ、後ろの奴も鷹東怜の肉を欲しがってる獣さ」
バックミラーで後ろの車を睨みながらディーノは歯噛みをした。
* * * *
ミニバンの後部座席に押し込まれ手足を縛られた麗は目隠しをされていた。揺れる車内で時どき触れるレイコの体の温かさだけが心の支えだった。どうして私たちがこんな目に遭うんだろう。
恐怖と不安でおかしくなりそうな麗は何故か桃木のことを思い浮かべていた。桃は私の護衛でしょ、助けにきてくれるよね。そんな期待出来ないことを考えていると案外早くに車が止まった。足の縛りは解かれたが目隠しをされたまま歩かされエレベーターに乗せられる。
4階か5階で下ろされ何処かの部屋に押し込まれるが冷たい床と空気でなんとなく広々とした場所だと分かる。
「若い女の方は手荒にするな、こいつを人質にして怜からパスワードを聞き出す」
手足の縛りを解かれ椅子に座らされた麗は目隠しを外されるとそこに見えたのはタカトウ・コーポレーションのオフィスだった。父親の会社には何度も来ているので間違ってはいないはずだが何故ここなんだろうと丸岡の考えが全く分からない。
別の椅子には目隠しをされて口を塞がれたレイコが座らされた状態で縛られていた。足の縛りはないようだ。
「こっちの女は好きにしていいんだろ」
灰色の目でレイコを見下ろすミッキーの顔は色欲に歪んでみるに堪えなかった。
「それはお前らのアジトでやれ。ここではするな、血痕が残ると面倒だ」
「けっ、おあずけかよ」
「うるさい、時間がないんだ」
「お、お父様に言いつけるわよ。私たちを解放しなさい」
麗は精いっぱい気丈に振舞ってみるが声が震えているのが自分でも分かる。
「あー、もう会社は辞めるんでどうぞ好きにしてください。麗さんはご自分の置かれた立場が分かっていないようだ」
「こんな所で私を監禁したってお金なんてどこにもないわよ、あなた社員なんだから知ってるでしょう」
「もちろん、知ってるさ。ここには現金はない、確かにな。だがこれがある」
デスクの上のPCに電源を入れながら丸岡が言った。
「桃木が後をつけてきたのは分かっている、そのうち怜もここに来るだろう」
麗は桃木という名を聞いて小さな希望と不安が一緒に押し寄せるのを感じた。
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