第33話 転生者

 連邦警察に丸岡とミッキーは連行された。説明はすべてJが滞りなく行い被害者である現場の人間はそれほど拘束されることなく解き放された。


 ウララはレイコが自分の兄だったことにかなりのショックを受けていたが一緒にいる時の懐かしさや母親に似た顔立ちを見てどうやら納得したらしい。

 

 今までのだらしない生き方は全て丸岡の企みを暴くためだったとJから嘘の情報を刷り込まれすっかり兄への不信感を払拭した。


 ただ、Jに対してのディーノの不信感は募るばかりだった。


「実はレイさんとじっくり話したい事があるんだけど。二人きりで」


「ダメだ」


「ディーノさんの気持ちは分かるんだけどね、これはレイさんがこれからためにとても重要な事なんですよ。レイさんが決めて下さい」


 レイの体に電流が走った。ここで生きて行く、この人は何かを知っているんだと直感した。


「話したい」とレイが真剣な面持ちでディーノに言った。


「この人と話してちゃんとここで暮らしたい、後でディーノには本当の事を話すから信じて欲しい」


 何を言っているのか分からないという顔のディーノだったが「分かった」と言って二人になるのを許した。



* * * *


「単刀直入に言うけど、君って転生者でしょ」


 いきなりの事にレイはたじろいだが食い込み気味に返事をした。


「どうしてそれを、というかお前もか!」


「やっぱりね、言っておくけど俺のゲームに入ってきたのは君だからね。ゲームシナリオが突然変わったから何が起こっているのかと思ったらバグですよバグ、君の存在がバグ」


「バグバグうるせぇな、元の世界でやってたソフトがバグだらけだったんだよ」


「あははは、それがどう関係するのか興味のあるところですが。まぁ俺としたらシナリオ通りじゃない方が楽しめるんで君の存在は歓迎するよ」


「Jは、」


「ジャックで。ここではFBI捜査官という役どころです。残念ながらモブ」


「ええ、FBIってカッコいいなぁ。じゃなくてゲームは全部クリアしてシナリオ全部知ってるのか」 


「まぁ、多分。それより君ってノンケでしょ。BLゲームだからねここ、その辺は覚悟しておいた方がいいかもね」と意味深に笑うジャックがこれまで以上に怖かったというのは内緒だ。


「まぁ、何かあったら相談してくれていいよ。出来る限り力にはなるから。それだけ、じゃあディーノと仲良くね」


 そう言うとオフィスから出て行った。  



* * * *


 タカトウ・コーポレーションの会議室で一人待っていたディーノは物憂げに窓から街を見ていた。


「話を聞いてくれる?」というレイに「勿論だよ」と答える。


 レイはここが B.B.B. というゲームの世界であること、自分が別の世界から来た転生者であること、ジャックも同じ転生者であることを真摯に話してくれた。


 当然のようにディーノは驚いて信じられないと言ったがジャックの何でも知っているあの不自然さを説明するには十分な内容であった。あの神のような発言に思い通りになる展開、未来を知っているなら当然だろう。


「俺はここで生きていきたい。鷹東怜になるには時間がかかると思うけど今更どこにも行けないし」寂し気にレイが言う。


「レイ、君が誰でも僕はかまわない。鷹東怜になっても僕と一緒に居てくれないか」


 えっとなったあと、うんと頷いて顔を手で隠すレイをディーノが抱きしめた。


「好きだよ、レイ、僕の側にずっといて」


「うん」


「ありがとう」


「うん」    


 抱き合う二人の影がビルの窓辺にぼんやり浮かぶ。それは少し離れてまた重なった。

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