第17話 オッソ・ポラールとG.P.

 ベイエリアにある工場と倉庫が並ぶ裏手に何の変哲もない3階建ての社屋があった。1階の入り口に「C&D Food Factory」と書かれた看板がある。


 ガラスのドアに貼られたポスターには人気商品のペットフードが可愛い猫や犬のキャラクターと一緒に踊っていた。見た目は普通のペットフードの会社だが実はオッソ・ポラールの事務所でもあった。


 その3階の社長室の大きなデスクに肩肘をついて睨みを効かせている口髭の年配の男が煙草を口に咥えると前に立っていたグリズリーはすかさず煙草に火をつけた。男は煙草をくわえたままで口角を上げる。


「あの丸岡って子、あちこちで借金してるのね」


「はい、ボス。特に G.P. には子飼いにされていいように使われているようです。取引の夜は信用のできる日本人に使いを頼んであると連絡がきてブツを先に渡すと言われていました。

 取引といっても今回はブツを受け取るだけだったのと相手が素人のサラリーマンと聞いていたので油断していました」

  

 年配の男は回転椅子をクルクルと右に左に回しながら煙草を吸って何か考えていた。


「あの子は信用できないわねぇ」


「はい、信用できません」


「お使いにくるはずだった子の方はどうかしら。何か手がかりはつかめた?」


「はい、丸岡の会社の同僚だというのは分かりました。金遣いが荒くて借金があるようです。ヤサが分かったのでブツを隠してないか調べてきます」


「そうね、もしかしてって事もあるからお願いね」そういうと男は煙草の火を消してまた回転椅子をクルクル回して考え込んだ。


 グリズリーは「はい」と答えると帽子をかぶって部屋を出て行った。




* * * *


 郊外の古い一戸建て住宅は一見普通の家族が住んでいるように見えたが中にいるのはさまざまな武器をたずさえたイカレた野郎どもばかりだった。


 縄で縛られて複数の男に殴る蹴るをされている男はあの夜にイカサマがバレてバルドファミリーと諍いを起こしたミッキー・ゲロだ。


「お前のせいで面倒な事になってるんだ、落とし前つけろ」幹部らしき男が蹴りながら怒鳴りつける。


「俺は丸岡に騙されたんだよ、あいつがカジノのデイラーを買収してバレないように何度もイカサマをしてたのを知ってるだろ。あの日はデイラーが売上金をごっそり渡してくれる話になってたんだ」


「そうだな、その話にまんまと乗って仲間が何人かやられたんだったな、くそ、丸岡のやつどこに隠れてやがる」


「家には帰ってないけど会社には行ってるぞ」


「なんだ、知ってるなら連れてこい」


「あいつは今大きな仕事をしてるんだ」


「丸岡の仕事なんてどうでもいいだろう」


「違う、詐欺だよ詐欺、5億とか8億って話だ」


「なんだそれ、本当か」


「これは確かだ。ただ鷹東怜って奴が邪魔をしてるから俺に力を貸せと言ってきてる。報酬はタカトウ・コーポレーションから身代金を好きなだけ貰えとさ」


「身代金か、それはいいな。絶対に成功させろ。上手く行った後に丸岡も始末しろ。あいつはもう用無しだ」


 ミッキー・ゲロはニヤッと笑ってうなずいた。

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