第28話 攫われるウララ

「鷹東怜」 思わずレイが呟いた。


「おや、私の事をご存知でしたか、こんな美しい方に知ってもらえているとは光栄です」とジャックはうやうやしくレイの手を取りキスをした。


 咄嗟の事に驚いて目を見張るレイにジャックは口角を上げてニヤッと笑う。その様子を隣で見ていたウララはいぶかし気な顔をして少し震えていた。


「僕のフィアンセを誘惑しないでいただきたい」とレイの腰を抱き寄せてディーノが鷹東怜の偽者からレイを引きはがす。


「これは失礼」と言って一歩下がるとそこにはレオナルドが立っていた。


 レオナルドを見た途端に派手な女は逃げて行く。


「あなたは誰!」唐突にウララが偽者に向かって言った。


「何を言っているのかな。私は君の兄だよ、さっきもお兄様って呼んでくれたじゃないか」とウララの方に手を延ばす。


「嫌、触らないで、あなたは怜兄さんじゃない」と言い放つとウララが走りだしたのでレイは「待って」と思わず後を追う。


 やれやれと両手を上げてその場から立ち去ろうとする偽者の前後をレオナルドとディーノが挟んだ。


「やぁ、鷹東怜、会いたかったよ」とディーノが言うと「私もですよ」と男がクククと笑った。

 

「場所を変えましょう」とレオナルドは静かに言ってフロアの出口を目で差した。


「望むところです」と偽者が言うとレオナルドと並んで歩く。ディーノは後ろから少し離れてついていった。




* * * *


 

 ウララは兄と名乗る見知らぬ男が怖くて逃げてしまった。顔は同じだったが明らかに中身が違う。雰囲気もしゃべり方も。


「あのひとは誰だろう、なぜ怜兄様のフリをしてるんだろう」


 どう考えても訳が分からないウララはフロアを出てレストルームの中に逃げ込む前でレイに腕を掴まれて我に返った。


「大丈夫?」

「レイコさん」


 心配げに見下ろすレイの顔をみてウララは亡くなった母を思い出し懐かしさと安心感が湧いてきて自然と涙が流れる。レイは黙ってウララを抱きしめて背中をさすってくれた。


「みんなのところに戻りましょう」とウララが少し落ち着いたところで手をつなぎ歩きだすと後ろから声をかけられた。


「あれ、うららさんじゃないですか」黒い礼服を着たやつれた男が立っている。


「? あっ、丸岡さん」


「パーティーに出席されると聞いて探してたんですよ」


「私を、ですか?」


「ええ、ちょっとお話があるので一緒に来てくれませんか」


 うさん臭い男に言い知れぬ気味の悪さを感じたレイがウララの手をしっかり握りなおした。


「私たちは連れがいますので、失礼します」


「お前には関係ないんだよ、引っ込んでろ」いきなりレイを突き飛ばすとウララの細い腕を掴む。


「嫌だ、痛い、離して」騒ぐウララの口を押える丸岡に立ち上がったレイは蹴りをいれようとするがスカートが邪魔で上手く入らない。


「なんだこの女は、おいミッキーこいつはお前にやるから好きにしていいぞ」


 のそのそと何処からか出てきた男に丸岡は顎でレイをさす。


 ミッキーはレイの腹に一発拳をくらわして倒れた体を荷物のように抱えた。


「なかなかの上玉じゃないか、適当に遊んだら薬漬けにして売ろうぜ」と汚い舌で唇を舐めるとゲへへと笑った。


 ウララは丸岡に抱え上げられながら尚も抵抗していたがミッキーの言葉を聞いて顔色を失い目から光が消えた。


「なんだ急に大人しくなったな」とミッキーが白けて言うと「お前の気持ち悪さに俺も吐きそうだよ」と言い捨てた。



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