第27話 パーティーの始まり

 ミッドタウンにあるクラシカルなホテルの広いフロアでは立食のテーブルとダンスエリアが分けられユニフォームだろう黒タキシードに蝶ネクタイの美麗なスタッフが美しく着飾ったセレブな老若男女を案内している。


 老舗を感じさせるホテルの外見からは予想できないフロアの煌びやかさにレイは眩暈がしそうだった。


 それはウララも同じだったようでレオナルドにエスコートされる足が一瞬止まる。気づいたレオナルドは軽く握っていた手を少し強く握るとウララはハッとして真っすぐ向き直り歩き出した。


 この子はまだ若いのにしっかりしてるなとレイは感心したが周りの目が全部自分たちに集中しているのに足が震える。ディーノは堂々といつものようにふるまってレイをエスコートしてくれるし、なによりレオナルドに向けられる熱い視線の方が圧倒的に多いのだから自分が気後れすることはないと悟った。


 若いセレブのお嬢様たちはレオナルドとディーノに釘付けになるが、エスコートをされている見慣れない東洋人の若い娘が目に留まるとヒソヒソとなにやら陰口を囁き始める。


「だれですの、あのアジア人の娘」

「レオナルド様がお可哀そう」

「なんて地味なのかしら」

 

 すれ違いざまに嫉妬丸出しの嫌味が聞こえてもウララはレオナルドの隣にいられるのが誇りだとばかりに健気に前を向いていた。


「後ろにいるアジア人も背が高いだけで品がないわね」


 ついでに悪口を言われたレイはたちまち気持ちが落ち込んだ。


 だが招待客の男性陣には艶のある黒髪と潤んだ黒目の受けがいいらしくウララもレイも羨望と好色の混じった目を遠慮なく向けられて女性の悪口よりも男性の視線の方が不快だった。


「もう帰りたい」といったのはディーノだ。


「レイが変な目で見られるのが嫌だ」


「あなたそんなキャラでしたっけ。今来たばかりですよディーノ」レオナルドが呆れて言うと「僕はいつもこんなですよ」と拗ねるのでレイもこんなディーノは初めてだと驚く。


「大丈夫だ、ですよ。私は平気です」とレイの方がなだめることになるが返ってそれでリラックスできた。


 しばらくすると音楽が流れはじめ「一曲踊りましょう」とレオナルドがウララを誘い、ディーノとレイもそれにならってフロアに出た。


 基本のワルツは練習の成果もあって気持ちよく踊れてとても楽しかった。これはディーノのリードがいいのと相手がディーノだから、だろう。背の高い二人が大きなステップで踊るとそれは華やかで目立った。


 一方のレオナルドは身長差のあるウララを持ち上げんばかりに軽々とリードし王子様が羽の生えた妖精を捕まえようとステップを踏んでいるようでウララがとても可憐に見えた。流石レオナルドだとレイは心で感嘆した。


 周りで見ていたセレブのお嬢様たちは一様に押し黙る。憧れの目で見始める者、興味を失う者、嫉妬の炎が更に燃えた者など様々であるが何らかの燃料を投下してしまったのは間違いなかった。


 曲が終わり二組ともフロアから引き揚げるとレオナルドとディーノの周りに女性が殺到した。レイは驚いて動けずにいたら女性陣たちの輪から押し出されてしまう。それはウララも同じだったので二人して食事の並ぶテーブルの方へ避難した。


 近くを歩いていたスタッフからノンアルコールのカクテルを貰いウララに渡すと嬉しそうに笑って「ありがとうございます」と礼儀よくお礼を言われる。とても育ちがいいのだろうなとレイはまた感心してしまった。


うららちゃんはダンスが上手ね、何処かで習ってたの?」


「はい、もとはバレエを習ってたんですが社交ダンスもたしなみなので普通に習ってました」

 

 普通に習うんだ、やっぱり世界が違うとレイは周りのキラキラした人達を改めて眺めてみるがその先々で男共と目が合って嫌になった。マジキモイ、今なら分かる女性の気持ち。


「レイコさん、このローストビーフ美味しいです。赤ワインが欲しいです」


 気が付くと小さく切った肉をフォークで刺しながらウララがこっちこっちとレイを誘う。


「あなた未成年でしょ、ワイン飲んだことあるの?」


 思わず問い返すとえへへと笑うので「もう、この子は」と保護者になってしまった。ウララはとても素直で可愛くてどこまでもお嬢様だった。


 二人でしばらくキャッキャッしていると見知らぬ若い男性が二人近づいてきてダンスのお誘いを受ける。どこかの御曹司らしく二人ともイケメンで紳士だったが少し休みたいのでと丁寧にお断りをした。


 レイは単に嫌だっただけだがウララには踊れば良かったのにと言うと、一人だけ受けるのも相手側に失礼かと思ったらしい。これはレイが悪い事をしたと思った。


 その様子をじっと見ていたらしい一人の派手な美人がワインを片手にやってきた。


「今しがたあなた達がダンスを断ったのはイタリア貴族の末裔の方々よ、ご存知なかったの? ここは成金風情が出ていいパーティじゃないのよ」


 女は持っていたワインをウララの頭からかけようとしていた。レイがそれを庇おうとしたとき、


「私の妹が何か失礼でもしましたか?」と男の声がして派手な女の手首をつかんでいた。男はワイングラスをもう一方の手で取り上げテーブルに置く。


「お兄様!」と麗の声がして振り返った男と女装のレイの目が合う。


 鷹東怜はウィンクをしてレイは頬を引きつらせた。



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