第25話 慈善パーティー (2か月後)

 JB&Iはイギリスの不動産開発を手掛ける企業でアメリカでも幅広く事業をしている。創業者がイタリア貴族の末裔でその繋がりでマルコーニ家と懇意にしているらしい。


 今回のパーティーはチャリティーも兼ねたもので財界人を中心に招待されている。タカトウグループが呼ばれたのは不動産の関係だろうとレオナルドが話していた。


 レオナルドが主催と仲がいいのでディーノとレイは友達枠(本当はそんなものはないと思う)で特別に参加させてもらえる。社交界なんて別世界なのでまるでピンとこないのだがとにかく鷹東怜の動向、というか、偽者が何をしようとしているのかを確かめなけいといけないのでレイは覚悟を決めた。


 パーティー当日の午後、レオナルドの屋敷に出向いたレイはメイド四姉妹に丁寧にドレスアップしてもらい黒髪のかつらをつける。ゆるいがほのかに色気のあるアップスタイルだ。


 ディーノとレオナルドはタキシードでビシッと決めて破壊力抜群だ。メイド四姉妹はまた悲鳴を上げている。レイも同じく声を上げそうだった。


  レイが二人に見惚れていると「凄く綺麗だよ、レイ」とディーノがドレッサーの前に座っているレイの手を取って立たせる。ハグかキスでもされるかなと思ったが何もなかった。メイド四姉妹も期待をしていたようだが何もなかったので少しがっかりしていた。これが普通なんだけどね。


「じゃあ、行きましょう」とレオナルドに言われて玄関に行くとリムジンが横付けされていて驚いた。リムジンって実在したんだ。スゲー長い。


 運転手は若い執事だ。後部に三人が乗り込むとしばらくして動き出した。


「このままウララ・タカトウを迎えに行くからね」


 レイは驚いて「俺がいても大丈夫かな」と慌てる。


「できるなら余り喋らないでくださいね。くれぐれも俺とは言わないように、私で、おねがいします」とレオナルドに釘をさされる。


 レイは無言でうなずいたがこの空間に妹かもしれない女の子と一緒になるのが怖かった。レイは鷹東怜のことをまるっきり知らないのだ。


「レイって呼ぶのはまずいよね、おかしくはないけど同じだとちょっとね」とレイの隣に座っているディーノが言った。


「レイコならどうかな、間違えにくいし大人の日本人女性って感じだし」っていうか母親の名前なんだけどとレイは口に出さないように心で苦笑いした。


「レイコか、いいんじゃないかな。間違えても誤魔化せそうだし」とディーノが言うとレオナルドも頷いた。


「はい、レイコさんシャンパンはいかが、少し飲んでおくと緊張しないよ」


 ディーノがおどけた様子でグラスを渡してくれる。流石に母親の名前で呼ばれると面はゆいが仕方ない。


 レイはできるだけ女性っぽくありがとうと言って受け取り一口飲んで気持ちを落ち着けた。



 しばらくして鷹東の屋敷につく。邸宅は日本人の建築家がデザインしたもので滑らかなコンクリート作りの大きな壁が取り囲む一見美術館のような造りだった。壁の中に入ると広い庭に面したガラス張りの廊下が見え、どこが玄関なのか分からない。


 リムジンからレオナルドが一人降り立ちウララを迎えにいくと何処からか若い付き人と一緒にウララが出てくる。


 大人っぽくなり過ぎない可愛らしさを残したイブニングドレスを着て黒髪をハーフアップにした鷹東うららは以前あった時より一段と可憐で美しくどこに出しても恥ずかしくないお嬢様という感じだった。


「お待たせしました。今日はよろしくお願いいたします」とウララが少し膝を曲げて挨拶をするとレオナルドはにこやかに手を差し伸べる。


「行ってくるわね桃木。後の事は頼んだわよ」とウララが後ろに立っていた若い付き人に言うと「はい」とだけ返事をした桃木はレオナルドに頭を下げた。


 レオナルドはちらっと桃木を見てニコっと笑うと桃木は目を見開いたが何も言わずに頭を下げた。


 リムジンに乗り込んだウララは先客がいるのに驚いた顔をしたがそれは一瞬だけですぐさまディーノとレイに挨拶をする。


「はじめまして。ウララ・タカトウです」


「こちらこそ、挨拶が遅くなり失礼しました。ディーノ・バルドです」

「レイコ・フジモトです。よろしくお願いします」とレイは日本人ぽく軽く頭を下げる。


「こちらこそよろしくお願いします」

 

 黒い大きな瞳でレイとディーノを交互にみてウララは微笑む。明るくて利発そうな美少女は余計な詮索はしないようで二人の関係などを聞くことはなかった。


「同乗する人がいると連絡してなくて申し訳ありませんでした。二人とも僕の大切な友人です」


「いいえ、大丈夫です。お会いできて光栄です」とウララは屈託なく言った。


 レイの方はというと内心バレないかとドキドキして笑顔が引きつっていないか心配でしょうがない。そんなレイを時折じっと見つめるウララにレオナルドがグラスを手渡す。


「アペリティフのシャンパンです。といってもウララさんのはノンアルコールですが。会場に着くと注目を集めて緊張するかもしれませんので今のうちにリラックスして下さい」


 シャンパングラスを持つ手が少し触れあうとウララは頬を赤らめてレオナルドに夢中になった。流石レオナルド。


 ハイスペックなイケメンに囲まれても臆することなく会話をたのしんでいるウララにレイは好感を持った。俺は鷹東怜でこの子は本当の妹なんだよな。残して来た会えない妹を思い出して少し切なくなって下を向いたらディーノが手を重ねてきた。


 なんか久しぶりなスキンシップに心臓が跳ねる。なんでこの人はレイが寂しいと思った時に温かく接してくれるんだろう。


 指をそっと握り返したらディーノの顔に朱がさしたように見えた。


 

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