第2話 小麦粉がバクハツした
藤本礼は中堅デベロッパーに勤めるサラリーマンで下町のアパートで独り暮らしをしていた。
趣味はゲームにアニメに漫画、いわゆるオタクと呼ばれる類のものだが会社の人間にオタバレはしていない。社会人として身なりには最低限の気を遣い恋愛経験は少ないながら過去にはあった。営業成績は人懐こい性格が功を奏したのか常に上位の成績で有望株だ。
だがしかし、営業の仕事は過酷で長時間残業に連日の夜の飲みは当たり前、ストレスが頂点になりながらも笑顔を絶やさない日常に疲れ果てていた。
そんなある日、過労で倒れたついでに溜まった有給を消化するために1週間ほど会社を休んで家で療養することになった。
現在は彼女もいないし、外出はしたくない。礼は久しぶりの休みに暇を持てあまし、買ったまま積んでいたゲームで暇をつぶすことにした。
目に留まったのは、随分前に慰安旅行で行った温泉街の裏通りに隠れるようにあったいかにも怪しいお土産店のワゴンに埋もれていたものだ。10年くらい前のクライムアクションゲームで見た目はアンダーグラウンドな男どもの抗争といった感じでカッコよかった。安かったので買ってみたが未開封のまま積んでいたやつだ。
「B.B.B.」というタイトルのそのゲームはマフィアとギャングの抗争を中心とした中身はBLゲームだった。3DのBLゲームなんて珍しいにも程があると思いながら始めてみたら思いのほか面白くてハマった。
ただバグが多く何度もフリーズして電源を落とすことになりなかなか進まない。休みが終わる前にはクリアしたいと休養しているはずなのに礼は連日徹夜をしてしまう。
本末転倒だなと考えながら眠い目をこすってカフェオレを飲むとすきっ腹が刺激されたのか急に空腹感がきた。何も食べていないのを思い出してキッチンに積んであった25キロの薄力粉にめをやった。
妹が趣味でお菓子作りをしているのだが小麦粉の値段が上がると言って買いだめたものを置き場がないとうちに置いて帰ったのだ。使ってもいいよと言われても薄力粉からはホットケーキくらいしか作れない。
ホットケーキミックスではなく小麦粉から作れるなら凄いと言われるが卵に牛乳に砂糖、そしてベーキングパウダーがあれば適当に作れる。そんなに難しいものではないし甘さが調整できるから自分で作るのはお勧めだ。
腹が減っているので量を多めに作ろうと25キロの紙の袋を持ち上げたら何故か穴が空いていてドババババと小麦粉がキッチンに充満した。
白い煙は狭いキッチンから隣のPCの部屋まですぐに到達する。ずっと点けっぱなしのPCのコンセントが何故かタイミングを見計らったように火花を散らした瞬間、爆発した。
バンッ
世界が暗転してぐるぐると周り俺の体は何かに吸い込まれて落ちていった。
* * * *
夢?
ホットケーキを作ろうとしたら何故か爆発して、そのあと、なんだっけ。
全く思い出せない。
頭が痛い。
ここは病院? そうだ俺は怪我をして入院しているに違いない。
ぼんやりだが、やけに綺麗な看護師さんが二人して礼の世話をしてくれているのが分かる。
でもおかしいな、二人とも外国人のようなのに何処かで会ったような気がする。
そうこうするうちに瞼が重くなり礼はまた深い眠りに落ちた。
「鎮静剤を打ったから大分落ち着いたみたいだな、検査が終わったらうちに連れて帰るよ」
誰かの話声がする。これも夢だろうか。
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