第22話 ダンスレッスン
夜が明けるにはまだ早い時間、寝付けなかったレイは広い客間の大きなベッドに一人寝転がり天井を見ていた。
レイの身長は178cmで背が高い方だが寝ているベッドがやたら広いせいで自分が小さくなったような気がする。枕を抱えてゴロンゴロンと右に左に転がっても落ちないのは楽しい。
まだ、か。ディーノは俺の事をどう思ってるんだろう。僕のものといったりキスをしたり。それは好きって事なんだろうか。
ディーノはゲームの中では受けで無自覚に相手を攻略していくキャラなので過去に男性関係がいろいろあってもおかしくはない。攻略対象でもないレイはきっと
レイはそうやって自分で結論づけた事柄に今度は無性に悲しくなって胸が痛くなる。なんなんだこの気持ち、本当にどうかしている。
ダメだ、もう考えるのは止めよう。俺はディーノの奴隷なのだ。それにしては待遇がいいけれど。
悶々としているうちに朝になり客室のドアを叩かれて朝食に呼ばれた。
ダイニングに行くとレオナルドもディーノもいて二人とも何事もなかったように爽やかな笑顔で迎えてくれる。三人で美味しい朝食を食べながら何でもない話をした。
「今日はレイのダンスレッスンをするよ」
レオナルドに言われてレイは素直にうなずいた。パーティにはレオナルドの友人枠でディーノと一緒にレイも潜入するのだ。ここはきちんとダンスくらい踊れないと怪しまれる。
「はい、頑張りますっ」と普段なら嫌々なレイが前向きな事にディーノは意外そうな顔をするが鷹東怜の偽物の尻尾を掴まないといけないという名目があるのでやる気を出したのだ。
「偽者に近づくチャンスだから頑張ってね」とエールを送られる。
レイはうんと頷くが自分も偽者と変わりがないのでこの先どう転がるか運命に従うしかない。偽者を排除して自分が鷹東怜の座に居座る。そうなればタカトウ・コーポレーションの力でディーノに借金を返せるだろう。しかし、そうなるとディーノと一緒に生活する理由がなくなる。
それは嫌だ。ずっと一緒にいたい。実際のところ鷹東怜なんてどうでもいいのだけど。レイはまた悩みが増えたことに溜息をついた。
そんなレイの様子を寂しそうにディーノは見つめていたがそれに気が付いたのはレオナルドだけだった。
「コーヒーを飲んだら早速練習しましょう」レオナルドはそう言って若い執事に目をやると「レイはカフェオレで」とディーノが言ってくれる。
レオナルドはにっこり笑って若い執事に頷いてみせた。
どこまでも優しいディーノにレイは泣きそうになった。こんなに良くしてくれた人が今までの人生でいただろうか。リア充を気取ってみても楽しい恋なんて一度もしたことがなかったのだ。でもディーノとならときめく恋というのも夢ではないように思えた。
ダメだダメだ。ディーノにそんなつもりがないのにこれ以上甘やかされたら勘違いしてしまう。しっかりしないと。レイは心の中でしっかりしろと頬を叩いた。
朝食を終え、動きやすい服に着替えるために部屋に戻るとメイドたちが待ち構えていた。ドレスはクリーニングに出してくれたようで今日は普段着で練習だ。一人で大丈夫といったが手伝うように命じられているらしくレイの服を脱がそうとする。
持ってきていた着替えがダサいとメイド四姉妹に言われ胸元にフリルがついたブラウスと黒いパンツに着替えさせられた。社交ダンスで男性が着ている服に似ている。
ちなみにメイド四姉妹と言っても本当の姉妹ではない。日本にはなんとか姉妹という血の繋がりのない有名なタレントさんたちがいるのでそれを真似してレイがかってに命名したのだ。
美人さんに囲まれて嬉しくない男子はいない。いろんなタイプの女子と話をするのは楽しかった。特に昨日床に倒れていたおさげ眼鏡女子はゲームが好きらしくレイと話があって仲良くなった。二人でキャッキャッとホラーゲームの裏話で盛り上がる。
いつの間にか部屋のドアにもたれて腕組みをしていたディーノが話に入れずにムッとしているのが見えて拗ねた顔が可愛いなと思う。
「今日はとてもハンサムに仕上がりましたずら」とレイをディーノの方に押しやりながら眼鏡メイドが言った。
レイは黒髪を後ろになでつけて貴族のような出で立ちだったがディーノは見た瞬間に吹きだした。
「何がおかしいんだよ」とレイはふくれっ面で鏡を見るが同じく吹き出しそうになった。
何故かつけまつげをされ濃い化粧の男装の麗人みたいな男がそこにいたからだ。
「あっ、すみません。話に夢中になってたら余計な化粧をしてしまったずら」と眼鏡女子がテヘペロした。なんでこうなる、と思ったがディーノが楽しそうに笑っているのを見ると嬉しくなってレイも一緒に笑った。
普段通りな態度が自然にできてレイは心底ほっとした。
気を取り直して化粧を落とし髪だけを後ろになでつけた貴公子のようなレイと白いシャツにパンツのシンプルな姿でもモデルのように様になるディーノが二人並んで部屋を出て行くのをメイド四姉妹は溜息をつきながら眺めていた。
「どっちが下だろう」と鼻血を出していたメイドが呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます