第15話 桃木

 ジャックがくたびれた日本車でビルを後にした頃、鷹東うららが黒服の運転するベンツでビルの地下駐車場に入って行った。


桃木ももき、ちょっと頼まれて欲しい事があるの」


 運転席から降りようとした黒服の男がうららの言葉を聞き座りなおした。彼女の次の言葉を待つ桃木は銀髪の軽くウェーブがかかった髪を後ろでちょこっと結びサングラスをかけた一見カタギには見えない青年だが従順なその様子はさながらマテをする子犬のようであった。


「怜兄様の様子がおかしいの」


「前からおかしいっすよね」と桃木が丹精な顔から想像できない喋りで入ってきた。


「そんな事、分かってるわ。しばらく行方が分からなくて大騒ぎになったじゃない。それが突然パーティに出てて私の顔をみて逃げたのよ」


「怜さんはお嬢が苦手じゃないっすか」


「知ってるわよ。それにしたって変だわ。家には連絡が全くなかったのに会社には入院したってメールが入っていたそうよ。身内が知らないなんておかしいわよね。何かあると思わない?」


「前から家には連絡してないっすよね、おいらにも連絡がないんで心配っすけど」


「桃にも連絡がないの? これまでも女とホテルを転々として遊び歩いてたクズだったけど、今回のはちょっと違う感じがするのよ、これは、あれよ、女の感よ」


「……」


「聞いてる? この前、ラン・ホウジョウの店に行った時に怜兄様に会ったでしょ。あなたは車にいたから知らないでしょうけど。話したわよね、怜兄様があのレオナルド様と一緒にいたって」


「レオナルドって奴はお嬢を誘ったという命知らずのことっすよね。おいら今すぐにでもってきやすよ」


 桃木のサングラスの奥の目がきらりと光った。


「バカじゃないの! レオナルド様のエスコートを断るなんてあり得ないわ、そいういう話ではないの」


「どういう話なんすか?」


「もう、ほんと話きいてる? お兄様ったら私の事が分からなかったのよ。言葉遣いも変だったし。レオナルド様と知り合いだなんて聞いたこともないわ。とにかくお兄様の様子を探って頂戴。なんでもいいから気が付いたことを報告するのよ、分かった?」


「へい、了解しやした」


「はい、了解しました。でしょ」


「り」


「あんた、舐めてんのっ」


 うららは座席にあったクッションを手に持って桃木の頭を後ろからボコスカと殴る。


「うわっ、お嬢やめてくださいよ、髪が乱れるじゃないっすか」


「桃ってばクォーターで見た目だけはいいのに何でそんなチンピラみたいな話し方するのよ。恥ずかしいから他に人がいるときは黙ってなさいよ」


「了解しました、っす」と言って敬礼た桃木の顔にクッションが飛んでくる。


 殴られてしおれている桃木のずれたサングラスから長い睫毛の綺麗な目が覗くと「本当に残念なイケメンだわ」 とうららは溜息をついた。。




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