第8話 平和な朝 (1か月後)
居候を始めて一月が経った。
最近はレイとディーノの二人だけで朝食をとっている。最初のうちは毎日のように様子を見に来ていたニーコだが一週間もするとレイとディーノの間に心配するようなことはないと安心したのだろう。
ニーコにも仕事があるのでこっちにばかりかまってもいられないというのが本当のところだと思うがディーノのお目付け役でもあるニーコとしては異分子であるレイの事は心配の種であるはずだ。
ただレイが素直な性格だったのと一人暮らしが長いせいで家事全般が出来たお陰なのか人畜無害なメイドとして役に立つくらいには思われたに違いない。ニーコの態度も随分と優しくなった。
生活にも慣れてきたのかたまに鼻歌を歌いながら朝食を作っていたりして自分でも呑気だなと呆れてしまう。
ディーノは元から食にあまりこだわりがなく、それはレイも同じだったので朝食はその日の冷蔵庫の中身と気分で好きなように料理をした。ディーノは面白がったり感心したり、レイの作るものを毎回美味しいと褒めてくれるのでつけ上がってたまにおかしなものを出して笑われたりもする。
二人の生活はそれなりに楽しくてとても居心地がいいと感じているのはレイだけだろうか、ディーノもそうだったらいいなと思うのは俺もどうかしてるのかな。BLゲーム恐るべしだ。
「おはよう、レイ、何作ってるの? 美味しそうな匂いがする」
レイの後ろからもたれかかるようにしてディーノが覗いてくる。レイが顔を横に向けたらすぐそこにディーノの顔があって慌てた。ディーノは無意識に抱きついてきたり距離が近くて心臓に悪い。
「お、おはようディーノ。今日はクロックマダムを作ったよ」
「クロックマダム?」
「クロックムッシュに目玉焼きを乗せたのをクロックマダムって言うんだ」
「うーん、バターの香りがいいね美味しそう」
昨日のうちにいろいろと食材をリクエストして買ってきてもらい毎度の事ながらレイの食べたい物を作った。
レイがトマトが好きだと言ったらからかチェリートマトもあった。赤や黄色にオレンジとカラフルで甘くて凄く美味しかったのでヨーグルトサラダにした。
いつものようにコーヒーとカフェオレを淹れてくれたディーノと二人で向かい合って食べる。クロックマダムにナイフを入れると半熟の黄身が流れて食欲をそそった。
「うん、これ美味しい、レイは料理上手だよね」
「ほんとに? 良かったー」
照れくさそうに笑うレイを見てディーノがいつものように優しい笑顔を向けてくれる。まるで新婚夫婦みたいだとレイは気恥ずかしくなってその後は無言で食べた。
ドキマギしているレイがまだ食べ終わらないうちにディーノがスマホでなにやら検索をし始める。
一緒に食事をするときはスマホなどは一切見ないのに珍しいなと思いながらディーノを見ているとレイの視線に気が付いたのか、うん? という顔をこちらに向ける。上目遣いにまたドキッとしてしまった。
この場にニーコがいなくて良かった。きっとレイの様子を
「これから行く仕立て屋さんは予約がないと入れないんだけど三か月先までいっぱいでさ、知り合いに頼んで一緒に入店させてもらうことになったんだ」
レイの包帯が取れたので前に頼んでいた仕立て屋さんに問い合わせをしてくれたようだ。ちゃんと覚えててくれて嬉しい。やっぱりディーノは優しい。
「それって俺が一緒で大丈夫?」ディーノの知り合いなら悪い人ではないだろうが向こうが俺をどう思うか分からない。
戸惑うレイの気持ちを察したのか「気のいいやつだから大丈夫だよ。レイの事を少し話したら会ってみたいと言ってるし」と安心させるようにディーノはいった。
会ってみたい、それはディーノと一緒に住んでいる俺に興味があるということだろう。攻略キャラの一人かもしれない。とにかく行ってみるしかないと俺は腹をくくった。
この世界にきて初めての外出だが楽しみというよりは不安の方が大きい。だが命がある限り生きたいと思うのは人間として普通の感覚だろう、俺は死にたくない。だから出来る事はやる。
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