第4話 チリドッグは回復薬
「チリドッグまだあるよ、もう一個食べる?」
差し出されたチリドッグを礼は遠慮なくディーノから受け取って食べることにした。お腹が空いていては考える事もできないからなと自分でも図太いと思いながらモグモグと食べる。
口いっぱいの幸せを感じながら頭ではプレイしていたBLゲームの内容を思い出していた。
ディーノは表向きは何でも屋をやっているが本業は犯罪者(ほとんどがマフィア)相手に法外な報酬を取って商売している闇医者だ。何かの事情で医者にはなれなかったが知識は凄いという設定だった。
ニーコは確かディーノと同い年の26歳でイタリア系マフィアの幹部、自分の兵隊を持ち部下からの信頼も厚い攻略キャラの一人である。
二人の様子を観察して関係性をいろいろと想像するが直接聞いた方が話は早いだろう。ただどう切り出すか、ストレートに恋人同士ですかと聞くことはできないが見ている限りではまだそういう関係ではないように思う。
ボンヤリしてるといつの間にかソファベッドに並んで座っていたディーノがレイの手首に指を当て脈を計っていた。
それをチラ見しながらニーコがテーブルの上を片付け始め「それにしてもお前は軟弱な体つきだな、腰なんて細っこくて折れちまいそうだ」とまた小ばかにしたようにいう。
「でも抱き心地は悪くないと思うよ」とディーノがレイの腰に両手を回してふざけた様子で抱きついてくるのでレイは動けずに硬直する。いま脈を計ったら心拍数がとんでもないことになっているに違いない。即入院だ。
抵抗しないでいると「お前ら離れろ。お前はスキンシップが多すぎるんだよ」と何故かニーコが赤くなってディーノに吠えた。
ニーコはゲームでは攻略される側だがディーノに対する好意は隠せていない。傍から見ていると反応が可愛くてレイは笑ってしまいそうになる。多分だがディーノも分かってからかっているんじゃないだろうか。もしかしたら俺は当て馬なのか。
「レイ聞いて、ニーコなんかレイの裸を見て、色が白いな、とか言ってたんだよ」ぷっと笑いそうな顔でディーノが言うとレイはヒッと息をのんで両腕で自分の体を抱いてのけぞった。
「い、言ってねぇし。いや言ったけど、変な意味じゃねぇし、服を脱がしたのはお前が手伝えって言ったからだろ」
「俺が寝てる間に何したんですかっ」
「ん? 診察と看護」それが何かという感じでディーノは返事をした。
「僕は一応医者の心得はあるんだ。資格はないけど。ここに連れてくる前に協力してくれてる病院施設で脳の方は一通り調べたけど問題なかったよ」
「あ、ありがとう」とレイはディーノが闇医者であることを分かっているが知らないふりをして礼を言った。
「お前なぁ、普通ならどんだけ金がかかるか分かってるか? お前は当分その支払いの為にディーノの奴隷だぞ」
ことのほか嬉しそうにニーコが笑うのが憎かったが確かにアメリカの高額医療の話しは知っている。それ以前に闇医者なのだからもっと吹っ掛けられても仕方ない。
「俺、奴隷なの? 働いて返すのはいいけど売られるのはマジ勘弁です」レイは土下座をせんとばかりにソファベッドの上で頭をこすりつけた。
「あははは、そんなに怯えなくていいよ、売ったりしないから」
「いや、売るのはいい考えかもな。こいつ童顔だから変態の金持ちジジイが言い値で買ってくれるかも」ニーコは舌なめずりをしてレイを眺めたがディーノに足を蹴られて痛ってぇとうずくまった。
「勿体ない、売るわけないないよ。レイは今日から僕のものだからね」
「ふぇええっ?」
「はぁあああ?」
レイとニーコは同時におかしな声を出す。
「なんだよ、二人して。莫大な借金を背負ってるんだから文句ないでしょ。レイは奴隷ではないけど僕のものではある。意味わかるよね」
「全く分かりません」レイはディーノの所有物になったのは何となく分かったがそれがどういう意味なのかは理解できなかった。
「ふふふ、とりあえずは僕の助手から始めよう」
なんだそんな事でいいのかとレイは安堵しながら「いいけど、俺は医療方面はまったく分からないよ」とキョトンとして答えた。
「大丈夫。ニーコにだって出来るんだから」と横で事の成り行きをアワアワしながら見ているニーコに向かっていう。
「ニーコさんも医療の手伝いを?」と疑惑の目を向けるレイに
「お前の粗末なモノにカテーテルを入れたのは俺だ」と、ニーコが目をつむってやれやれという風に首を振ったがレイはそれを理解するのに3秒ほどかかる。
「そ、粗末なモノにカテーテルって、もしかして俺のに……」とレイは視線を下に向けた。
「うん、寝てる間に採尿したよ。 それに君のは普通サイズだよ、OK大丈夫」
真面目に答えるディーノにレイは耳まで赤くなったが何と返事をしていいかわからない。アメリカ人に普通サイズと言われたら喜ぶ場面なのだろうか。
こういうやり取りをするとやはりここはBLゲームの中なのだろうと確信してしまう。二人を交互に見やりながらレイはこれからどうしたものかと途方に暮れるのだった。
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