第57話 獣人の寮1

 俺はボロボロになった狩猟班を霊木の薬液で治療を行いながら何があったのか聞いてみると、パニックになった魔物の大軍が襲い掛かってきたのだと教えて貰った。


 狩猟班も獲物を捕らなくてはならないので、逃げる訳にも行かず必死に戦ったのだそうだ。


 本当にご苦労様ですと言ったのだが、次回からは来ないでくれと言われてしまった。


 そりゃあこんな目に遭ったら二度とご免なんだろうけど、なんか役立たずと言われているみたいでショックだった。


 それから運搬用ゴーレムを造ると、ベイン達が背中の荷台に仕留めた獲物を次々と載せていった。


 そして数匹分をその場で解体すると、それで昼食を取った。


 今回は大漁だったので帰り道の足取りも軽かった。



 大量の獲物を持ってパルラの北門まで戻ってくると、ここで一旦狩猟班と分かれる事にした。


 運搬用ゴーレムは図体が大きくて北門を通れないのだ。


 そこで重力制御魔法で浮かせると、そのまま娼館まで運んでいった。


 娼館に戻ってくると、運搬用ゴーレムに載せられた大量の獲物を見たチェチーリアさんに呆れられてしまった。


 1体は木の実とか茸を積んでいたが、他の運搬用ゴーレムは獲物を山のように積んでいたのだ。


 後でベイン達が手伝いに来てくれる事になっていたが、チェチーリアさんの機嫌がだんだん悪くなってくるので、急いで連れてきた方がよさそうだ。


 ベイン達は一旦塒に寄ってから来ると言っていたので、北西地区の外側にあるという彼らの塒の方向に向かって飛んでいった。


 すると、その方角から獣人達の喧噪が聞えてきた。


 何をしているのだろうとその方向に向かうと、怒り狂っているベイン達をトラバール達が止めているという構図が目に飛び込んでいた。


「貴方達一体何をしているの?」


 俺が声をかけるとオーバンがほっとした顔で俺の傍にやってくると、ベイン達の住処が人間達に焼き討ちにされたと話してくれた。


 そしてベイン達の後ろを見ると、そこには焼け落ちて跡形もなくなった残骸と焼けて黒くなった地面があった。


「ベイン、貴方達は他に住める場所はあるの?」

「ある訳無いだろう。何を呑気な事を言っているんだ」


 普段のベインの口調とは明らかに違う喋り方で彼が理性を失っている事が分かり、トラバール達がここで彼らを押し留めてくれなかったら、今頃は人間達との間で殺し合いになっていただろうと思われた。


 俺はベインの正面に立ち塞がり、その怒りに満ちた目をじっと目を見つめ返した。


「落ち着きなさい。貴方達の住む場所は私が提供しましょう。それなら良いでしょう」


 そう言うとベインの目から、怒りの感情が徐々に薄れるのが分かった。


「ユニス様、それを信じてもよろしいのですか?」

「ええ、勿論よ」

「分かりました」

「そう、なら娼館で獲物を解体するのを手伝ってください」

「え、あ、分かりました。それではご命令どおり、娼館に行って解体を手伝ってきます」

「あ、ベイン、貴方達は何人居るのですか?」

「俺達ですか、全部で165人です」


 そう言うと俺に一礼してから仲間を連れて娼館に向かってくれたようだ。


 それを見送っていると、不安になったのかオーバンが声をかけてきた。


「ユニス様、あんなことを言って大丈夫なのですか?」

「ええ、大丈夫よ。あ、そう言えば貴方達は何処に住んでいるの?」

「え、私達は闘技場の」


 オーバンがそこまで言って口を噤んでしまった。


 まさか、あの檻の中で生活しているというのか?


「まさかとは思うけど、闘技場の檻の中に居るの?」


 その質問に答えたのはトラバールだった。


「おお、そうだぜ。俺達には他に行くところも無いしな」


 失敗した。


 俺は彼らの生活に無頓着過ぎた。


 だが、どうやって建物を建てようか?


 そこで森林地帯を眺めながら木材だと加工に時間がかかり難しいと諦めたところで、錬成術でコンクリートを錬成する方法を思いついた。


 材料はアマル山脈に行けば採取できるので、何とかなりそうだった。


 前回は空を飛んだので山脈まで道は無かったが、これからは何度もアマル山脈まで素材を取りに来ることになるかもしれないので道を作る事にした。


 道を作ると言っても石畳の道を作るのではなく運搬用ゴーレムを歩かせるだけなので邪魔になる木を無くせばいいだけだった。


 そこで思い出したのがスクイーズという魔物だった。


 あの強烈な突撃で、全ての物を破壊する姿をイメージしたゴーレムを作成した。


 これでアマル山脈までの道を作るのだ。


 真っ直ぐ目的地までの道を作って行くと、戦国時代に武田信玄が整備した棒道という軍事道路を思い出した。


 あの後、森の中で紫煙草を栽培していたウジェ達に何処で寝泊まりしているのか尋ねたら、やはりあの継ぎ当てだらけの小屋で雑魚寝しているという事だった。


 まともに住む場所がないのは、ベイン達165名、トラバール達37名それにウジェ達59名の261名だった。


 幸いな事に全員独身者なので、集合住宅と言ってもアパートタイプじゃなくて寮での共同生活でも問題ないだろう。


 そしてアマル山脈で火山灰等の素材を採取すると、そのまま運搬用ゴーレムに出来立ての棒道を使ってパルラまで運搬させた。


 俺は一足先に娼館に戻ってくるとそこではチェチーリアさん達料理人とベイン達が、大量の獲物を解体して大半は塩漬けの燻製肉に一部は魔法で冷凍保存したそうだ。


 そこでベイン達に色々料理の仕方を教えて欲しいとお願いして、簡単な肉料理を教えてもらった。


 これでベイン達の食卓も豊になるだろう。


 それに大量に肉があるという事は、肉食が中心の獣人達にはとても安心出来る状況だろう。


 その日は皆で娼館の裏庭で、バーベキューパーティーを行うことにした。


 せっかくなので娼館に居るジゼルや他の人達も呼ぶことにして、ブルコやチェチーリアさんにも声を掛けてみたがブルコは断ってきた。


 そこで初めて知ったのだがブルコは男が嫌いなのだそうだ。


 まあ男の客が娼館の女性達に何をするのか毎日見ていたら、そうなるかもしれないな。


 俺の事も言動が男みたいだと言って胸を掴まれたが、あれも俺が変装していると思ったかららしい。


 それでもチェチーリアさん達料理人と、彩花宝飾店で助けたマウラ・ピンツァが参加してくれた。


 マウラは流石に男の獣人は怖いようで俺やチェチーリアさん達の傍から離れなかったが、参加してくれた事がとても嬉しかった。


 ベイン達は娼館の女性獣人を見てとても嬉しそうだ。


 やはり女性が居ると、華やかで会場も和やかな雰囲気になってとても良いなと思った。


 俺はバーベキューを楽しむ獣人達を見ながら、異種族間で普通に美味しい物を食べて楽しく語らう姿を思い浮かべていた。

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