第48話 一時の安息
町を攻めてきた辺境伯軍は、大量の負傷者を出して撤退していった。
静かになった門外で早速後片付けを始める事にした。
まずは壊されたゴーレムを補充し、それからカルトロップを新たに撒いて防御線を作り直すと、通れなくなった道路は幅30cm程の道を作って人の往来が出来るようにした。
作業にはベイン達も協力してくれたので日暮れまでには終了し、辺境伯軍が攻めてくる前の状態に戻っていた。
その頃にはすっかり疲れていたし、何よりお腹も空いていた。
そして帰ろうとしたところで起動しているゴーレムの足元に全身鎧の敵兵が跪いていた。
ああ、そう言えば降伏してきた兵がいたな。
この世界にジュネーブ条約があるはずも無く、戦いに負けた側は皆奴隷になるのだろう。
捕まった兵士達もこれから自分に訪れる運命がどれだけ苛烈なのかを想像しているのだろう顔が青かった。
俺は捕虜達の前まで行くと声を掛けた。
「貴方達は勇敢に戦いました。その戦いぶりは賞賛されるべきでしょう」
俺がそう言うと捕虜達は意外そうな顔をしていた。
敵でしかも人間ではない者に戦いぶりを褒められるとは、思ってもみなかったのだろう。
そして続く言葉を聞いて唖然となっていた。
「貴方達の勇敢さに免じて今回は釈放します。人が通れる道を開けてありますからパルラから出て行ってください」
捕虜達は最初言われて言葉の意味が呑み込めていなかったが、俺が南門を顎で示すと慌てて立ち上がると駆け出していった。
それを見ていたトラバールとオーバンが俺の元にやって来たので、俺の措置に不満があるのだろう。
「姐さん、良かったのか?」
「トラバール、何を言っているんだ。あれは不穏分子を中に入れない措置だぞ。ユニス様流石です」
俺はオーバンの顔を見ると、何も言わずに軽く頷いてみせた。
まあ、実際は面倒だからだったんだけど。
そう思ってくれるのならそれでいいだろう。
だが、訳知り顔で俺に微笑みかけるジゼルには、もしかしたらバレているのかもしれないな。
そろそろ娼館に帰ろうと考えていると、後片付けを終えたベインが俺の元にやって来た。
「ユニス様、この後皆で焼肉パーティーをするのですが参加してもらえませんか?」
ベインの誘いに答えたのは俺ではなくトラバールだった。
「おお、それは良いな。姐さん、行こうぜ」
そう言うが早いか、俺の手を掴むとそのまま引っ張って行くので仕方なく少しだけ付き合う事にした。
そこでは即席の竈が幾つも作られ、その上で串を刺した肉が炙られていた。
それを見た俺は、カルトロップを作った時に余った鉄で鉄板や網それに鉄串をでも作ってお礼として差し入れる事にした。
そして肉が焼けてきた頃合いで、ベインが今日くらいは良いでしょうと言いながら何処から手に入れてきたのか酒を出てきた。
酒と肉で盛り上がってくるとトラバールとオーバンが北門でも手柄話を話始めていた。
この2人はどうやらお互いをライバルだと認めているようだ。
そして競争相手だったシェリー・オルコットの事を思い出していた。
あの女には出し抜かれた事もあったが、見つけた宝の話をするのは楽しかった。
そんな事を考えていると隣に居るジゼルが俺に質問してきた。
「ねえ、どうして魔法を使わなかったの?」
急にそう言われたが、周りが先の戦闘の話をしているので、俺が辺境伯軍を相手に魔法を使わなかった事を言っているのだろうと推測できた。
「彼らはフラムとかいう魔法の盾で緑色魔法まで防いでしまうでしょう。黄色魔法なんかぶっ放したら私の賞金額が上がってしまうわ」
「ぶふっ、此処を占拠してるんだから、もう金額なんて関係無いでしょうに」
まあ、本当はジゼルの目の前で大量殺人をしたくなかったというのが本音なんだけど、
それは言わなくてもいい事だ。
だが、それを聞いた他の獣人達は驚いているようだった。
「姐さん、それで金額は?」
「確か百万ルシアよ」
すると周りから口笛を吹く音が聞えてくると、それからは自分なら金額は幾らになるかと言う話題で盛り上がっていた。
そろそろ頃合いだと思った俺は皆に声を掛けてからジゼルを連れて中座すると娼館に帰る事にした。
娼館では入口に人が居て、俺達が帰ってくるのを見ると直ぐに中に入っていった。
何だろうと思いながら中に入ると、そこにはブルコが腕組みをして待ち構えていた。
「遅い」
いや、いや、待ち合わせなんてしていませんよ。
俺が抗議しようとする前に腕を掴まれるとそのまま食堂に連れて行かれ、そこにはこの娼館で働く女性達が待っていた。
テーブルの間を通り厨房の前まで歩く間、椅子に座り、こちらに好奇な眼差しを向けて来る女性達の頭には色々な形をした獣耳が、尻にもさまざまな形をした尻尾があった。
俺はそれを眺めながら、触ったらきっとモフモフしてて気持ちいいのだろうなと想像していると、無意識のうちに目の前で揺れている尻尾を思わず掴んでしまった。
尻尾を掴まれた獣人は思わず飛び上がると、俺はすかさずブルコに頭を叩かれていた。
「何やってるんだい」
「すみません」
俺が素直に謝ると謝る相手が違うと言われ、尻尾を掴んでしまった獣人に頭を下げた。
そして俺をその厨房の前に立たせると早速ブルコが質問してきた。
「お前さん、勝ったのかい?」
ブルコの質問は至ってシンプルだった。
俺がそれに応えようとすると、隣に居たジゼルが俺を制して戦いの一部始終を集まった皆に語って聞かせていた。
完全にジゼルの独壇場で多少いや、かなりの誇張が入っているが間違いではないのでそのままにしていた。
するとジゼルの話を聞いた女性達が皆ほっと一安心するのが分かった。
「皆戦闘の行方が心配だったんだ。なんでさっさと帰って来て報告しないさね」
いきなり不満を言われたが、なんでも辺境伯軍が勝っていたら隷属の首輪を外した理由を必死に考えなければならなかったらしい。
それなら俺が無理やり外した事にしておけばいいのにと思ったのだが、疑り深い辺境伯がそれで納得するとは思えないそうだ。
すると闘技場に居た女性獣人達が俺の元にやって来た。
「あんた強いんだね。まさか勝ってしまうとは思わなかったよ」
そう言ってからやや俯いて両手人差し指を打ち合わせていたが、やがて意を決したのかこちらを見てきた。
「私達もあんたに賭けるよ。この首輪を外してくれないか?」
俺はそれに応えて8人全員の隷属の首輪を外した。
それから集まった女性達に色々聞かれたが一通り質問に答えたところで、そろそろ部屋に引き上げる事にした。
今日くらいはゆっくりしても問題ないだろう。
俺はブルコが割り当ててくれた部屋に戻ると、そのまま深い眠りについた。
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