第38話 戦準備2

 辺境伯軍を迎え撃つ準備は材料集めからとなる。


 俺はアマル山脈まで飛行すると、バラシュに教えて貰った坑道に入り鉄鉱石の鉱脈まで行った。


 そこで採掘作業をするゴーレムと運搬するゴーレムを作成した。


 そして鉄鉱石を錬成して鉄とそれ以外に分けると、鉄鉱石を素材にカルトロップを製造していった。


 出来上がったカルトロップを運搬用ゴーレムに積み込み一列に並ばせると、前のゴーレムの尻尾を噛むように命じた。


 そして重力制御魔法で重力をゼロにすると、手に持った紐を先頭のゴーレムに噛ませてそのままパルラまで飛んでいった。


 パルラに戻ってくると、製造したカルトロップをゴーレムを使って道路を除く城壁の周りに万遍なく敷き詰めていった。


 作業を監督していると、いつの間にかやって来たジゼルが俺の隣にいた。


 そしてゴーレムが撒いているカルトロップを一つ摘まみ上げると、鋭く尖った先端をじっと見つめてから俺の顔を見てきた。


 その説明してほしそうな顔に思わずほっこりしてしまった。


「これはカルトロップと言って、道に撒いて軍馬や歩兵の足に怪我を負わせる武器なのよ。4つの親指大のスパイクの1つが必ず上を向くでしょう。これを踏むと馬の蹄や人間のブーツ等簡単に貫いて足に怪我を負わせるのよ」


 俺が左手で持ったカルトロップの上に右掌を翳して、それが突き刺さるジェスチャーをするとジゼルは理解したようで頷いていた。


「相手を殺す道具じゃないのね?」

「そうね、軍隊というのは死者よりも負傷者が多く出た方が戦力が落ちるのよ」

「どうして?」

「怪我をしたら、救助する人員、手当をする人員それに後方に運ぶ人員等が必要になるでしょう。死んでしまえばそれらの人員は不要だから軍隊としては死んでくれた方が助かるのよ」

「だから負傷者を沢山作るのね」

「そう言う事。それにはこのカルトロップはおあつらえ向きの武器ということなの」

「ふふ、ビルギットさんとかはユニスが怖いって言っていたけど、私が言わせるとユニスはとっても優しいわよ」

「ジゼルは嬉しい事を言ってくれるのね」


 これは地雷原と同じ効果をもたらすので、敵はこの石畳の道以外からは侵入することが出来なくなるのだ。


 そして敵が攻めてくる方向が分かってしまえば、少数で防ぐことは可能だし、敵を纏めて屠れるので都合が良いのだ。


 上杉軍が妻女山で武田の別動隊を少人数で足止めできたのも、隘路で道を塞いだからだしな。


 まあ、結局武田の別動隊を押さえることが出来なくて、川中島の戦いは引き分けに終わったけどね。


 次は戦闘用ゴーレムの製造だ。


 パルラの門外では6体のゴーレムがスリープ状態になっているが、相手は5千だとするともう少し必要だな。


 俺が土を捏ねてそこに魔宝石を入れ錬成陣で魔力を込めると、瞬く間に戦闘用ゴーレムが出来上がっていった。


 それを俺の隣で見ていたジゼルがぽかんと口を開いた。


「それにしても凄いわねえ。これ全部動くの?」

「そうよ。自動で動くし、鐘の音で一斉行動も可能なんだ」

「ねえ、どうしてずんぐりむっくりなの?」


 戦闘用ゴーレムは、上半身が7割、下半身が3割というアンバランスな形だが、戦い方が接近戦での殴り合いなのでこれは理にかなった造りなのだ。


「相手と殴り合いをするんだから、こんなもんでしょ」

「でも足は遅そうね。騎馬が来たら追いつけないと思うけど」


 確かに足は遅いな。


 だが、この戦闘用ゴーレムには胸部カバーの中には発射装置があり、一度に200発の石礫を高速で発射できるのだ。


「一応、飛び道具もあるからなんとかなるんじゃないかな」

「ふうん、それでどれくらい作るの?」

「そうねえ。辺境伯軍は5千だから二十五体くらいかな」

「これ1体で2百人を相手にするのね」


 ジゼルの言葉に疑念が含まれている事を感じた。


 相手に比べてこちらの戦力が少ないと思っているのだろうが、これでも十分な戦力なのだ。


 試しに、鐘を作ってその音に従ってゴーレムが一連の動作をするのを見せて上げた。


「こうやって画一的な行動をする事で、効率的に対処できるようになるの。訓練された軍隊でも引けを取らないと思うわよ」

「へえ、面白いわ。これが戦争じゃなかったら、ゴーレムで見世物が出来るかもしれないわね」


 ああ成程、マスゲームの事を言っているんだな。


 この町には闘技場があるから、平和になったらやってみても面白いかもしれないな。


 出来上がったゴーレムは、パルラの城壁に沿って配置してスリープモードにしていった。


 これなら城壁のオブジェ位にしか見えないだろう。


 これが急に動いて攻撃してきたら、さぞ肝を冷やすだろうな。


 その時の俺の顔がよっぽどおかしかったのだろう。


 俺の顔を覗き込んだジゼルから「ユニス、貴女とおっても悪い顔をしているわよ」と言われてしまった。


 作業を終えたパルラの町の中に入ると、そこには初めて見る猫獣人達が待っていた。


 その敵かどうかも分からない一団の中から1人の獣人が一歩前に出ると、俺に話しかけてきた。


「この町で暴れているのは貴女ですか?」

「そうだと言ったら?」


 俺がそう言うと獣人達の間で何か空気が変わったような気がした。


 それはジゼルも感じたようで直ぐに俺に「敵意はありません」と耳打ちしてきた。


「私はベインと言います。私達は、町中の清掃と雑用をしています。闘技場の剣闘士達が出歩いている姿を見かけて尋ねてみると、貴女に従う事で隷属の首輪を外してもらったと言っていましたが、本当でしょうか?」

「ええ、本当です」


 俺がそう言うとベインと名乗った獣人は、後ろに居る仲間達を見て頷くと再び俺に話しかけてきた。


「皆で話し合ったのですが、私達も貴女の手下にしてもらえますか?」

「ええ、貴方達がそう希望するのなら叶えて差し上げますよ」


 ベイン達は、大人数で165人も居た。


 彼らは、この町のあちこちで清掃作、運搬、修理等の作業を行っているという事だった。


 それにしても何故こんなに奴隷獣人が居るのか不思議だった。


「こんなに大勢の獣人が奴隷になっているのは、戦争でもして負けたのですか?」


 俺がそう尋ねると、ベインと名乗った獣人は困ったような顔をしていた。


「詳しくは知りませんが、昔戦争があって負けたというのは聞いています」


 地球の古代史でも戦いに負けた民族は奴隷になっているから、この世界でも同じなのかもしれないな。


 そこで初めてこの町に来た時、森の中に獣人達が居た事を想いだしたのだ。


 パルラの北門は人1人がやっと通れる小さな門だが、これを潜って森に出るとそこには畑とその先に作業小屋があった。


 その小屋から獣人がひょっこりと顔を出すと、嬉しそうな顔でこちらに駆け寄ってきた。


 その顔には見覚えがあった。

 

「えっと、魔物から助けてくれた方ですよね? あの時は本当にありがとうございました。あ、申し遅れました、私はウジェと言います」

「私はユニスと言います。どうぞよろしくお願いします」


 そこで他の獣人にしたのと同じ提案をしてみると、皆で相談した結果、隷属の首輪を外す事になった。


 ウジェ達は、危険な畑での作業が無くなった事を喜んでいた。


 なんでも此処での作業は魔物の襲撃があり、とても危険なのだそうだ。

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