第36話 闘技場の獣人達2
レスキューが終わった後で、集まってもらった獣人達に今後の事を話すことにした。
「今この町は私が占拠しています。そして奪還のためにやって来た辺境伯軍に私を襲えと命令されたら、貴方達は私を襲うでしょう。私はその危険を排除するため、貴方達に2つの選択肢から選んでもらいます」
俺がそう言うと直ぐに不満の声が上がった。
「いきなりやってきて、何勝手な事言ってやがる」
「そうだ。いきなりな話で俺はさっぱり分からねえぞ」
まあ、いきなり現れてこんな事言われたら俺だって文句を言うだろう。
するとトラバールが立ち上がり低い声で静かに威圧した。
「お前達、少し黙れ」
トラバールは他の獣人達と比べても体格が良く他の獣人達に一目置かれているようで、その威圧で獣人達が静かになってくれた。
俺はトラバールに目で感謝の意を伝えると、右手の指を2本立ててから話を続けることにした。
「繰り返しますが、皆さんに提示する選択肢は2つです」
それから周りを見回して、改めて指を1本立てた。
「1つ目は、南門から今すぐ出て行くという案です。南門の外は恐らくドーマー辺境伯の軍隊が居るでしょうから、聞かれたら町から追い出されたとでも言ってください。後の事は貴方達のご主人様が決めてくれるでしょう」
俺の言葉が皆の頭の中に染み込んだのを確認してから、指を2本立てた。
「2つ目は、隷属の首輪を外して町から出て行くという案です。後は自分達で好き勝手にやって下さい」
俺がそう言って周囲を見回すと、先程俺に質問してきたオーバンと名乗った獣人が立ち上がり、俺の元までやって来るとそこで跪いた。
「ユニス様、私に3つ目の選択肢を頂けませんか?」
「それは何ですか?」
「この隷属の首輪を外して、貴女と共に戦うという選択肢です。私はこの命が尽きるその時まで貴女のナイトとして戦い、そして貴女の姿を見ながら死にたいのです」
これは驚いた。
初対面の相手にここまで言えるものなのだろうか?
いや待て、もしかしたら、この男は死に場所を求めているのかもしれない。
だが、実に男らしいじゃないか。
オーバンよ、お前かっこいいぞ。
残念ながら俺は負けるつもりはないので、その願いは叶えられないだろうけどね。
俺は目の前で片膝をついて跪く豹獣人の手を取ると、そのまま立ち上がらせた。
「ありがとう。その案を採用しましょう」
俺がそう言うと、今度は先程の獅子獣人が声を掛けてきた。
「俺もその3つ目の選択肢を選ぶぜ。よろしくな、姐さん」
姐さん? おい、姐さんなんて呼ぶな。
そんな風に呼ばれたら、俺はこれから道を極めなければならなくなるだろうが。
だが、そこで俺に疑問を投げかけてくる者がいた。
「ちょっと待ってくれ。隷属の首輪は持ち主にしか解除は出来ないんだぞ。1つ目以外の選択肢なんか、初めから存在しないと何故気づかない?」
うん、どういう事だ。俺は自分に嵌められた隷属の首輪を解除したぞ。
それなら百聞は一見に如かずだな。
外してみればいいのだ。
「オーバンさん、貴方の首輪を外します。良いですね」
俺がそう言うとオーバンが半歩前に出て隷属の首輪をつけた首を差し出してきた。
その首輪をダイビンググローブで掴むと、バシッという音を残して首輪が外れた。
「何故だ? 隷属の首輪には魔素を吸収する機能と、魔法の発動を無効化する機能があるんだぞ」
「へえ、そうなのですね。でも私には全ての魔素を吸収する魔法が使えますし、現にそれで首輪に付いている魔力結晶の力を全て吸い尽くしましたよ」
そう言って外れた首輪の内側を皆に見えるように掲げた。
そこには魔素を全て失い、砕け散った魔力結晶の残骸が付いていた。
それを見た獣人達は驚いて声も出ないようだった。
そんな時、女性の甲高い声がその静寂を破った。
「ちょっと待っておくれよ。あたいはここで男達にレスリングを見せるだけで命の危険は無かったんだ。それがあんたが来ていきなりそんな事言われても受け入れられる訳ないだろう。私の日常を返しておくれよ」
俺はもっともな意見だと思ったが、最早それは叶えられないのだ。
「酷い事を言うようだけど、それはもはや望めないのよ。申し訳ないけれど現実を見てください」
俺の言葉を聞いた女性の顔には怒りの他、戸惑いと迷いといった感情もあるように見えた。
俺がその女性と見つめ合っていると横からオーバンの冷静な声で遮られた。
「お前達は自由な生活を望まないのか? 今ならこのユニス様が実現してくれるのだぞ」
「たった一人で何が出来ると言うの? 相手は軍隊なのよ」
う~ん、そうすると首輪を付けたまま檻の中に入れて置くか?
そうすると檻の鍵を全部壊してしまったので、それを再作成する必要があるし、ここまで食料を運んでくるのも面倒だな。
それじゃ1つ目の選択肢ということになるか。
「それでは貴女達は首輪を付けたまま、南門から出て行ってもらうことになりますね」
俺がそう言うと、何故だか女達が皆真っ青な顔になっていた。
どうしたのだろう?
希望どおりドーマー辺境伯に保護してもらえるのに、何故青くなっているのだ?
俺が首をかしげていると、オーバンがその理由を教えてくれた。
「ユニス様、私の事は呼び捨てでお願いします。それと彼女達は、このまま南門から追放されると、勝手に逃げたと誤解されてドーマー辺境伯に殺されてしまう事を恐れているのです」
え、そうなのか。
俺はどうしたものかと考えていると、ジゼルが俺の服の裾を掴んできた。
ジゼルは俺を見て僅かに微笑むと、獣人女性の方を向いた。
「貴女達、そんな我儘は通用しませんよ。それにユニスの魔法は本物ですし、ユニスの作るゴーレムは強力です。ドーマー辺境伯の軍隊が例え1万来たとしても追い返してしまうでしょう。いい加減奴隷根性は捨てて自分の頭で考えなさい」
どうやらジゼルは俺の事を助けてくれようとしているようだ。
だが、そう言った後、ジゼルの体が震えるのがわかった。
かなり無理をしたのだろうと思い、俺はジゼルの体を優しく包み込むと震えが止まるまで、そのまま抱きしめていた。
後は自分達で考えるだろうと思い、俺は先に剣闘士の方を片付ける事にした。
「トラバールとオーバンは私と一緒に戦うそうです。貴方達はどうするのです?」
俺がそう尋ねると、他の剣闘士達は全員片膝を付くと俺に頭を下げていた。
「「「俺達も一緒に戦います」」」
剣闘士達は覚悟を決めたようだ。
後は8人居る女性獣人の対応だけだ。
俺は女性達が入れられている檻に向けて声を上げていた。
「貴女達の服を用意してきます。それまでに身の振り方を考えておいてね」
そして入口の見張りにゴーレムを配置すると闘技場を後にした。
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