第31話 パルラ制圧

 バンビーナ・ブルコが用意した部屋にジゼルを休ませると、ベッドに腰掛けてジゼルの乱れた髪を整えながらそっと声を掛けていた。


「もう大丈夫よ。ゆっくりと休んでいてね」


 それから広場から付いてきたゴーレムをそのまま護衛用として配置した。


 それから敵の本拠地に乗り込む準備を始めることにした。


 この保護外装は優秀だが、単身で敵地に乗り込むほど愚かではないのだ。


 そこでこちらの手勢として新たにゴーレムを8体作成した。


 それを見ていたバンビーナ・ブルコは目を見開いて驚いていた。


「お前さん、一体何体までゴーレムを作れるんだい?」


 何を言っているんだ。魔宝石があればいくらでも作れるだろう。


「必要であれば百体でも作れますが、それが何か?」

「驚いたさね。戻って来た子が広場でエルフが黄色魔法をぶっ放したと騒ぐから、何かの見間違いだろうと思っていたんだ。あんたのその赤い瞳は本物かい?」


「ええ、本物ですよ」


 保護外装の瞳が赤いには間違いないのだから本物だとは言ったが、海城神威の瞳は黒なので聞こえないように多分と付け加えた。


 するとバンビーナ・ブルコは一つ大きくため息をつくと、何か吹っ切れたような顔をしていた。


「なら、この娼館はあんたが好きなようにすればいい。お前さんが勝っている間は協力してやるさね」


 ふふん、それは負けたら手の平を返すという訳か、だが、こうやって態度を鮮明にしてくれる人間はある意味信用出来るとも言えた。


「ええ、それで結構です。私は負けるつもりはないので、ずっと協力してもらえますね」


 そう言ってにっこり微笑んでやった。


 娼館の護衛には先に作成しといた2体をそのまま残し、新たに作った8体を引き連れて領主館に向かった。


 途中、その威圧的な姿に圧倒された獣人や人間達が逃げて行った。


 領主館は娼館の西側にあり、広大な敷地を囲むように壁が周囲を覆っていた。


 俺達が辺境伯館に到着すると、既に正面の門は閉じられていて、その先にも人影は無かった。


 正面扉は鉄製でかなり重厚な造りになっていた。


 1体のゴーレムに門の破壊を命じると、その大きな右腕を振りかぶり強烈な一撃を叩き込んでいた。


 ゴーレムの剛腕が門にぶち当たると周りに轟音が響き、壁全体が振動したようだった。


 門の方は原型をとどめていない状態で、隙間から中庭の一部が覗いていた。


 ゴーレムが次の一撃を放つと、鋼鉄製の門はヒンジ部分が弾けてそのまま邸内に吹き飛んでいった。


 そのまま敷地に侵入したが特に抵抗も無かったので、領主館から一望できる場所に8体のゴーレムを並ばせてこちらの戦力を誇示してやった。


 そして人道主義者の俺は一応降伏勧告を行った。


「館の中に居る連中に警告する。今すぐ館を放棄してこの町から出て行くように。抵抗する場合は生命の保証はしないぞ」


 館からは攻撃して来なかったが、裏からは非戦闘員とおぼしき使用人達が逃げて行った。


 館の敷地内には本館とおぼしき3階建ての建物のほか、右側には倉庫、裏手には厩舎や井戸があるようだった。


 倉庫の前では幌付きの馬車が止まり倉庫から何か荷物を運び出している最中で、馬車のまえには護衛が現れ、こちらに剣を構えていた。


 正面の本館の扉は固く閉ざされていて倉庫の護衛を援護するつもりはないようだったので、先に倉庫の方を片付ける事にした。


 味方のゴーレムが倉庫に向かうと、こちらを警戒していた護衛は剣を投げ捨てて逃げて行った。


 それを見た馭者や荷役夫達も慌てて逃げ出し、放棄された馬車にはゴーレムを怖がりその場から動けない馬が繋がれたままだった。


 倉庫の中には湿気防止のためか足の高い台が設置されていて、その上に乾燥した葉が保管されていた。


 その葉の匂いは、この館に招待された時に嗅いだ匂いに似ていた。


 運び出そうとしていたのはこの葉で間違いなさそうだ。


 余程貴重な物なのだろう。


 それから改めて倉庫を確認すると、そこには酒が大量に保管されていた。


 これは後で持ち帰る事にしよう。


 倉庫の検分が終わったので、本命である本館を攻略することにした。


 本館1階の扉も、ゴーレムが殴りつけると簡単に吹き飛んだ。


 本館内は1階ロビーが吹き抜けになっており、2階の手すりからは複数の護衛が弓を構えていて、ゴーレムが中に入って行くと一斉に矢が飛んできた。


 普通の矢がいくら飛んできても、ゴーレムには損害を与えることは出来ない。


 矢が当たりえぐれたとしても、また土で補強すればいいだけなのだ。


 ゴーレムは動きを止めると、それぞれ2階の手すりに体を向け胸の扉を開いた。


 そこには格子状の穴が開いており、一気に石礫を発射していた。


 2階の弓兵は無数の石礫に穴だらけにされて絶命していった。


 その後静寂が訪れたが、魔力感知でまだ各部屋に敵が隠れているのが分かっていたので、ゴーレム達に掃討を命じた。


 ゴーレムが部屋の制圧に向かうと、いくつかの部屋からは剣を持った護衛が切りかかってきたが、抵抗できたのは不意打ちでゴーレムに剣を突き立てるまでで、その後は無力化されていった。


 1階の制圧が終わったところで、2階と3階には敵の反応は無かった。


 制圧後、改めて領主館の構造を調べてみると、1階には応接や大食堂と厨房それに会議室があり、2階は客室が並んでいた。


 そして3階には、この館の主人の部屋と思われる豪華に装飾された部屋があり、クローゼットには高級生地を使った服が並び、引き出しの中には大粒の宝石類が並んでいた。


 館の地下には頑丈そうな扉に守られた金庫室があった。


 ゴーレムに命令して扉を破壊させると、中にはこの町の管理運営に関する書類や奴隷の購入書類等の他に大量の金貨が見つかった。


 俺はその金貨を見て、これを持ち帰る事が出来たら借金を全部返済して、俺の店も持てるんだがなあと考えていた。


 まあ、帰る方法が見つからないので無理なんだがね。


 館を制圧して確保した戦利品は、運搬用ゴーレムを作成してそれに積み込むと仮宿にしている商館に運ぶことにした。


 地下金庫で見つかった金貨は、運搬用ゴーレムとは別にゴーレムの貯金箱を作りその中に詰め込んで他の物とは区別した。


 作業が済むと、今度は南門に向かう事にした。


 南門は観音開きの大きな門で大型馬車同士が余裕ですれ違えるような幅があった。


 そして門の内側には受付と衛兵の詰め所、生垣の先には兵舎もあったが、既にもぬけの殻だった。


 兵舎の中は慌てて逃げたのか色々な物がそのまま放置されていた。


 南門から先には石畳の道路が真っすぐ先まで続いていた。


 敵の反撃があるとすればこの道の先からやって来るのは明白だった。


 俺は戦闘用ゴーレム6体に、外部から武器を持って侵入しようとする者を排除するように命令を与えてスリープモードにした。


 こうしておけば動力である魔宝石の節約にもなるし、敵には不意打ちを与える事が出来るだろう。


 それから門は空け放した状態で放置した。


 こうしておけば、この町から逃げたい人はそのまま逃げられるからだ。

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